In Japan

四十三話 再会?

 表彰式やその他諸々を終え、勝利の興奮冷めやらぬまま、3日が経過した。それまでの期間、ニュース番組では、俺を仮面ライダーだと騒ぎ立てるメディアに少々喜びを感じながら、のんびりとしていた。


 迎えた3日目、俺は久しぶりに日本に帰国していた。

 理由は、これである。


「おめでとう!」

「凄かったぞ!侍ブルー!」


日本で行われた、優勝記念の凱旋パレードである。


「ありがとう!」


俺は、見に来てくれたサッカーファンの人たちに大きく手を振り、感謝の気持ちを伝えていた。


 ゆっくりと車は進んでいき、それにつれ、人の数もだんだんと増えて言っている気がする。


「応援ありがとう!」


腕を上げるのに疲れて、感謝だけを伝えていると、人込みの最前列に見覚えのある顔を3つほど見かけた。


「倫也、美月、真佑!」

「拓斗!」

「おめでとー!」

「かっこよかったよ!」


懐かしい顔ぶれに涙が出そうになる。だが、その中に、俺が一番会いたい人の姿はない。少し、淋しい気持ちになっていると、大通りから外れた裏路地のようなところで動く人影を見かけた。


「陽夏……?」


俺は真相を確かめたくなった。


「キャプテン、すみません。俺、ここで下ろしてください」

「は?それは……」

「本当にすみません。失礼します」


俺は、バスの二階席のようなところから飛び降り、裏路地に向かって一目散に走った。人混みを掻き分け、路地に辿り着いたとき、その姿はどこかに消えていた。


「陽夏!」


俺の声は路地の壁に空しく反響している。

 諦められなくて、諦めるわけにはいかなくて、俺はひたすらに彼女の姿を探した。


 1時間以上走り続けたが、結局、彼女の姿は見つけられなかった。


「陽夏じゃ、なかったのかな……」


俺はトボトボと、ホテルへの道を歩いた。


「帰ったら、吉井さんにも、監督にも叱られるよ……」


肩を落としながら、ホテルに入った。エントランスには監督とキャプテン。明らかに機嫌の悪い表情をしていた。


「拓斗。こっちに」

「はい……」


呼び出され、案の定俺は、こっぴどく叱られた。次の日のニュースで、俺のバスから飛び降りるさまを仮面ライダーと評したニュースも現れた。


「かっこわりぃな、俺……」


そんな言葉を零して、ホテルのベッドからテレビを見ていると、サイドテーブルの上でスマホが揺れた。


「誰だ?」


スマホを取り、電話に応じた。


「もしもし?」

『もしもし。拓斗?久しぶり?なのかな』

「真佑?どうしたんだ?急に」

『あのさ、もうすぐ地元の夏祭りだなって思って』

「確かに、そんな時期か。それが、どうしたんだ?」

『それでさ、みんなで集まろうと思って。倫也と美月と私と、拓斗。それに、陽夏も』

「陽夏も……」

『本当は昨日ね、陽夏も来てたの。でも、なんか体調悪いって帰っちゃって……』

「やっぱり、あれは陽夏だったのか……」

『え?』

「なんでもない。それより、夏祭りっていつ?」

『えと、1週間後』

「OK。予定合わせて行く」

『ほんと?じゃあ、楽しみにしてるね?』

「俺も、楽しみにしてる」


そう言って、電話を切った。


「陽夏……。久しぶりに、会えるんだよな……」


俺は、陽夏と会える喜び以上に、陽夏に再会するときの不安を大きく感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る