四十話 W杯#2

 その後、ギリシャ戦、コロンビア戦も勝ち抜き、俺達は無敗でグループステージの突破を決めた。個人の成績は、5ゴール2アシストと出来過ぎているような結果をたたき出していた。


『拓斗!絶好調だな!』


いきなり倫也からLINKが送られてきた。


「あったりまえよ!優勝すっから、見とけ!」

『マジか!』

『期待しとく!』

「おう」


トークが終了し、スマホを閉じた。


「みんな聞いてくれ。次の対戦相手が決まった」


監督の一言で周りが一気に静かになった。


「監督、どこなんですか?」

「相手はフランス」

「マジか」

「強豪じゃん」


正直、あまり望んでは戦いたくない相手だった。フランスは強固な守備はもちろん、トップの選手の圧倒的なスピードを武器にし、今大会最有力と言われているチームである。


「何言ってんすか。燃えるじゃないですか!」

「は?」

「起こしましょうよ、ジャイアントキリング!やってもないのに、勝つか負けるかなんてわかんないっすよ」

「だな」


キャプテンも賛同して立ち上がってきた。


「頼もしい最年少がそう言ってるんだ。俺達がこんなんじゃいけないだろ」

「ですね!やってやりましょう!」

「「おう!」」


フランス戦に向けて、雰囲気はばっちりだった。


中3日で迎えたフランス戦。下馬評では圧倒的に日本が不利だと予想されていた。

 試合前の円陣。


「俺達はチャレンジャーだ。ダークホースだ。台風の目だ。番狂わせ、起こしてやろうぜ」

「「おう!」」

「今日も頼んだぞ、エース」

「任せといてください」

「しゃっ、行くぞ!」

「「おぉ~!!」」


士気を高めてロッカールームを出た。


 入場をして、握手を交わし、写真の撮影が終わり、試合が始められた。

 試合は下馬評通りフランスペースで展開されていた。前半は防戦一方で、カウンターも相手CBに防がれ、ほぼハーフコートで試合が繰り広げられていた。心に少しのほころびが生まれそうなとき、吉井さんの言葉を思い出した。


『番狂わせ、起こしてやろうぜ』


へたってなんかいられない。俺は、中盤で相手からボールを奪取し、サイドを駆け上がっていた中野さんにパスを出した。ボールは見事につながり、そこから攻撃が開始した。CFの迫田さんにボールが預けられ、俺はそこからボールを受け取った。ゴールまで23m。視界良好。俺は思いっきり足を振りぬいた。ボールは勢いよくゴール左隅に飛んでいき、キーパーの手を弾き、ネットに突き刺さった。


「よっしゃっ~!」


大きくガッツポーズをして、俺はカメラにお決まりのパフォーマンスを決め、自陣に戻った。

 後半戦。相手は攻撃を強めていた。そりゃそうだ、日本なんかに先制され、ペースを握られかけているのだから。そんな焦りを見せたフランスは、脆かった。前線へのパスは繋がらず、中盤の距離もガタガタ。DFラインも揃っていなかった。そんな隙を見逃さず、俺は吉井さんからのロングフィードを受け取り、この試合2ゴール目を奪い、試合を決定づけた。

 下馬評を完全にひっくり返す結果に、世界が驚きを隠せていなかった。まさかの日本勝利。この試合に勝ったことで、俺達は古い歴史を塗り替えることに成功した。


「やりましたね、吉井さん」

「あぁ。でも、目指すのは?」

「優勝っす!」

「やってやろうぜ!」

「はい!」


その後も、厳しい試合を勝ち抜き、俺達はついに決勝戦の舞台へと上り詰めたのだった。

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