第9話:疑惑
モンスターを狩りまくったその後、俺は冒険者ギルドに訪れていた。
ある程度狩ったので一度清算しようと思ったのだ。
受付にいる猫人族のお姉さんに話しかける。
「あのー。モンスター討伐したから清算したいんですけどー」
「はいは~い……………ッ! 君は……!」
「え?」
初めてここに訪れた時に対応してくれた人だ。
なぜか驚いた表情でジロジロ見つめてくる。
「俺に何か……?」
「……あっ。ご、ごめんなさいニャ! 無事に帰ってきてホッっとしているだけニャ」
「え?」
「な、何でもないニャ! え、えと。モンスター討伐の清算ですかニャ?」
「は、はい」
今なんか気になることをボソッっと言ったような……
「そ、それで。討伐したモンスターはどこにいるのニャ?」
「あー。今はインベントリに仕舞ってます。数が多かったから持ちきれなかったし」
「? どういう意味ニャ?」
「とりあえず取り出すね」
説明が面倒だったのでハンターウルフの死体を1匹だけ取り出すことに。
「よいしょっと」
「!! な、なるほど……収納スキル持ちなのニャ……」
「ま、まぁそんな感じ」
そういうことにしておこう。
「し、しかしよく勝てたのニャ~……。ハンターウルフはレベル10ぐらいないと勝てないはずなのに……」
「え? そんなレベル要らないと思うけど……」
「で、でも……
うん? なんかおかしいな。
ハンターウルフは初心者だと強敵に感じるかもしれんが、しっかり動きを見切ればレベル5程度でも十分勝てる相手だ。
そこまで強いとは思えないんだけどな。
「頑張って倒したのはすごいけど無茶はしないでほしいのニャ。命あってこその人生なのニャ。少しでも稼ぎたい気持ちは分かるけど、それで命を落としたら無意味ニャ! 次は安全なスライムにしたほうがいいニャ!」
「は、はぁ……」
俺はなぜ諭されているんだろう……
すげぇ心配されてるな。
「でも無事に帰ってきただけでもすごいニャ。例え1匹だけでも立派な討伐の証ニャ。査定してくるから少し待っててほしいニャ」
「あ、いや。まだあるんだけど」
「ええ!? まだあるのニャ!? まさか2匹も倒せたのニャ!?」
いちいち驚きすぎじゃないか?
オーバーな人だなぁ。
「いやもっと倒したんだけど……」
「!? そ、そんな……ありえないニャ……。ち、ちなみにどのぐらい倒したのニャ……?」
「えーと…………たしか……32匹かな」
「!?!? 32ぃぃぃ!? ほ、本当なのニャ!?」
「は、はい」
やろうと思えばもっといけるが、周囲のモンスターはだいたい狩りつくしたからキリがいいところで帰ってきた。
お陰でレベルも上がったしな。今はレベル3になっている。
「えーと……その……し、少々お待ちくださいニャ!」
そういって慌てて奥に引っ込んでいった。
なんだったんだ一体。
しばらく待っていると、奥の方から姿を見せてきた。
「た、大変申し訳ないんだけど……私に付いてきてほしいんですニャ」
「え? な、なんで?」
「そのぉ……会いたがっている方が居るので、控室で待ってほしいのニャ」
「は、はぁ。まぁいいですけど」
俺に会いたい人? 一体誰なんだろう?
とりあえず付いていくか。すぐに分かるだろうし。
お姉さんについていくと、とある部屋まで案内された。
部屋に入ると簡素な椅子と机が用意されていた。
「よ、呼んでくるのでしばらくお待ちくださいニャ……」
すぐに部屋から出て行ってしまった。
さてさて。誰が出てくるんだろうな。
全く心当たりがない。
この世界での知り合いなんて限られているんだけどな。
まぁいい。待っててやろうじゃないか。
それから3分ぐらい経った後、1人のおっさんがドアを開けて姿を現した。
「ふむ。君が例の……」
「?」
50代ぐらいのごついおっさんだ。
おっさんは部屋に入ると対面に座った。
座ってからは腕を組み、ジロジロと俺のことを眺め始めた。
「あの。何で呼ばれたんです?」
「…………ふむ。1つ聞くが、君はどこからやってきたのかね?」
「えっと……孤児院からです」
「ふむ……」
というか誰なんだこのおっさんは。
全く見覚えが無いぞ。
「オレはこの冒険者ギルドの支部長をやっている。この建物の中で一番権限を持っていると思ってくれればいい」
「……!」
わお。いきなり支部長がやってきたよ。
ますます呼ばれた理由が分からん。
「君のことはレイミから聞いた」
「レイミ?」
「君と対応したあの猫人族のことだ」
あー。あのお姉さんのことか。
レイミって名前だったんだな。
「それで、俺に何の用なんです?」
「……やはり倒せるとは思えんな」
「? 何の話?」
「単刀直入に聞こう。君が倒したというハンターウルフはどこで拾ったんだ?」
「は?」
拾った?
何言ってんだこの人は。
まぁモンスターを倒してドロップ品を入手することを拾うなんて言い方をすることもあるが……この場合は違うだろうな。
「いやいや。拾ったなんて人聞きの悪い。全部俺が倒したんですよ!」
「嘘をつくな。孤児院から出たばかりのレベル1の小僧が、いきなりハンターウルフなぞ倒せるわけがなかろう」
「えー……」
「1匹だけならまだしも32匹も倒しただぁ? そんな馬鹿みたいな話が信じられるか」
おいおい。この人俺のことを疑ってるのかよ。
「馬鹿も何も真実だって! 本当に俺が倒したんだよ!」
「たまにいるんだよな。人の獲物を横取りして自分の物と偽る輩が」
「だ、だから! 俺はそんなことしてないって!」
「ギルドとしても正当に評価せねばならん。不当に上げたランク詐欺が横行してはたまらんからな」
今まさに間違った評価してんのに何言ってんだ。
「つーか本当に拾ったにしても、32匹も落ちてるわけないだろ! どんな状況だよ!?」
「長年かけてコツコツと拾ったってところか。ご苦労さんなこって」
「だから! 違うっつーの! 全部俺が倒したんだって!」
「珍しいスキルを持っているようだが優遇したりはせんぞ。調子に乗らないことだな」
だ、駄目だ……全然話を聞いてくれない……
「だったら実際に戦うところを見せるから! それなら納得するだろ?」
「ふん。その手には乗らんぞ。事故を装って殺されたら堪らんからな」
「…………」
あ、頭が痛くなってきた……
もうこれ以上説明しても無駄な気がする。
このおっさん頭が固すぎる。
「これに懲りたらもう二度とするなよ? 今回は忠告だけにしといてやる。感謝することだな」
「だから違うっつーの……」
「ふん。威勢だけは認めてやる。その意気をモンスターに向けることだ。話は以上だ」
そういって部屋から出て行ってしまった。
それと入れ替わるようにしてお姉さん――レイミがやってきた。
「あの……その……32匹分の査定はするから、ハンターウルフを出してほしいですニャ……」
「え……? 査定はしてくれるの?」
「は、はい。一応モンスターを持ってきたことには変わりがないから、特別にするという判断ですニャ……」
特別……ねぇ……
「じゃあ……お願いします」
「は、はい。案内するので付いてきてほしいニャ……」
まぁいいか。やってくれるというのならそれでいい。
32匹分の死体を出すとレイミは何度目かの驚きをしていた。
さすがに数が数だけに時間がかかるみたいだ。
しばらく待機しているとレイミに呼び出された。
「えっと、査定は終わりましたニャ」
「それで。いくらになるんです?」
「こちらになりますニャ。Fランクでここまでの金額になるのはかなり優秀だと言えますニャ」
硬貨を乗せたトレイを渡してきた。
その上には大銅貨6が乗っていた。
ちなみに硬貨は以下のようになっている。
小銅貨10枚=中銅貨1枚
中銅貨10枚=大銅貨1枚
大銅貨10枚=銀貨1枚
銀貨10枚=金貨1枚
中銅貨1枚あれば満足のいく食事が出来るといった感じだ。そう考えるとこの金額はなかなかの報酬だと思う。
因縁をつけられたが報酬は出たことだし、とりあえず今日はこれでいいかな。
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