第15話:それぞれの戦闘スタイル

 次の日。

 朝起きてから俺はベッドに腰かけ、正面にいる2人に話しかける。


「さて。んじゃ今日から冒険者としてやっていくわけだが……まずはスタイルを決めようか」

「スタイル? 何それ?」

「戦闘スタイルと言えばいいか。つまりどういう戦い方にするかを決めるんだ」


 ゲーム的に言うならばジョブ決めって感じだろうか。

 だがこの世界にはジョブみたいな概念は存在しない。だから使用する武器毎に習得できるスキルが決まっているのだ。


「今決めないといけないんです?」

「ああ。これは最初に決める必要がある。これによって今後、戦い方が違ってくるからな。だから一番最初に決めておきたい」


 非常に重要なことだからな。

 これを決めないと色々と面倒になる。


「まずはラピスから決めようか。お前はどういうスタイルがいい?」

「う、う~ん……いきなり言われても……何も思いつかないわ……」

「ふむ。じゃあ言い方を変えよう。どういう武器を使いたい?」

「武器ねぇ……やっぱり剣かしら?」

「どうしてそう思う?」

「フィーネを守ってあげたいもの。ならあたしが前に立ってフィーネに敵が向かわないようにしたいわ」

「お姉ちゃん……」

「ふーむ」


 なるほど。典型的な前衛スタイルか。

 まぁ悪くはない。


「武器と言っても複数ある。剣、斧、槍、弓、杖。あとは格闘か。これらの系統に分かれているんだ」

「い、いっぱいあるのね……」

「純粋に前衛がしたいのなら槍とかでもいい。リーチが長くて範囲が広いからな。威力も悪くない」

「う、う~ん……」


 腕を組んで悩むラピス。


「後から変えることは出来ないかしら?」

「オススメはしないな。何故ならスキル習得に関わるからだ」

「スキル習得に? どういうこと?」

「剣なら剣のスキル。槍なら槍のスキル専用のスキルがあるんだ。一部武器関係なく発動できるスキルもあるがな。あれもこれもスキルを取っているとSPスキルポイントが足りなくなる」

「すきるぽいんと? 何それ?」

「スキルを習得するために必要なポイントだ。これがないとスキルが習得できないんだ」

「へぇー」

「なにより『熟練度』を上げたいからな。やはり特定の武器をメインに使うべきだ」


 熟練度は凄まじく重要なシステムだ。

 これを知っているかいないかではかなり変わる。


「熟練度? なによそれ」

「まぁ今は気にしなくていい。そういうのがあるってのを頭の片隅に置いとくだけでいい。とにかく、メイン武器は固定したい。他の武器を使うのはもっと後からでいい」

「……やっぱり何も思いつかないわ。武器なんて使ったことないもの」


 ふーむ。初心者に今すぐ決めろと言うのは酷だったか。


「そうだな……ならば……弓とかどうだ?」

「弓? あたしが?」

「そう。ラピスはフィーネのことを守りたいんだろ?」

「そうね」

「ならある程度自由に動ける弓がいいと思う」

「弓ねぇ……」


 深く考えずに言ったがこれはいいかもしれん。

 ラピスは弓で立ち回るほうが活躍しそうだ。


「弓ってのはポジション的にいうなら〝中衛〟タイプだな。前衛より後方だが、後衛よりも前に出ることが多い」

「なるほど……」

「後衛に敵が迫った時に前衛より早く対処が出来る。これならフィーネを守りつつ戦うことができるぞ」

「たしかにそれはいいわね」

「さらに万が一、前衛がやられた時に、一時的に前衛代わりになることも出来る。そんな感じで割と自由が利くスタイルなんだ」

「…………」


 ラピスは少し考えた後フィーネに向き合った。

 そして決心したのか再び俺に向いた。


「決めたわ! あたしは〝弓〟を使うわ! これならフィーネの近くで戦えるもんね!」 

「お姉ちゃん……!」

「よし決まったな。じゃあ次は……弓のタイプを決めようか」

「え゛……まだあるの?」

「うん。弓には2パターンあるんだ。それも決めよう」

「…………」


 ラピスの笑顔が固まる。


「そ、それも今決めないとダメ……?」

「出来れば今決めた方がいい」

「…………」

「なーに。すぐ終わるさ」


 弓の場合はシンプルで分かりやすい。

 少なくとも他の武器よりは。


「弓は大きく分けて2つのタイプに分かれる。1つは〝アサルトタイプ〟。連射が効く代わりに少し威力が低めだ。もう1つは〝スナイパータイプ〟。威力は凄まじいが連射できない。こんな感じ」

「どっちが強いの?」

「どちらも一長一短だから一概に言えんな。ちなみに武器も違うぞ。見せようか?」

「う、うん。見てみたいわ」

「あいよ」


 インベントリから弓を探し、2つの武器を取り出した。

 片方は一般的なサイズだが、もう片方はかなり大きいサイズだ。


「ほら。持ってみろよ。こっちがアサルトタイプ用だ」

「これが弓かぁ……」


 慣れない手つきで弓を構えるラピス。

 けど意外と様になっている気がする。


「こっちのスナイパー用の弓も持ってみるか?」

「お、大きいわね……」

「お姉ちゃんよりも大きいかも……」


 スナイパー用はかなり大きく、ラピスの身長ぐらいある。


「さすがにこんな大きいのは持てないわ……」

「ならアサルトタイプで決まりだな」


 というわけで、ラピスのメイン武器は弓(アサルトタイプ)というスタイルで行くことに決定した。


「あとはサブウェポンだな」

「ま、まだあるの?」

「メイン武器は弓でいいが、もう1つ予備に持っていたほうがいいぞ」

「ち、ちなみにオススメは?」

「そうだな。一番オーソドックスなのは短剣かな」

「じゃあそれで……」


 投げやりな感じだったが……まぁいいか。こっちは後で修正がきくからな。


「さてラピスの方は決まったな。次はフィーネだ」

「は、はい」

「お前は何の武器がいい?」

「え、えーと……」


 考え込むフィーネ。

 すると隣にいるラピスが何か思いついた様子でフィーネに向き合う。


「フィーネは杖がいいんじゃないかしら?」

「杖……」

「それはいいかもな。杖は後衛に向いている・・・・・し、サポートスキルが豊富だ」

「…………」

「ラピスをフォローしながら戦うならうってつけだと思うぞ」


 フィーネは少し考えた後、決意した表情で正面を向いた。


「分かりました。私は杖を使います」

「OK。フィーネは杖系統で決定だな。じゃあどういうタイプにするのか決めようか」

「やっぱりあるのね……」

「当然だ。どの武器系統にも色々なタイプが存在するからな」


 ウンザリした様子で見つめるラピス。

 そんな様子も気にせず話を進める。


「とはいっても杖系統はかなり奥が深い。何故ならからだ」

「何でもですか……?」

「そうだ。杖系統は一番習得できるスキルが多いんだ。それだけスキルの種類が豊富ということになる。けどあれもこれも習得するとすぐにSPスキルポイントが枯渇する。だから今からどういうスタイルにするのか決めるのが重要なんだ」


 やろうと思えば杖で前衛っぽい動きをしたり出来るし、あえて支援スキルを取らずに攻撃スキルのみにしたり、またはヒーラーのような動きをすることも可能だ。

 このようにあらゆる可能性を秘めている。

 それが杖系統なのだ。


「フィーネはどういうタイプになりたい?」

「これも最初に決めないとダメですか?」

「出来ればな。何も考えずにあれもこれもスキル習得すると、ただの器用貧乏になってしまう。それだけは防ぎたい」

「う、う~ん……」


 悩み続けるフィーネ。

 しばらく待ってみたが、答えが見つからない様子だった。


 まぁ無理もないか。

 杖系統のスキルは慣れたプレイヤーでも悩むぐらいだしな。

 それぐらい複雑なのだ。


「ご、ごめんなさい。今は思いつかないです……」

「そうか。それなら………………保留ってのはどうだ?」

「保留……ですか?」

「ああ。杖系統のスキルってのはマジで複雑なんだよ。これといって正解が存在するわけじゃない。だからあえてスキルを習得せずにSPスキルポイントを余らせておくんだ。こうすれば自分がなりたいプレイスタイルを思いついた時にスキルを習得できる」

「な、なるほど……」

「器用貧乏にならないように俺がサポートするし。それでいいか?」

「は、はい! ゼストさんにお任せします!」

「おっけー」


 ようやく決まったな。

 ちと時間かかったが大事なことだ。


「ラピスのメインは弓でサブは短剣。フィーネは杖で決まりだな」

「あれ? フィーネのサブは決めないの?」

「さっきも言ったが杖の習得スキルは多いんだよ。いちいち他の系統のスキルを取ってる余裕が無い。だから杖だけは杖一本で十分やっていける」

「なるほどねぇ……」


 方針決まったことだし。

 あとは実践だな。

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