第3話
そんな馬鹿なことがあるのか……。風紀委員って確か学校にスマホやゲームとした電子機器の類を持ってくるのは禁止だったはずだ。
何処かのバカが古い考えを無理やり押し付けた形が現在の風紀委員の形になっている訳だが校則ではスマホやゲームの類は禁止されていない。
授業中にはいじるなと言われているだけだ。俺はガッツリ破っているわけだが……。
ちなみに規則を破った風紀委員には厳しい罰があるらしい。知らんけど。
全く馬鹿げている。国会だってタブレットを持ち込みできる時代だぞ? なのになんでウチの学校の風紀委員だけ学校に持ち込み禁止なんだ。あほだ。あほ。
「そうっすか。じゃあ帰りますね。うちの学校は出席日数よりテストの点が進級、進学や内部推薦に重要視されていたはず。だからテスト当日に会いましょう」
俺は、下駄箱に向けていた足をくるりと反転させ妹が待つ愛しい我が家に歩こうとした。
次の瞬間、俺の来ていた制服がきつく首に締まり息ができなくなった。そのまま素早い動きで俺の体勢が崩された。
「ちょっと待ちなさい。何サラリと引き篭もろうとしているのよ。だめに決まってるでしょ。来なさい」
「ちょ、何してんだ。離せ」
「駄目よ。ただでさえ人手不足なの明日から貴方の家に迎えに行くから。北野先生から住所は預かっているわ。意外と近いから安心して」
「ちがっ。どうでも良い。どうでも良いから。首締まってるから」
「あら、ごめんなさい」
そう言って、星月は俺の襟から手を離した。
その瞬間一気に体に酸素が流れて何かが活性化したような不思議な気持ちになった。
「なんなんだ。全くこのバイオレンス女が」
「なに? なんか言った?」
「いえ、何でもないです。それで何処に行くんだ?」
「? 風紀委員が向かう部屋は風紀委員室しかないでしょ? 馬鹿なの?」
何だこいつ。風紀委員の仕事をすると思ったから聞いたのに、事前に何をするか言わないこいつが馬鹿だ。ばーか。
いきなりの状況に若干腹を立てながら俺は風紀委員室の扉の前に立った。
「ここよ風紀委員室は」
「見れば分かる。それで何するんだよ」
「簡単よ。風紀委員の貴方の持ち物チェックよ」
その瞬間俺はゲームとスマホが入ったリュックを大事に抱え込み走り出した。
600時間を超え700時間に差し掛かろうとしているデータの入ったこのゲーム機だけは死んでも渡さない!
「ちょっと待ちなさい! ちょっと待って」
後ろの方の廊下からヘロヘロとした声が聞こえてくる。
「ハハハ! 日頃の運動不足がここに来て大きな差を生んだな。悪いがこのゲーム達は命の次に大切なんだ。死んでも渡さないぜ」
俺も運動不足なのだが今はアドレナリンがドバドバ出ていて全く疲れを感じない。
「ちょっと待って……はぁはぁ。走るのは校則違反だから」
へろへろと声を張り上げた星月の声が聞こえた。
おっと。そうだった。俺は授業中にゲームをやって校則は破っているがヤンキーになるつもりはない。ゲーム関連の規則以外は遵守するつもりだ。
即座に走るのを辞めてほぼ走っている速歩きを初めた。
次の瞬間、休んで体力を回復させた星月がこちらに走ってきた。
「お前! 校則破っているぞ!」
「校則違反者を捉えるためなら許可されているわ。待ちなさい!」
「断る」
俺は速歩きの速度を更に一段階上げた。
……何故だろう? 全力の速歩きをしている俺と星月の距離が変わらないんだけど。
「ちょっと待ってよ。分かったから、今日は調べないから止まってよ。お願い」
「お前が俺のリュックを調べない確証がないから断る。この愛しいゲーム達は安全な所に隠す」
「ぜぇ……はぁはぁ。ほんとに調べないから止まってよ~」
ふむ。ガチっぽいな。
俺は早足していた足を止めた。その瞬間どかっと疲れが溜まった。
「本当に調べないんだよな?」
「ちょっと待って。休むから」
星月が一息つくまで待って俺はもう一度同じ質問をした。
「ええ、しないわ。明日はするから覚悟するように。じゃあ風紀委員室に向かってもいいかしら?」
「ああ、こっちの方は来たことないから案内してくれると助かる」
「入学式の翌日に説明があったはずだけど?」
「俺が聞いてると思うか?」
「あ……。そうね。まぁいいわ。こっちよ」
星月に連れられ、再び風紀委員室にたどり着いた。そして先程は見ることのなかった風紀委員室の中に入った。
大きい部屋の割に随分寂しい部屋だ。広い部屋に椅子が1つしかない。
「なんだこれ? ほんとに風紀委員室か? まさか俺を……。校則違反した俺を監禁するのか!」
「いや違うから。今風紀委員には問題が起きていて人数が貴方を入れて二人しかいないの。それで部屋を移転させることになったから質素なだけよ。」
なるほど。じゃあなんで俺を連れてきたんだ? 全く理解が出来ない。移転先の部屋に連れていけば良いだろうが。
「ああ、新しい部屋の準備がまだできてないのよ」
「なるほど。それで何もしないのか? だったら帰るけど」
「ちょっと待ちなさい。何帰ろうとしてるのよ。今からHRでしょ」
「教室に行くんだよ。で? 本当にもう出ていいのか?」
「それ忘れてるわよ」
星月が指差したのは昨日、北野先生に奪われた俺の外靴だった。
何故かベランダに吊るされている。何故だ?
「あの靴臭かったから干しといたわ」
「は? そんな訳無いだろ。あの靴新品だぞ」
「新品の靴が臭くなるほどの悪臭だったんじゃない?」
そ、そんな馬鹿な。匂い関連には気を使っていたのに……。ショックだ。
「まぁ、ただ知らない男の人の靴が部屋にあるのが嫌だったから出しただけなんだけどね。大丈夫よ。安心して、北野先生がいたずらで嗅いでたけど無臭でつまんないって言ってたから」
何だよ! びっくりしたわ。もう毎日外靴洗う覚悟でいたのに。
「それ下駄箱に持っていったら朝はもう教室に向かっていいわ。放課後に具体的な仕事を教えるから。言っておくけど帰っちゃ駄目だから」
「はい」
帰ろうと画策してた直後に忠告を受けて思わず反応してしまった。
「じゃあ俺、教室に行くからよろしく」
「ちょっと待ちなさい。ゲームはここに置いて。スマホも」
「は? 嫌なんだが」
「貴方ほっといたらゲームやるでしょ。放課後まで私が預かるわ。本当は没収する所を返してあげるんだから感謝しなさい」
……。まあいいか。どうせ今日は授業中寝るつもりだったし。
「ほらよ。返さなかったら泣くからな」
「はいはい。分かってるわよ。早く教室に行きなさい。もうそろそろ始業の鐘がなるから」
その日、1~2限は爆睡をしていたが流石に寝すぎて眠れなくなり3限以降は起きてい珍しくまともに授業を受けていたのだが教師一同の反応はなかなかにおかしかった。
3限国語
「おい! 霜月、いつも言ってるだろ。ゲームは休み時間に……。どうした! た、体調悪いのいか? 救急車呼ぶか?」
4限数学、北野先生
「霜月……。保健室に行こう。お前今日はおかしいって話聞いたんだけど具合悪いのか?」
5限化学
「霜月! 今日はどうしたんだ? 変な薬品でも飲んだんじゃないのか?」
6限……体育(保健室)
そして今、俺はなぜか保健室にいた。と言うか無理やり連れてこられた。
おかしいだろ。普段は真面目に授業を受けろとか言っているくせにまともに受けたらこれか! ふて寝してやる。
……と言うか隣のベッドのやつうるさいな。授業休んで保健室に居るのにベッドでじゃかじゃか曲を流すな!
俺は隣のカーテンを思いっきり開けた。
「お前うるさいぞ!」
カーテンを開けた先には現在体操服から制服に着替えている途中の女子高生の姿があった。
きれいなミディアムヘアの茶髪にきれいな顔立ち。そして程よく締まった腰回り、更に大きな胸、はっきり言えば美少女なわけだが、今の俺の状況は犯罪スレスレ……。いや犯罪かも知れない。
「すみませんでした」
即座に締めた。カーテンの向こうではせかせかと服を着る衣擦れの音が聞こえる。
そして俺は寝ることにした。悪いこと嫌なことはだいたい寝たら治ってるから、多分これも夢だろう。もしかしたら俺は本当に体調が悪いのかも知れない。
見逃してくれ! という俺の願いはあっさりと打ち壊され、再び彼女との間にあった唯一の壁(カーテン)か開けられた。
「「すみませんでした!」」
オレと彼女の声がハモった。
なんだ? 何故向こうが謝っているんだ?
「あの……。体調が悪いのに隣で無神経にスマホで曲流してすみません。あの……さっき見たのは忘れてくれると助かります。では!」
そう言って彼女は顔を真っ赤に染め走り去っていった。
なんかよく分からないけど犯罪者にならずに済んだようだ。琴梨、俺犯罪者にならずに済んだよ。ありがとう。
「何しているの?」
ベッドの上で妹に感謝をしていた俺に冷ややかな声で話しかけてくる女生徒がいた。と言うか星月だった。
「もう一度聞くわ。今何をしていたの? 犯罪? 見てたわよ。貴方がカーテンを開けて生徒会長の裸を見たのを」
ジーザス。俺の人生はここまでのようだ。
「……? 生徒会長って言ったか?」
「ええ。生徒会長」
「ウチの学校の生徒会は委員会が兼任することになってるだろ。生徒会長なんていたのか」
「生徒会長は5月初めの学内投票で決まったでしょ。まぁただの人気投票だからお飾りみたいなものよ。生徒会長+学内投票で選ばれた委員会が生徒会として活動するの」
「で、でも俺悪くないし。生徒会長だって俺を責めてなかったからな。俺は悪くない。絶対に」
「あの人が貴方を責めないなら私からは特に言うことはないわ。それにしても貴方すごく噂になっていたわよ。ゲーム廃人が真面目に授業を受けていたら最終的に保健室送りにされたって」
なるほど……それで保健室に来たのか。
「悪いかよ。授業を真面目に受けたら」
「そうじゃないけど……まぁいいわ。体調は問題ないわよね。もう新しい部屋の準備ができたから今からそっちに向かうわよ」
俺はベットから降りて星月と星月と一緒に廊下を歩きはじめた。
「そう言えばなんで風紀委員の人数がこんなに少ないんだ?」
「それなんだけどね一週間前までは12人くらい居たのよ」
一週間前……ちょうど学内投票があった頃だな。
「わずか一週間でほぼ全員辞めたのか?」
「ええ、ウチの学校は委員会を自由に脱退できるからその弊害ね」
俺と星月は階段を登り3階にたどり着いた。一体何処に向かうつもりなのだろうか?
「ウチの風紀委員には学内人気トップ2の女生徒が居たの。言っておくけど私じゃないわよ。まぁ私のせいでもあるのかも知れないけど」
「何の話だ? あとお前が人気トップ2だなんて思ってないぞ。初めから」
「あら。どうしてかしら?」
「お前は確かに美人だが性格に問題がありそうだからな」
「ふふ。貴方に言われたくないわね。まぁ私の言動は時々きつく取られてしまうことがあるから否定はできないのだけれど」
「それで何処に行くんだ? このままだと生徒会室に着くぞ?」
俺達が歩く進行方向には2枚扉の大きな部屋がある。一般生徒は用無く立入禁止の部屋だ。
「ええ。そこが目的地よ」
「は? おいまさか……」
「ええそうよ。今年の生徒会は風紀委員が兼任することになったの。だからみんな仕事量が増えて学業に支障が出るのを防ぐために辞めていったの進学校だからみんな自分の将来のことに必死なのよ」
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