四十五話 リスタート

「待てよ、この流れって……」


俺は急いで陽夏のもとに戻った。


「陽夏!」

「な、なに?どうしたの?」


ここは、デジャブにならなかったようだ。


「よかったぁ。いた……」


陽夏の無事を確認し、一息ついたとき、


『まもなく、花火大会が始まります』


会場のアナウンスが流れた。


「じゃ、行くか」

「うん」


俺達は、本殿に続く階段の中腹に、腰を下ろした。


「拓斗?」

「なにさ」

「試合、見たよ」

「そっか……。どうだった?」

「凄かった。ちょっと見てない間に、すごく上手になってた」

「上からだな。でも、ありがと」

「うん……」


再会した時よりかは、会話もまともにできるようになっていた。


「あのさ……」

「あのさ……」


声が重なってしまった。


「陽夏、先にいいよ」

「いや、拓斗が先で……」


と譲り合ってると、バーン!という大きな音が聞こえてきた。正面を見ると、夜空に大輪の花が咲いていた。


「綺麗だね」

「だな」


濃紺のキャンパスを彩る色とりどりの花たちが、キラキラと目の前で消えていく。

 ラストのスターマインや尺玉を見上げ、花火大会が終了した。

 先ほどまで聞こえてこなかった人たちの声が聞こえ始め、本殿から人たちが続々とと降りてきた。


「俺らも行くか」


と立ち上がり、陽夏の方を振り返ると、陽夏はまだ立ち上がろうとしていなかった。


「どうした?」

「あの、まだ、ここにいたいな」


前までならこんなこと言わなかったであろう陽夏の、意外な一言に、耳を疑った。


「そっか、わかった。じゃあさ、本殿行っていい?お願いしたいことあるんだ」

「え?うん」


俺達は、人の流れに逆行して本殿に向かった。


「陽夏、はぐれんなよ?」

「うん」


俺は陽夏の腕をしっかりとつかんで、やっとの思いで本殿に到着した。


「着いたぁ」

「もう、誰もいないね」

「あぁ」

「で、何をお願いするの?」

「ひみつだよ」


俺は賽銭を投げ、手を合わせた。


「…………」

「…………」


俺は、陽夏が目を開ける前に背中に隠しておいたお面を顔に装着した。


「拓斗、ってえぇ!」


静かな空気を切り裂くように、陽夏の大声が響き渡る。


「ちゃんとしたかめんらいだーにはなれてないけど、迎えに来たよ?陽夏」

「え?どうしたの……って」


俺はお面を取り、陽夏の目を真剣に見つめた。


「今じゃ、大したことじゃないのかもしれない。けど、俺、ずっと忘れられなくて。それで思い出したんだ。陽夏とした約束」

「拓斗……」


陽夏の吸い込まれそうな瞳から視線を逸らして、首元に手を置いた。


「それで、あんなゴールパフォーマンスなんかしちゃって……。ダサいよな」


ちらりと陽夏の方を見ると、頬に一筋の道が出来ていた。


「陽……夏?」

「拓斗……。やっぱりそうだったんだね。思い出したんだ。私の、勘違いかと思ってた」

「え?」

「拓斗の試合で、仮面ライダーのポーズしてて、ハッとしたんだ。思い出したのかなって。今、真相が訊けて、嬉しくて……」


陽夏の涙は止まることなく、ポロポロと流れ落ちて行く。


「陽夏。もし、よかったら……。やり直さないか?あの日、あの時から」

「拓斗……」


陽夏が、俺の腕の中に飛び込んでくる。そして、俺の胸の中で、陽夏の首が小さく縦に動いた。


「ありがとう、陽夏。そして、ごめんね」


俺は、陽夏を強く、強く抱きしめた。

 その時、空に一筋、流れ星が通り過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る