三十三話 文化祭#4
「お待たせ、美月は?」
「もういま~す!」
「早!」
「じゃあ、後半の部、行きますか!」
「おう!」
後半の部も、前半の部同様。いや、それ以上にテンションを上げて取り組んでいた。だが、最終公演になるまで、陽夏の姿は現れなかった。
最初にランウェイを歩いているときも、倫也と共に歩いているときも、なぜだか陽夏の姿を探してしまっている俺がいた。
そして、ラストに美月とランウェイを歩いているときに、教室の後ろの扉からオレンジ色をした一筋の光が、差し込んできた。ふと、視線を逸らすと、扉の陰から陽夏が現れ、中に入ってきた。陽夏の方を見ているとき、隣で美月がバタンと倒れた。
「立てるか?」
「無理そう」
「そうか……」
少しの思考の時間を経て、俺はお姫様抱っこをして、そのままランウェイを歩いた。その光景に、観客の子達もワーワーとわめき散らしていた。ステージの先端、ポージングに迷っていると、美月が、会場にいる全員に見せつけるかのように俺の頬にキスをしてきた。
「おいっ……」
「えへへ」
おどけて微笑みかけてくる美月の表情に胸が大きく弾むのを感じた。その時、再び教室の扉が開かれ、陽夏が飛び出していくのが見えた。俺は少し急ぎ足でランウェイを戻り、教室を飛び出した。
「拓斗、ラストのは?」
「悪い。参加できない」
後ろから聞こえてきた美月の声に適当に返事をし、陽夏の背中を追った。
「陽夏!待てよ!」
陽夏の腕を掴んだのは、秋の乾いた太陽が照り付ける屋上だった。
「陽夏。なんで逃げるんだよ」
「別に、逃げてなんか、ない……」
「あのさ、最近、俺の事避けてない?」
「避けてない」
陽夏は無表情で左下のコンクリートを眺めている。
「…………」
改めて考えてみたところ、俺はなぜ、陽夏を追いかけてきたのか分からなくなり、黙り込んでしまった。
2人の間には、長い沈黙が訪れた。聞こえてくるのは文化祭の喧騒と、風に揺れる自分たちの服の擦れる音だけだった。
「……あのさ、拓斗」
沈黙を破ったのは、意外にも陽夏だった。
「なに?」
「小さい頃にさ、2人でした約束……覚えてる?」
「約束……」
俺は、必死に記憶をたどった。だが、思い出されるのは自宅の庭でサッカーをしている絵や、近くの公園で開かれた小さなお祭りに行っていた、そんな記憶ばかりだった。
「そんなのしたっけ?ごめん、どんなのだった?」
忘れている記憶を取り戻すべく、陽夏に聞き返した。すると、陽夏は悲しそうな表情を浮かべ、屋上を飛び出していった。
「陽夏……」
俺は、陽夏との約束思い出そうと頭を悩ませながら教室に戻った。
「拓斗、どこ行ってたの?」
「まぁ、ちょっと……」
そして、文化祭最後の花火を教室の窓から見て、片付けをした。
「はぁ、疲れたぁ」
片づけを終え、俺はいち早く教室を出て寮戻り、ベッドの上にダイブした。
「約束って、何だよ……」
陽夏が屋上から飛び出していくとき、すれ違いざまに見えた陽夏の涙が、頭に焼き付いて離れなくなっていた。
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