第20話:変異種

 一部のモンスターには『変異種』と呼ばれる種類が存在する。

 変異種は通常よりもサイズも大きく、ステータスも高く設定されている。特にHPは3倍以上高いことも珍しくない。

 そういうモンスターはレアモンスターなどと呼ばれている。


 レアモンスター――通称レアモンであるグレートボアは今まさに俺達のことを睨んでいた。


「に、逃げるわよ! あんなの勝てっこないわ!」

「あわわ……」

「フィーネ! しっかりして! 早く逃げないと殺されるわよ!」

「……! う、うん! ゼストさんも早く!」


 2人はすぐにでも逃げようと走り出そうとしていた。

 だが――


「何言ってんだ。アレ倒すぞ」

「「え、えええええええええええ!?」」

「せっかく遭遇できたんだ。レアモンは探すのに苦労するんだぞ。倒さなきゃ勿体ないだろ」

「そ、そういう問題じゃないわよ!?」

「逃げましょうよ! あんな大きいの無理ですよー!」


 グレートボアは見た目のインパクトがすごい。

 特に2つの牙がかなり大きく、巨大な槍を構えているようなもんだ。

 軽自動車並みの大きさであるヘビーボアが可愛く見えるレベルだ。

 もはや大型のダンプカー並の大きさである。森の主と呼ぶに相応しい。


「大丈夫だって。グレートボアの動きはヘビーボアと似たようなもんだし。なんとかなるだろ」

「無理無理無理無理無理無理無理! 無理よあんなの! どう考えても倒せそうにないわ!」

「そうですよ! いくらゼストさんでも無茶ですよ! 考え直してください!」

「えー」


 しがみ付いて必死に説得してくる。

 けど俺は諦める気は無かった。


「ブオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッ!」

「「ひぃっ!?」」


 グレートボアの雄叫びで周囲が震える。

 こうして対峙するとほんと迫力があるんだな。


「向こうもやる気みたいだぜ? 俺がなんとかしてやるから。とりあえず戦ってみようぜ」

「うう……なんでこんなことに……」


 2人には刺激が強すぎるかもしれんが、これもいい経験になる。

 どうせいつかはあのレベルのモンスターが出てくるわけだしな。


「ど、どうしよう……」

「……仕方ないわね。ならやってやるわよ! やればいいんでしょ!」

「お姉ちゃん!? 本当に戦うの!?」

「だってゼストがやる気なんだもん! 仕方ないじゃない! こうなったらやってやるわよ!」

「そ、そうだね……」


 うんうん。やる気が出てきたみたいでよろしい。


「じゃあ頼んだぞ。俺が前に出るから援護よろしく」

「わ、わかったわ!」

「怖いけど……頑張ります……!」


 ラピスが弓を構え、グレートボアに向かって矢を放つ。


「やぁ!」


 矢は胴体に命中……………………したかに見えた。


「う、嘘……弾かれた!?」


 矢は胴体に当たったが、弾かれて刺さることはなかった。


「な、なら私のスキルで……! 《ファイヤーアロー》!」


 フィーネのスキルが発動して火の矢が発射された。

 だがグレートボアは首を器用に動かし、牙で火の矢をかき消してしまった。


「!? そ、そんなぁ……。私のスキルがあっさりと……」

「やっぱり無理よ! あたし達の攻撃が効かないわ! 逃げましょう!」

「私達では勝てないですよ! ゼストさんも早くこっちに……!」

「んーむ。さすがにレベル不足だったか」


 本来ならレベル30ぐらいは欲しい相手だったからな。

 2人はまだレベル5だし、ステータスも武器性能も足りないようだ。


「さぁ早く逃げましょう!」

「ゼストさん!」

「じゃあ俺1人で戦うから。お前らはそこで隠れていろ」

「え、ちょ――」


 呼び止められる前に走り出す。

 グレートボアは俺を睨み攻撃しようと首を動かす。


「甘い!」


 それを回避してから胴体に接近して左ストレートで攻撃した。


「食らえ!」


 だが拳は通らず、弾き返されてしまった。


「かってぇ!」


 防御力が高すぎて通常攻撃が通らないか。タイヤを殴ったような感触だった。

 レアモンはステータスが高く設定されているからな。

 さすがに今の俺だときついか。


「ほ、ほら! やっぱり無茶よ! いい加減逃げましょう!」

「そうですよ! このままだとゼストさんが……」


 ふーむ。並の攻撃ではダメージが通らんか。

 仕方ない。アレを使うか。


 再び胴体に向き合い、両手を当てる。

 そして――


「これならどうだ! 《発勁はっけい》!!」

「ッ!?」


 グレートボアの胴体に衝撃が走り、わずかに揺れた。


「う、嘘……効いてる!?」

「すごい……」


 発勁は格闘系スキルの1つだ。

 威力は飛びぬけて高いというわけでは無い。

 だがとある効果が付いているのだ。


「発勁はな。防御無視攻撃なんだよ。いくら分厚い装甲をしてようが関係ない。当たればほぼ確実にダメージが通る」

「な、なるほど。そんなスキルがあったのね……」


 グレートボアは何が起きたのか分かっていないだろう。しかし俺が何かをしたということは理解しているはず。

 となればヘイトは俺に向かってくるはず。


「ブオオオオオォォォ!」


 俺に顔を向け、牙で攻撃しようと動いてきた。


「おっと危ない」


 それを避けて再び胴体に接近する。


「もういっちょ! 《発勁》!!」

「ッ!?」


 スキルで攻撃すると体勢がわずかに崩れた。

 だがすぐに体勢を整えて俺に襲い掛かる。

 それを回避してからまた近づき発勁を食らわす。


「チッ。しぶといな」


 けど致命打にならず倒れる気配が無い。

 レアモンはHPが高いからな。さすがに発勁だけで削りきるには骨が折れそうだ。

 このままだとらちが明かない。


 それならば――


「な、なにやってるのよ!? 振り落とされるわよ!?」


 俺は胴体にしがみつき、グレートボアに登ることにした。

 そこから頭付近まで体毛にしがみ付きながら到着する。


「これならどうだ――《天威振盪徹》!!」


 頭部に向けてスキルを直撃させた。

 すると……


「……ブォォ……ォォォ…………」


 グレートボアはユラユラと揺れ始める。

 そのまま少しだけ前に進むがしばらくすると止まり、横に倒れてしまう。


「た、倒した……?」

「信じられない……」

「いやまだだ。今のは気絶スタンスキルだからまだ生きてる」


 そう。今のは相手を気絶スタンさせるだけのスキルなのだ。

 普通にやりあっても倒すまでに日が暮れてしまいそうだからな。

 だから大人しくしてもらった。


「さっさとトドメ刺すぞ。お前らも手伝え」

「だ、大丈夫なの?」

「目を覚ます前にやるんだよ。早く手伝え」

「う、うん……」


 2人に性能のいいナイフを渡し、グレートボアの息の根を止めることにした。

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