第4話:ベビーボア狩り
次の日。
俺は孤児院を後にして外に出ることにした。
ある場所へと向かうためだ。
さすがにあの食事量だと身が持たないからな。いくらなんでも少なすぎる。
だから食材を狩ることにしたのだ。
俺が向かっているのは森だ。
孤児院から離れた場所にはとある森があるのだ。
王都セレスティアの周辺には初心者用の狩場がいくつかあるが、その一つが森なのだ。
あそこなら手ごろな食材がゲットできるはずだ。
というわけで森の入り口に到着。
「ここも久しぶりだな……」
ゲームの序盤から訪れることが出来る場所だ。
俺も低レベルな時期にはお世話になった。
だが今の俺なら問題なく戦えるはずだ。
「んじゃ行くか」
森の中へと入っていく。
周囲を警戒しながら進み、目的のモンスターを探す。
「この辺りをうろつけば……おっ。居た居た」
少し先には獣型モンスターが徘徊していた。
あのモンスターは『ベビーボア』という猪みたいなやつだ。
とはいえ成長した猪ぐらいのサイズである。
あれでも幼体なのだ。
気づかれないように慎重に近づいていく。
ある程度近づいたら樹の影に隠れた。
ここならよく狙えるはずだ。
「さてと……やってみるか」
ベビーボアは動きを止め、水溜まりの水を飲んでいる。
「んーと……《ファイヤーアロー》」
ファイヤーアローを発動させて手のひらに火の矢が生成される。
少し待つと矢が増えていき、5本になったところで狙いを定めた。
「くらえっ……!」
火の矢はベビーボアに目掛けて飛んでいった。
当たる瞬間こちらに気づいたがもう遅い。
矢は4本当たりベビーボアの体を貫いた。
「プギイィィィィィィ……!」
苦しそうに地面を転げまわる。
だが次第に動きが鈍くなり、しばらくすると完全に動かなくなった。
「よしよし。さすがにこの辺りのモンスターだと楽勝だな」
火の矢が1本だと倒せるか怪しいが、4本も当たれたばさすがにHPを削りきれるようだ。
本当なら5本全部当てるつもりだったが、1本は外してしまった。
「まだこの体に慣れてないってことか……」
もしくはレベルが初期化された弊害なのかもしれない。
このあたりは後々調整していこう。
既に息絶えたベビーボアに近づいた。
後はこれを持って帰るだけだが……
「どうやって持ち帰ろう……?」
しまったな。持ち帰る方法を考えてなかった。
このまま持っていくか?
「よいっしょ……っと」
足を掴んでそのまま引きずることに。
このまま運搬できなくはないが……ちときつい。
ズルズルと引きずると腕も疲れるし意外と重労働だ。
「止め止め!」
このまま孤児院持っていくには時間がかかりすぎる。
しかもロクな食事も取っていないから体力も持ちそうにない。
どうしよう……
せっかく捕ったのにまさかここで躓くとはな。
何かいい方法はないもんか。
いっそここで解体するか?
……それだと量が減るし、そもそも手で運ぶことには変わりない。
つーか解体した肉を手掴みとかやりたくねーぞ。
何かいい物無いかな。
そう思ってインベントリを出した時だった。
「…………これでよくね?」
そうだよ。わざわざ手で運ぶ必要ないじゃん。
インベントリに収納させればいいじゃん。
ゲーム内でもそうして運んでいたわけだしな。
だがモンスターを丸々収納したことは無かったはずだ。だからこういう発想が出てこなかったんだろうな。
とりあえずやってみよう。
インベントリを表示させたままベビーボアを入れてみることに。
すると――
「おお。いけた」
ベビーボアが消え、インベントリ画面に今入れたモンスターが表示された。
なんだいけるじゃん。
これからは運搬は全部これでいこう。
一匹捕れたしこれで帰るとしよう。
今日は様子見できたようなもんだからな。
それに、この森は今の俺ではまだ厳しいかもしれない。
一匹ならまだしも、複数のモンスターに囲まれたら厄介だ。
あと腹も減ったしな。
来た道を引き返し森から出ることにした。
孤児院の近くまでやってきた。
「この辺でいいか」
さっき捕った獲物をインベントリから取り出す。
この場面を誰かに見られたくなかったから離れたところから取り出すことにしたのだ。
ベビーボアの死体をズルズルと引きずって孤児院へと向かう。
そのまま近づくと、入り口付近にリーズの姿があった。
「……あっ」
「よう。どうしたんだこんな所で」
「ゼストくんを……待ってたの……」
「へ? 俺をか?」
「うん。だって……いきなり散歩したいって言うから……」
そういや外に出るときにそんな言い訳してたっけか。
「そ、それよりも……それなに?」
「ああこれか。喜べ。今日のご馳走だぞ」
「ごちそう……? それを……食べるの?」
「おう。こいつはベビーボアっていってな。なかなかうまいと思うぞ」
ゲーム中でもこいつの肉を食うことが出来る。
何か特別な効果があるわけじゃないから捨てられることが多いけど。
「シスタさん呼んできてくれないか。さすがに俺一人だと解体できそうにない」
「わ、わかった」
リーズは慌てて孤児院の中に入っていった。
そしてすぐにシスタさんを連れて外に飛び出す。
シスタさんはベビーボアを見て驚いた表情で話しかけてきた。
「こ、これをゼストちゃんが持ってきたのかい……?」
「ま、まぁね」
「い、一体どうやって仕留めたのさ?」
あーそっか。
その言い訳も考えてなかったな。
うーん……
「えーと……………………拾った!」
「ひ、拾った?」
「森の中を歩いてたらさ……その……落ちてたんだよ!」
「…………」
……我ながら苦しい言い訳だな。
さすがに信じてもらえないか。
「ひ、拾ったって……そんなことがありえるのかい? しかも森に行ったということは――」
「わー! なにそれすげー!」
「なになに? どうしたのそれ?」
建物の中に居た子供たちが次々と飛び出してきた。
「それどうするの?」
「ああこれね。その……落ちてたから食おうと思って持ってきたんだよ」
「マジかよすげー!」
「おいしそう……」
「おれも食べたい!」
やはりみんなも物足りなかったんだな。
ベビーボアの死体がステーキに見えてそうだ。
「はやくたべようよー!」
「で、でも……」
「ねーねー。わたしもたべたーい!」
シスタさんの周りに子供たちが群がる。
「…………そうねぇ。森の恵みだと思って頂こうかしら」
「「「「やったー!!」」」」
ふぅ。うやむやになってよかった。
ま。これでなんとかなるだろう。
次からは別の言い訳考えないとな。
持ってきたベビーボアは綺麗に解体され、その日の食事はいつもより豪華なものとなった。
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