第6話:旅立ちの日

 あれから10日が経った。月日が経つのは早いもんだ。

 それまでは特に変わったことも無く平和に過ごしていた。

 変わったことといえば、俺が寝るときにリーズが毎晩やってくることぐらいか。

 俺を抱き枕代わりのように離れずにくっ付いてきた。

 それでも眠れない日もあったようで、そんな時は優しく撫でてやると安心したのか眠ってくれた。


 孤児院での生活は案外楽しかった。これは俺が体験したことが無いことばかりだからか知らんが、充実した日々だった。

 だがそんな生活も終わりだ。


 いよいよ孤児院から旅経つ日がやってきた。

 俺が出口に向かうと、既に他の皆が集まっていた。


「またね」

「またこいよ!」

「にくおいしかったぞ! ありがとな!」


 子供たちがそれぞれ伝えたいことを言って握手してきた。

 そして最後にシスタさんだ。


「ごめんねぇ。本当ならもっと一緒に居たいんだけど、これも決まり事なのよ……」

「気にしないって。別に恨んだりとか全くないですから。安心してよ」

「本当に良くできた子ねぇ……。貴方のことは一生忘れないわ。もしその気になったらいつでも会いに来てちょうだいね。いつでも待ってるわ」

「はい」


 シスタさんと抱き合い、離れるとリーズがこっちを見ていた。


「どうした? そんな悲しそうな顔すんなよ」

「…………」

「前に約束しただろ? また会えるって」

「そう……だけど……」


 まだ踏ん切りがつかないのか、このまま付いてきそうな雰囲気だ。


「大丈夫だって。俺はそう簡単にくたばったりしないって。な?」

「うん……」

「次会う時までに立派な冒険者になってやるから。楽しみにしとけよ?」

「うん……」

「んじゃ、そろそろ行くよ。またな」

「あっ……」


 リーズをギュッと抱きしめる。

 優しく撫でてやると泣き出してしまった。


「私……会いに行くから……」

「ああ」

「13歳になったら……ゼストくんに会いに行くから……! だから……絶対死なないでね……?」

「心配すんな。必ずまた会えるから」


 そのまま抱きしめたままだった。

 しばらくしてからリーズと離れると、既に泣き止んでいた。


「じゃあな。元気にしてろよ」

「うん……またね!」


 リーズは手を振って見送る。

 それを背に俺は歩き出すことにした。




 王都セレスティア。俺が今いる大都市だ。

 ここから冒険者としての人生が始まる。


 大都市というだけあってかなり広い。マップ片手じゃないと迷ってしまうだろう。

 だが俺は周辺の地理はほぼ把握している。だから見慣れた街を迷うことなく進むことが出来た。

 目的地は冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドで登録を済ませ、それからモンスター退治などで金を稼がなきゃならない。

 今の俺は無一文だからな。完全な無一文ってわけじゃないが、やはり現物は欲しい。


 街を進んでいくと、目的の場所に到着した。

 ここは冒険者ギルド。俺にとっては見慣れた場所だ。


「さて……行きますか」


 建物に近づき、中に入るべく扉をくぐった。

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