第4話

「俺も学業に支障が出るから辞めていいか?」


「だめに決まってるでしょ? 貴方は教師に強制推薦されたからやめられないし、そもそも授業中にゲームしてる人が学業に支障が出るとか言ってもお笑いにもならないわ」


 ぐっ……。仕方ない諦めよう。


 俺ががっくりと項垂れていると星月が生徒会室の扉を開けた。


 ってちょっと待て! さっき裸を見た生徒会長がこの部屋の中にいるって事じゃないか?


 部屋の先の生徒会長の座る席には俺の想像通り先程の美少女がいた。


「あぁぁぁぁぁぁ。裸見られたもう無理恥ずかしい……」


 死にそうな虫のようにヘロヘロな声で生徒会長は机にうずくまりながらぶつぶつと何かを言っている。


 机に蹲っているせいで部屋に入ってきた俺達に全く気が付かないようだ。


「あの? 生徒会長……。新しい役員を連れてきましたよ?」


「うぅぅぅ……。私の事を生徒会長って言わないでよ……。人気だけで選ばれた生徒会長なんだから私の事は睦月でも真白でも良いからどっちかでいいから呼んで……。今落ち込んでるから挨拶あとで良い?」


「駄目」


「はい……。分かりました」


 生徒会長は素直に顔を上げ新しく入ってきた役員、つまり俺を闇落ちしそうな顔で見上げてきた。


 一瞬空気が固まり、静寂が流れた。次の瞬間、生徒会長の瞳孔が大きく開きいきなり立ち上がった。


「あ、ああああ。貴方さっきの……。さっきの。な、なんで!」


 生徒会長は俺のことを指差そうとしているが手がブルブルと震えて全くエイムが定まっていない。


「何が言いたいか分からないんだけど、もう一度言ってくれるか?」


「えっ……。あなた体調が悪いんじゃ」


「治った」


「治ったの!? そっか。よ、良かったね」


 生徒会長の声はともかく、無理やり笑顔を作ろうとしている顔が不自然に固まっている。


 そして星月は俺をそれはそれは冷たい目で睨んでいる。まぁあいつは全部知っているからな。


「え、えっと。私のことは知っているよね? 一応学校一有名だと思うんだけど」


「知らん」


「え“っ……そ、そかそか。知らないのか。ま、まぁそう言う人もいるよね。睦月真白っていうの。私の事は生徒会長じゃなくて名前で呼んでくれたら助かるなぁ」


「俺は霜月陸だ。まぁあんまり仕事はしないと思うけどよろしく」


「ほほう。それは面倒くさいからやらないと言う意味かな?」


 一瞬、睦月の眼光が鋭く光ったような気がした。まぁ気のせいだろう。


「そうだな。ゲームしたい」


「そ、そっか。うん」


 睦月は不自然に何度も首を縦に振り何かを考えている様な難しい顔をしている。


「えっと。睦月さんそのバカは放っといて今日から新生徒会及び風紀委員の発足だから書類とかあるはずなんだけど貰ってないかしら?」


「あっ。あるある。ちょっと待って。今出すから」


 そう言って睦月は机の中の引き出しををひっくり返し中を漁り始めた。


 靴の色から1年だろうというのは判断できる。その1年が引き出しをひっくり返さないと書類を見つけられないほど汚くするとは……きっと整理整頓が出来ないんだろうな。知らんけど。


 俺は暇だしソファーに座ってゲームでもやるか。生徒会室は特別な場なので校則が機能しない。要は治外法権の場という事だ。


「あぁ、ほぼ丸一日ぶりにこの世界に帰ってきた。あー楽しい。脳が溶けるわこれ」


俺がゲームの世界に入り込んで30秒もしない内に妨害が入った。


「ちょっと何ゲームしてるのよ。私の前でゲームするとはいい度胸ね。没収してあげるわ」


 星月が俺の手にあるゲームを奪おうと手を伸ばしてきた。俺はその手を払い除けた。


「生徒会室は学校の校則が適応されないんだぞ。つまり今俺は自由だ!」


「なっ。ちょっと。睦月さんなんとか言ってよ。生徒会長権限でぶっ殺してもいいから」


 何を物騒なことを言っているんだこいつ。思考が殺人犯のそれだ。通報してやろうかな。


「ん? 何か言った? 今ね。書類探してるんだよ。一緒に手伝ってよ」


 睦月は机からひょっこり頭を出しながらこちらを見てそう言った。どうやら俺達の話は聞いていなかったようだ。


「はぁ仕方ないわね。そこにあるの? 私がここら辺を探しておくから心当たりがあるならほかを探してくれる?」


「分かった」


 睦月は立ち上がりゲームをしている俺の後ろにある本棚に近づいた。


「うーん。ここだったっけ? もしかしたら昨日少し苛ついて紙飛行機にした紙がそれだったのかな」


「おいおい。それやばいんじゃないか? 職員室に元データあるだろうし再印刷してもらったほうが良いんじゃないか?」


 睦月は暗い顔をしながら本棚を漁るのを辞めこちらを向いた。


「うん。そうかも……。あれ? そのゲームAシリーズの第一作目じゃない?」


「なんだ? 知ってるのか?」


「うん。ファンだよ。ファン」


 ここに同士がいた! 何故だろう一気にすごく仲良くなった気がする。まだそんなに話してないのに。


 まぁ……。勘違いだな。人と話すことが無さ過ぎてそう感じるだけだろう。いかんいかん。


「ねぇねぇ。職員室に再発行を頼んでくるから一緒に行こうぜ! 一緒にAシリーズのお話しながらさ」


 睦月の先程までの落ち込んだ顔は何処かに吹き飛びものすごく積極的に俺に話しかけて来る。

 なんだ? こいつもしかして。


「もしかして友達いないのか?」


「え“っ。な、ナンノコッチャ。私、学校1の人気者だよ。話す相手くらいいくらでも居るし」


「そうか。俺の勘違いか。まぁいいや。書類取りに行くんだろ?」


「あ、うん」


 おっと。星月に一言言っておかないと。


「星月新しい書類取ってくるからそこ片しておいてくれ」


「分かったわ。ここにはないみたいだし。そっちのほうが早いかも知れないわね」


「じゃあ行ってくる」


 俺と睦月は生徒会室を出て職員室に向かって歩き始めた。無言はまずい。何か話を振らないと……。でも現状1つしか話題なんてないだろう。


「「あの」」


 ハモった……。こういう時俺は基本的に相手に話を譲る。俺のする話より相手のする話のほうが面白いからというのが主な理由だ。


「どうぞ」


「あ、うん。えっと霜月君はAシリーズの何処が好きなの?」


「俺か? やっぱりあの世界観と限られた時間でやりたいことをやるための計画を立ててそれを実行するプロセスとかもう語りだしたら止まらないくらいにはあるけど一番はシリーズごとに変わる錬金方法の違いとかがなかなか面白いと思うんだよな」


「おぉー。やはり同士だったかぁ。分かる良いよね。私も同じゲームずっとやって今霜月くんがやってるゲームは1000時間超えちゃった」


 なんだと? 700時間到達目前の俺より遥かに上のやりこみだと? 1000時間もよくできるな。700時間でそろそろやること無くなってストーリーも暗記し始めたのに。


「それはすごいな。俺は700時間くらいだけどよく1000時間も出来たな」


「私最初っから難易度高めでやるんだけど要領悪くて何回かゲームオーバーになってるから時間かかるんだよね。それに加えて装備とか作ってるとね」


「なるほど。というかもう職員室に着いたぞ」


「えっ。早い。うーん……。じゃあ北野先生呼んでくる!」


 睦月が小走りで職員室の扉の前に立ったがちょっと待て。何か聞き捨てならない事を睦月が言った気がする。


「ちょっと待て!」


「ん? なに?」


「何故に北野先生を呼ぶんだ?」


「生徒会の顧問が北野先生だからだけど」


「んな馬鹿な。……もしかしなくても全部わかってて風紀委員に入れたなあの性悪ババアが」


「ほう?」


 俺の背後から鬼のような波動が放たれたのを察知し右にステップして回避した。


 その直後俺の頭があった場所に分厚いファイルが振り下ろされた。ブォォォン! という風切り音が俺の耳に届いてくる。


 攻撃相手を確認すると案の定、北野先生だった


「おい。霜月、今私をババアって言ったか? どうやら死にたい様だな」


「あれ、北野先生じゃないですか! どうしたんですか機嫌が悪そうな顔をして大丈夫ですか?」


 俺はとっさに生き延びる方法を見つけ出した。つまり完全に知らないフリをすることだ。


「何を馬鹿なことをしているんだ? お前が私をババアと言ったのを私はしっかり聞いていたぞ」


「何をおっしゃいますか。若くて綺麗な先生をババアなんて呼ぶ人何処に居るんですか! そんな奴俺がぶっ飛ばしますよ。なぁ睦月さん!」


「へ? あ、うん! そうですよ。先生。落ち着いて下さい。それより生徒会メンバーの申請用紙を無くしたので新しいの下さい」


 俺と睦月お世辞が効いたのか、段々と顔を先生は緩ませていく。俺だけではなく睦月の援護射撃を受けた北野先生は機嫌を良くしたようだ。


「そ、そうだよなぁ。分かった。新しい書類だな。いくらでも持ってくるから待っててくれたまえ」


 そう言って北野先生は鼻歌を歌いながら職員室に入っていった。


 た、助かった。


「霜月くん。お礼楽しみにしてるね」


 おっと。助かってなかったみたいだ。


「ジュ、ジュースで良いっすか?」


「いいよ~モンスターね」


 なにげに高いの要求してきたぞこいつ。


「モンスター飲むのか?」


「ゲーマーのお供だよ!」


 睦月はキメ顔をしているが可愛いだけでかっこよさを特に感じないせいかなかなか面白い事になっている。


「分かったよ。確かうちの学校の自販機に常設されてたよな。後で買っておく」


「やった! いやー高校生は常に金欠だからねー」


 それはそうなのだが……。睦月はものすごい棒読みでそう言うので全くお金に困ってないように聞こえる。


「おまたせ。持ってきたぞ。ほらどーんと5枚持ってきてやったぞ」


 北野先生はファイルに五枚紙を挟んで睦月に手渡した。


「早めに提出するように」


「はい。じゃあ生徒会室に戻ろっか」


「いや、俺はモンスター買って帰るから先に戻っておいてくれ」


「え、うん。わかった」


 心無しか顔を少し俯かせて睦月は生徒会室に向かうため階段を登っていった。


「よし。モンスター買うか」


 俺は自販機に向かうために階段を降り始めた。一階に着くとそのまま玄関を出て自販機を見つけたのでそのまま自販機に向かって歩き始めた。


 すると向こうから随分と可愛らしいメイド服を着た女の子が大量のジュースを抱えてこちらに歩いてきた。


 なんで学内でメイド服なんて着てるんだ? 本物か? いやまさかな。


 俺はそのまま彼女をスルーして自販機に向かおうとした。その時少女が転んで抱えていた缶やペットボトルを落とした。


「大丈夫か?」


 俺は取り敢えず声を掛けておくことにした。一応手伝うつもりもあるが。


「えっ。だ、大丈夫です」


 そう言って慌てて落としたものを回収し始めた。


「手伝うよ。大変だろ。何処まで持っていくか知らないけど教室くらいなら持っていくの手伝うぞ」


「ほ、ホント? ありがと。いっぱいあったから大変だったんだ」


 彼女は顔を綻ばせて俺にいくつか缶やペットボトルを渡してきた。それでも持ってる量は彼女のほうが多い。


「あと2本くらい貸せ」


「え? そしたら僕3本しか持たない事になるけどいいの?」


「ああ、良いから早く渡せ」


「うん。ありがとう」


 追加で二本受け取り俺は校舎に引き返した。


「ちなみに何処に向かってるんだ?」


「えっとね。手芸部」


「なるほど。そのメイド服も手芸部で手作りした服か」


「え……。そ、そうなんだよ。えへへ。本当はこういうの着て校内歩くのは特別なイベント時以外は禁止なんだけど。今罰ゲームで。風紀委員には言わないでね。怒られちゃうから」


 俺がその風紀委員なんだけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る