第13話:☆ブラッディソード

 時は少し進む。

 王都セレスティアから離れた草原に2人の男が歩いていた。


 片方は大男で、刃が赤い剣を握ってニマニマとしながら眺めている。これはゼストから貰ったブラッディソードだ。


「こんな珍しい剣が手に入るとはな。ツイてるぜ!」


 もう片方に居るのは小柄な小男で、隣にいる大男の舎弟だ。


「似合ってますぜ兄貴! こんな派手な剣を持ってるのは兄貴ぐらいですぜ!」

「がははは! そうだろうそうだろう。売ろうと思ったがやっぱ止めだ。こういうのは俺様に相応しい武器だからな」

「その通りですぜ!」


 上機嫌のまま歩く2人。

 彼らも冒険者であり、これからモンスターを討伐しにいくところであった。


「しかしなんであんなガキがそんな物持っていたんですかね?」

「さぁな。多分だが、親の形見かなんかじゃねーのか?」

「そんな物簡単に渡しますかね?」

「俺にビビッて命惜しさに思わず手放したんじゃねーのか?」

「そういうもんですかね?」

「細けぇことはいいんだよ。さっさと討伐しにいくぞ。早く試し切りしたいからな」

「は、はい」


 特に気にすることなく進んでいく。

 大男は試し切りがしたくてウズウズしており、深く考えることはなかった。


「手頃なやついねーかな」

「もう少し先に進むとハンターウルフの群れが居る場所ですぜ。どうしやす?」

「ハンターウルフか。いいねぇ。あいつらなら対処法知ってるし、それなりに強いから丁度いいかもな。よし決めた。手始めにあの犬っころ共をぶった切るぞ」

「へ、へい」


 目標が決まり、目的地へと移動していく。

 しばらく歩くと遠くにハンターウルフが居るのを発見した。


「いたぞ。へへっ。2匹いやがる。片方はまかせたぞ」

「わかりやした!」


 大男は剣を握りしめて飛び出した。

 ハンターウルフもそれに反応し襲い掛かる。


「まずはてめぇで試し切りだ!」


 襲い掛かってきたハンターウルフを迎撃しようと剣を構える。

 だが――


「おらぁ!」

「!!」


 ハンターウルフは剣に突撃すると同時にザックリと切れてしまう。


「うおっ!? なんだこの切れ味は!?」


 剣で攻撃を防ぐつもりだったが、勢いで真っ二つに切り裂いてしまった。

 地面を見ると、綺麗に引き裂かれたハンターウルフの死体が横たわっていた。

 想定外の展開に驚きを隠せない大男。


「そんなに力を入れたつもりは無かったんだが……」

「す、すげぇ! すごいですよ兄貴!」

「あ、ああ……。まさかここまで切れ味があるなんてな……」


 切り裂かれた部分は綺麗な断面をしており、切れ味の凄まじさを物語っていた。


「こ、こりゃあ相当な値打ちもんだろうな。金貨10枚や20枚では手に入らんぞ……」

「そ、そこまでやばいんです?」

「多分だけどな。少なくとも武器屋で探してもこれと同じ性能をしたもんは見つからん……」


 2人が剣を眺めている時だった。


「ウォォォォォォォォォン!」


 残ったハンターウルフが遠吠えをし始めたのだ。

 ハンターウルフは同胞がやられると遠吠えをして仲間を呼ぶ性質がある。

 こうなるとさっさと倒してその場から離れるか、すぐに逃げるのが定石である。

 もちろんこれは大男も知っている情報だった。


「へっ。仲間を呼ぶつもりか」

「ど、どうします?」

「丁度いい! まだ切り足りないところだったんだ!」

「だ、大丈夫なんです?」

「安心しろ! この剣さえあれば怖いもの無しだ! まとめてぶった切ってやるぜ!」

「は、はぁ……」


 あえて仲間を呼び寄せるという選択を取った。

 もはや敵なしと思い込んだ故の行動である。


「おっ。ゾロゾロと出てきやがった」


 しばらく待っていると茂みからハンターウルフ達が次々と姿を現した。


「さーていっちょやるか。さぁ死にたいやつからかかってこい!」


 そういって群れに突撃していった。

 襲い掛かってくる敵を次々と薙ぎ倒していく。

 豆腐のように簡単に切り裂いていき、周囲には死体がどんどん増えていった。


 しかしある程度倒したところで変化が起きる。


「ぜぃ……ぜぃ……」

「あ、兄貴!? どうしたんです!?」

「な、なんでもねぇよ!」


 大男は明らかに疲れた様子で肩で息をしていた。


(お、おかしい……なんでこんなに疲れるんだ……? この程度でへばるはずがないのに……)


 まだ数匹倒した程度で疲労を感じることに違和感を覚える。

 いつもなら全然余裕で動けるペース配分であるのにも関わらず、なぜか体力を消耗していた。


 だがそんな異変の原因を考える余裕もなく、ハンターウルフが襲い掛かる。


「ガァァァァァ!」

「くっ……!」


 また1匹切り裂く。

 だがそれと同時にさらに疲労感が増していった。


「く、くそっ……! どうなってやがる……! 何かおかしいぞ……!」


 原因不明の疲れに困惑する大男。

 さすがに異常だと感じてその場に留まった。

 しかしそんな状態になっても相手は待ってくれるはずがなかった。


「グルルルルル……」

「……ッ! チッ!」


 襲い掛かってくる敵を迎撃しようとした時だった。


「……ッ! ……くっ」


 めまいがしてフラついてしまったのだ。

 その隙を敵は見逃さない。


「! あ、兄貴! 危ない!」

「あ……?」


 ハンターウルフは大男に食らいつく。

 その反動で剣を落としてしまう。


「ぐあああああああ! 畜生! 離せ! この犬どもがぁぁ!」

「あ、兄貴いいいいいいい!」


 だが腕に噛みついた獣が簡単に離れるわけがなく、殴っても食らいついたままだった。

 それを好機とみたのか、ハンターウルフは次々と襲い掛かる。


「くそがああああ! てめぇらなんかに負けるはずがねぇんだよ! さっさと離れやがれ! あの剣があればてめぇらなんか……!」


 剣に手を伸ばすが……時すでに遅し。

 喉笛を食いちぎられてしまう。


「あ、あ、あ、あ……そ、そんな馬鹿な兄貴が……兄貴が負けるなんて……」


 ショックのあまり立ち尽くす小男。

 だがそんな光景を眺めていた小男にも別の群れが襲いかかる。


「ぎゃああああああああああああ! やめろやめろやめろ!」


 必死に抵抗するが次々に襲い掛かられて地面に倒れてしまう。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! やめろやめろやめろやめろ……やめろ…………やめてくれ………………誰か…………助けて………………」


 周囲の群れもハイエナの如く群がり、この場に居た男2人はハンターウルフの胃の中に納まることとなった。

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