冬休み
三十四話 高校サッカー選手権
文化祭から月日が流れて、冬休みに入った。
冬休みの一大イベントとなるクリスマス。俺は、陽夏の涙を忘れられず、美月や倫也たちからの誘いも断り、一人でぼんやりと天井を眺めていた。
そんな味も素っ気もない冬休みを過ごし、俺は運命の高校サッカー選手権に臨んでいた。予選は言うまでもなく、圧勝で優勝していた。
「全国もパパっと優勝しちゃいましょう!」
「おい、全国の舞台を舐めんなよ!」
「分かってますって。ほら、一回戦の会場着きましたよ」
バスから降りた俺達は、ゆったりとしたムードで試合に臨んだ。相手は過去3度の優勝を誇る西博多高校だった。
「相手も勝つ気で来てる。気ぃ抜くなよ!」
「おっす!」
試合開始のホイッスルが吹かれ、ボールが動き出した。
試合は終始、桐櫻学園ペースで進められた。前半開始五分で先制に成功し、そこからは怒涛の攻撃ラッシュで、結果7対0という大差での勝利となった。
その後も、大差をつけて勝利を重ねていき、準決勝までで、チームとして17得点。失点は0という形で決勝戦に臨んでいた。
「いよいよ決勝っすね」
「去年も立った舞台だが、緊張するな」
「ま、気楽にいきましょう。俺が、チームを勝たせますから」
「頼もしいな。任せたぞ」
「うっす」
チームにはいい意味での緊張のいろが見え、今年の優勝も盤石だと思われていた。
ピーッ!
審判の笛がピッチ上に響き渡り、試合が開始された。
試合は予想通りの展開。とはいかなかった。前半20分に、相手に先制されてしまった。
「まだこの時間だ!集中切らさず、一点返すぞ!」
「もちろんです!」
正直、前半のうちに同点にしておきたかったのだが、相手の強固な守備に阻まれ、シュートをほとんど打つことが出来ぬまま、前半を折り返した。
ロッカールームでは火花が散るような言い合いもなければ、変に緊張するような雰囲気もなかった。
「後半は、俺にボール集めてください。起点になるんで、好きに動いてください」
「分かった。任せた」
なんとなくの戦術を確認し、ピッチに戻った。会場では当たり前のことながら、俺達を応援する声や、相手を応援する声。その他、諸々の声が聞こえてきていた。
「負けれねぇよな……」
空を見上げ、ボソッと呟いたとき、後半開始のホイッスルが吹かれた。
開始早々のロングボールを落ち着いて処理し、ボールが足元に転がってきた。これまでの試合を見てか、相手は、俺に3人の選手をぶつけてきた。
「きっちぃ」
厳しい体勢でボールをキープし、バックに戻すフリをした。それに釣られ、2枚のDFが脚を伸ばしてきた。それを見て、俺はボールの上を空振りして、軽く踵に当ててもう一人のDFも抜き去った。この時点で、2人差で人数の優位に立っていた。3人を一気にかわした俺は調子に乗った俺はさらに加速し、ペナの外ギリギリまでたどり着いた。この時点で俺は5人のDFを交わしてきていた。目の前にはJ1内定の今大会最強の盾を誇るCBが立ちはだかっていた。さすがの俺も抜けないのは分かっていた。ため、左足でキックフェイントを入れ、空いた股下を通すように右足を思いっきり振りぬいた。ボールは低い弾道のまま、ゴール左隅に叩き込んだ。後半5分での出来事である。
その後、調子づいた俺達は後半のうちに3点を重ね、4対1というスコアで優勝をものにした。
優勝インタビューのような面倒くさいのは適当に受け流し、優勝旗やその他諸々を受け取り、大会の全日程が終了した。
「優勝しましたね~」
「だな~」
「齊藤先輩、オファー来てないんすか?」
「わからん」
帰りのバスの車内は優勝校とは思えない、穏やかな空気が流れ、日常のような時間を過ごしていた。
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