エピローグ

最高の思い出に

 季節は秋――――


「拓斗、どのクラスから行く?」

「陽夏の好きなとこからでいいぞ?」


俺達は母校の文化祭に来ていた。


「あれ、1年C組。ファッションショーだって」

「ほんとだ」

「拓斗たちと一緒だね」

「しかもクラスも」

「行ってみる?」

「おう」


楽しかった思い出にふけりながら、俺達は久しぶりの文化祭を楽しんでいた。


「次、どうする?」


カフェで次の行先を考えていると、そのクラスの女の子が一人、こちらに歩いてきた。


「あ、あの……」

「はい?」


聞き返すと、その子は顔を真っ赤にして、


「あの、清水拓斗さんですか?」

「あ、はい。そう、ですけど」


答えると、教室中がザワザワとし始めた。


「あの、私、拓斗選手の大ファンで。あの、握手してもらっていいですか?」

「あ、いいよ」


俺は右手を差し出した。その子は、強く、俺の手を握り、更に顔を赤くしてもといたところに戻って行った。

 その後、俺の握手会のようになったカフェが収まりを見せてきたときに、俺達は合間を見て、カフェから抜け出した。


「大騒ぎになっちゃったな」

「だね……」


なぜだか陽夏は、少し拗ねているようだった。


「陽夏、どうした」

「別に?何でもないですけど?」


明らかにご機嫌斜めである。


「何、怒ってるの」

「怒ってない」


陽夏は、俺の3歩先を歩いている。


「待てよ」

「いやだ」


恥ずかしげもなくそんなやり取りを続け、俺達は、屋上にやってきていた。空は、もう闇に包まれようとしており、一般客は帰っていないといけない時間になっていた。


「なんか、懐かしいな」

「……うん」


良い思い出ではないが、ここに来るととても懐かしい気持ちになった。

 屋上のフェンスに肘をのせ、夕空を眺めていた。


「もうすぐ、花火の時間、かな」

「そうだね」

「俺さ、あの時、陽夏と花火見たかったんだ……」

「ウソ。拓斗、あの時美月ちゃんのこと好きだったでしょ?」

「……」

「あ~、図星だ!」

「陽夏が、俺の事避けるからだろ?」

「それは……。あの時は、美月ちゃんが……」

「言わなくても分かってるよ。陽夏、頑張ったな?」


俺は陽夏の頭に、優しく手を置き、ゆったりとなでてあげた。


「拓斗……」


俺はその手を、陽夏の手に伸ばし、しっかりと繋ぎとめた。


「もう、離さない」

「うん……」


俺達の視線が一点で交わった。そして、陽夏がゆっくりと目を瞑った。


「(これって、そういうことだよな?)」


俺と陽夏の顔の距離が徐々に近づいていく。

15㎝、10㎝、5㎝、2㎝、1㎝。


0㎝。

 その時、一筋の光が空に昇って行き、真っ赤な大輪の花を咲かせていた。

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ぼく、かめんらいだーになる! 三宅天斗 @_Taku-kato

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