三学期
三十六話 旅立ち
2年後の三学期早々。俺は、空港に来ていた。
「これで、しばらく日本には帰ってこれないな」
独り言を零し、キャリーバックを転がそうとしたとき、
「拓斗!」
何度も聞いた、大親友の声が聞こえてきた。
「倫也。それに、みんなも」
ふり返ると、そこには倫也はもちろん、美月や真佑の姿もあった。
「どうして。誰にも言ってなかったのに」
「バカ。何年一緒にいると思ってんだ」
「拓斗の考えなんてお見通しよ」
「倫也。美月……」
「はい、コレ」
真佑が手渡してきたのは、みんなが寄せ書きしてくれたと思われる思いの詰まったサッカーボールだった。
「あれ?一つ空いてる……」
「あ、それは……」
「陽夏……か」
「うん……」
「あいつなりのメッセージかもな」
あの文化祭以降、俺と陽夏の間には、明らかに距離が生まれ、会話という会話もしてこなかった陽夏の気持ちになれば俺も何も書けない、そう思った。
「ありがとな。それじゃあ」
あまりに淡白に見えるかもしれないが、俺は涙を隠そうと、すぐに後ろを振り返った。
「拓斗!海外でも負けんなよ!」
「応援してるからね!」
「いつでも連絡してね!」
俺は右手を軽く上げて、返事をし、ゲートをくぐった。
飛行機に乗ってすぐ、窓の外はもう雲の上で空の青さを近くで感じられた。
「陽夏……、俺、頑張ってくるな」
◇◆◇◆
拓斗の旅立ちの日。私は見送りにはいかなかった。真佑に言われた寄せ書きも結局何も書かぬまま、当日を迎えてしまった。自分ではものすごく後悔しているはずなのに、何故か気持ちは晴れ晴れとしている。
「そろそろ出発したかな」
私は、なんとなく真っ青な空を見上げた。蒼天には真っ白な飛行機雲が一筋。
「拓斗、頑張ってきてね」
私はその飛行機雲を見上げ、小さくそう言い放った。
「あれ、なんでだろう。涙が……」
私の頬に一筋の涙がツーっと流れる。それは、止まることなく、しばらく流れ続けた。
一度吹っ切れた気持ち。いや、吹っ切れたと思い込んでいた気持ちは、私の心の中に空いた穴を綺麗に埋めなおしてくれた。
「いってらっしゃい、拓斗」
◇◆◇◆
「いってきます、陽夏」
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