第14話:サンドイッチ
「諸刃の剣? どういうこと?」
「いやなんでもないさ。とにかく俺に付いてきてくれ」
「どこ行くの? ずっと街の中歩いてるけど……」
「すぐに分かるさ」
スラム街から出た後にとある場所を目指して移動することにした。
俺があの男にプレゼントした〝ブラッディソード〟だが、あれにはちょっと秘密がある。
攻撃力は非常に高いにも関わらず、適正レベルはなんと1なのだ。
レベル1から装備すれば無双に近いことが可能だろう。
だがそれ故に、厄介な性能をしているのだ。
それがアビリティに付与されている能力である。
これがブラッディソードの性能だ。
――――――――――――――――
□ブラッディソード
攻撃力:200
適正レベル:1
・攻撃時、HPを消費する
・装備中、徐々にHPを失う
――――――――――――――――
適正レベルが1なのに攻撃力が非常に高い。
同じ適正レベルの武器と比べると、10倍以上の威力がある。
この攻撃力は通常であれば、適正レベルは20近く要求されるだろう。
しかしその下にあるアビリティ欄を見てほしい。
ご覧のように2つのデメリットが存在するのだ。
攻撃力は非常に高いが、引き換えに攻撃する毎にHPが削られてしまうのだ。
これは所有者の生き血をすすって攻撃力に変換する――という設定から来ているのだと思う。
つまり無暗に攻撃していると、いつの間にか自分が瀕死になっているということが起こる。
だからこの武器を使う場合はHP管理をしっかりしないといけないのだ。
しかも装備しているだけでも減っていくというオマケつき。
だがそれを知らずに振り回しているとあっという間にピンチになるだろう。
このことを知らずに使ってても俺には関係ない。
知らない方が悪いんだからな。
逆にいえば知識がありHP管理さえ出来れば非常に有用な武器でもある。
レベル1から使える武器の中では間違いなく最強クラスだからな。
けどいちいち回復するのは面倒だし、今の俺には不要だった。
まーそんなことはどうでもいい。
今はこの子達をなんとかするのが先だ。
先ほどからずっと歩き続けているのはとある場所に向かうためだ。
そしてとある建物の前に辿り着く。
「到着っと」
「ここは……?」
「銭湯だよ。金やるからお前ら入ってこい」
「え? べ、別にいいわよ。これくらい我慢できるわ」
口ではそういうが、本音は風呂に入りたいはずだ。
年頃の女の子だしな。
「いいから入ってこい。そんな恰好だから舐められるんだよ。またさっきみたいな連中に目をつけられるぞ?」
「う……」
「ほ、本当にいいんですか?」
「仮にも冒険者になったんだからいつまでもそのままって訳にはいかんだろ。しっかり湯船につかって疲れと汚れを落としてこい。これも一人前の冒険者に必要なことだぞ?」
ぶっちゃけ口から出まかせだった。
建前はなんでもよかった。とりあえずこいつらを清潔にさせたい。
「そ、そういうことなら……」
「俺も入ってくるから。外で待ち合わせな」
「は、はい」
金を渡した後に分かれ、銭湯に入ることにした。
銭湯に入った後に外で待っていると、2人とも満足そうな笑顔で出てきた。
「お。出てきたか。どうだ?」
「最高だったわ! あんなにゆったり出来たの初めてだもん!」
「あんな立派なお風呂に入れたのは初めてかもしれないです。本当にありがとうございます」
「それはよかった。んじゃ次いくぞ」
「つ、次?」
「いいから付いてこい」
再び別の場所を目指して歩き出す。
次にやってきたのは宿屋だ。
「ここでいっか。今日はここに泊まるぞ」
「もしかしてあたし達も?」
「そらそうよ。つーか何処で寝るつもりだったんだ? 言っとくがまたスラム街には行かせないからな。あんな場所にいたらまた絡まれるだろうし」
「で、でも……ここまでしてくれるなんて……本当にいいの?」
「良いも何も仕方ないだろ。俺もまだ家持ってないんだし。当分の間は宿生活だ」
「そ、そうじゃなくて……なんであたし達にここまで優しくしてくれるの?」
不安そうに見つめるラピス。
「……こんなにハードだと思わなかったからだ」
「え? ど、どういうこと?」
「なんでもない。いいから行くぞ」
宿屋に入ってフロントにいる受付のおっさんに話しかける。
これで3人分の部屋を借りようとしたが……
「すまねぇな。今日はあと一部屋しか空いてないんだ」
「マジすか……」
なんてこった。来るのが遅すぎたか。
もっと早く部屋を取っとけばよかった。
かといって今さらあの子らを野宿させるわけにはいかない。
「じゃあ……一部屋に3人止まることは出来ますか?」
「構わねぇが、人数分の料金は頂きますぜ?」
「それでお願いします」
金を払い部屋へと向かう。
ラピスは何か言いたそうだったが、構わず移動することにした。
部屋に入るとベッドが1つしか無かった。
1人部屋なんだから当然だろう。
「んーどうすっかな。今日はお前らがベッドで寝ていいぞ」
「え、えええ!? そ、そこまでしなくても……」
「一個しかないんだから仕方ないだろ。俺は床で寝るから」
床で寝るのは孤児院で慣れたしな。
あまり抵抗が無くなっている。
「そ、そうはいかないわ! ゼストがベッド使うべきよ!」
「そうですよ! 私達は床で寝るのに慣れてますから平気です!」
「でもなぁ……」
さすがに女の子を床に寝かせるのは躊躇う。
「俺も慣れてるし大丈夫だって。お前らが使えよ」
「いいえ! こればかりは譲れないわ! 命の恩人を床に寝かせるなんて出来ないわ!」
「その通りですよ! もう返し切れないぐらいの恩があるのにさらに増やさないでください!」
「んなこと言ってもな……」
その後も何度か言い合ったが、お互いに譲り合うだけで決着はつかなかった。
そんでどうなかったというと……
「せ、狭いわね……」
「そら3人も密着してるからな」
「大丈夫ですか?」
「まぁ寝れなくはない」
結局、3人が同じベッドを使うという結論になった。
姉妹は小柄な体格をしているとはいえ、1人用のベッドに3人はさすがに狭くなってしまった。
左にラピス、右にフィーネが居て、俺はその真ん中に寝るというサンドイッチ状態になっている。
2人とも布団からはみ出てしまうので、俺に抱き着くような状態だ。
「男の子とこんなにくっ付いたのは初めてかも……」
「私も……」
俺だってサンドイッチになった経験なんて無い。
こんな状態では寝返りがうてないな……
この子らも寝れないんじゃないか?
「「…………」」
……と思ったけど、もう寝息が聞こえる。
余程疲れていたんだろう。3分も経ってないのに寝付いてしまった。
とりあえず明日からは早めに宿を取ろう。
そう思いつつ俺も寝ることにした。
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