第24話:召喚スキル

 町の門から草原フィールドへ出ようとした時だった。

 前方の離れた位置に杖をつきながら歩く少女の姿が見えた。その少女は年寄のように杖をつきながら歩いていた。

 まだ若い少女なのに珍しい光景だと思っていたが、それ以上に目を引く存在があった。

 それは肩に乗っている生物である。


 少女は俺達とすれ違い、町の中へと歩いて行った。


「な、何あれ? あの人の肩に何か乗ってたけど……」

「鳥に見えましたけど……」


 そう。さっきの少女の肩には少し変わった鳥のような見た目をしたモンスターが乗っていたのだ。


「へぇ。珍しいな。ドラモじゃねーか」

「ドラモ? あの鳥の名前?」

「うん。正式名称は〝ドラゴンモドキ〟っていうんだ。略してドラモ。見た目がドラゴンに似ているからそう呼ばれている」

「へぇ~」


 さっきの鳥は頭に小さな角が生えており、羽も竜の鱗みたいなデザインがされていた。

 見た目は小さなドラゴンみたいな格好をしているが、一応ドラゴンではない。あれでも立派な鳥なのだ。

 だからドラゴンモドキと呼ばれている。


「ドラモはなかなか優秀だぞ。知能も高くて戦闘も強い。頼れるモンスターだよ」

「そうなのね。でもなんでそんな強そうなのを連れているの?」

「召喚スキルで召喚したんだろうな。それで当たりを引いたんだな」

「召喚スキル?」

「ああ。杖系統にそういうスキルがあるんだよ」


 杖系統のスキルは豊富で様々なものが存在する。その内の1つが召喚と呼ばれるスキルだ。

 召喚すれば一緒に戦ってくれるので、単純に考えても戦力が2倍になる。うまく操ればそれ以上の力を発揮できる。


「もしかして私でも習得出来ますか?」

「もちろん。割とあっさり覚えられるぞ。でも今は止めとけ」

「ど、どうしてですか? 便利そうに思えるんですけど……」

「難しいんだよ。召喚すればオートで何もかもしてくれるわけじゃない。ある程度は召喚モンスターを操る必要があるんだ」


 そう。放置していれば何でもしてくれるというわけでは無いのだ。

 ある程度は自分の意志で行動してくれるが、細かい事はいちいち指示してやる必要がある。


「ただでさえ自分のことで忙しいんだ。そんな状況でいちいちモンスターに指示する余裕があるのか?」

「そ、それは……」

「やるならもっと慣れてからにした方がいい。初心者が手を出していいスキルじゃないからな。意外と面倒なんだよ召喚は」

「なるほど……」


 召喚は戦略が広がって楽しくはあるが、しっかりコントロール出来ないとただの足手まといにしかならない。

 モンスターを操作している間に自分がやられてしまいましたー……なんてことになったら笑えないからな。


「ま。選択肢の1つに入れるのも悪くない。将来召喚スキルを取るかもしれんからな。こういうのもあるってのを覚えておくといい」

「分かりました。参考になります」


 しかし召喚か……

 そういや最近は召喚使ってなかったからすっかり忘れてたなー

 ふーむ……あ、そうだ。


「丁度いい。お前にも召喚スキル見せてやるよ」

「い、いいんですか?」

「どういう感じなのか知っておくのも悪くないからな。見本を見せてやるよ」

「是非見てみたいです」

「ここじゃあれだから狩場まで行くぞ」

「はい」


 ここだと目立つので離れた場所まで移動することにした。




 訪れたのは森の入り口だ。しかしここはボア系のモンスターが生息している森とは違う場所だ。

 この森はセレスティアより更に遠くにある所で、また違ったモンスターが生息しているのだ。


「ここらでいっか。少し離れていろ。召喚するから」

「分かりました」

「楽しみね」


 2人が下がったのを確認してスキルを発動させる。


「行くぞ――《召喚》!! 出てこい! マンタ!」


 地面が光り輝き、モンスターの姿が現れ始めた。

 そのモンスターは2メートル無いか程度の大きさで、宙に浮いていた。


「な、何なのそれ!?」

「こ、こんなの見たことないです……」


 モンスターの姿は一言で言うと平べったかった。しかし上から見るとそれなりの面積がある。

 こいつは陸では絶対に見ることが無い種類だ。普段は海に生息しているはずの種類だからだ。


 だがそいつは水が無いのにも関わらず、空中に漂っている。

 あたかも水中にいるかのようにヒラヒラとヒレ・・を動かしている。


 そいつは海に生息するあの生物そっくりだった。


 このモンスターの正体は――


「こいつはエイそっくりだろ? だからマンタって名付けたんだ」


 そう。このモンスターはエイ型のモンスターなのだ。

 水が無くても空を飛べるタイプだ。


「へ、変なのー。こんなの見たことないわ……」

「すごく平べったいんですね。なかなか面白い姿だと思います」

「だろ? 意外と愛嬌あるだろ?」

「う、うーん……そうかも……?」


 少し微妙な顔をするラピス。

 まぁ見たこと無かった生物だからこんな反応になるのも無理ないか。


「で、でもどうやって戦うの? 戦ってる姿が想像できないんだけど……」

「ぶっちゃけ戦闘は大して強いわけじゃないよ。正面から戦えば大して脅威にならん」

「そうねのね」

「でもなこいつには3つの能力があるんだ」

「3つの能力?」

「そうだ。なかなかえげつない能力してるぜ?」


 こいつの真価はその能力にある。

 能力のお陰でかなり評価されている部分があるからな。


「1つ目の能力。それはな……実際に見た方が早いな。マンタ!」


 俺が指示すると、マンタの姿がスゥー……っと消えていった。


「え!? き、消えていく!?」

「どんどん見えなくなっていきます……」


 徐々に姿が見えなくなり、背景と完全に同化してしまった。


「これが1つ目の能力。それがこの〝ステルス化〟だ」

「す、すごいわ。全然見えない!」

「どこに居るのか分からないですね……」

「ふふふ。そうだろう。これで相手に姿を見られずに行動できるわけだ」


 これだけでも十分厄介だが、さらにエグい能力がある。


「そして2つ目の能力。それは〝ステルスアタック〟だ」

「どういうこと?」

「こいつはな特殊な超音波で攻撃するんだよ。しかも音も聞こえない。だからこいつの攻撃は見えないし聞こえないんだ。だからステルスアタックなんだよ」

「へ、へぇー。それってかなりやばいんじゃ……」

「だから言っただろ? えげつないって」


 自身もステルス化で見えなくなる上、攻撃そのものもステルスという2段構え。

 だから攻撃されていても気が付かず、気づいた時にはHPが真っ赤……ということもありえる。

 このことからサイレントキラーとか呼ばれていたりする。


「た、確かにすごいわね。弱そうだと思っていたのに怖くなってきたわ……。見えないんじゃどうしようもないじゃない……!」

「ふふふ。外見で判断しないほうがいいぞ?」

「こんなのと遭遇したら勝てないわね……」

「だが驚くのはまだ早い。まだ3つ目の能力がある。ぶっちゃけ3つ目が一番やばい。ステルスアタックがオマケに思えるレベルだ」

「ごくり……」

「聞いて驚け。こいつの3つ目の能力はな――」


「グオオオオオオオオオオ!」


 な、なんだ?

 どこかで叫び声が聞こえたぞ……

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