三十一話 文化祭#2
「実行委員長~。行きますよ~」
教室を出てすぐ、齊藤先輩が俺をいじるような口調でそう言ってきた。
「は~い。齊藤先輩、裏方の仕事、任せましたよ?」
「おう。任せとけ」
話をしながら体育館の裏口から、中に入った。
「あのさ、拓斗君。衣装、これで合ってるの?」
入ってすぐに俺に声をかけてきたのは、純白のドレスを身に纏った七瀬先生だった。
「はい」
落ち着いて返事をしてはいるが、本当は心臓が口から出そうなほど緊張していた。
「ほんとに?」
「はい。七瀬先生、いつにも増してお綺麗ですよ?」
「拓斗君……、またお世辞なんか言っちゃって」
「ほんとのことですよ。ね?齊藤先輩」
「そ、そうだな。やば、そろそろ時間だ。委員長、七瀬先生、生田たちもスタンバイよろしく」
「は~い。七瀬先生、お願いしますね?」
「うん。よろしく」
俺達は、齊藤先輩に促され、ステージに登壇した。
「はいっ、始まりました~。第1回桐櫻学園ミス・ミスターコンテスト!司会は私、河合が務めさせていただきます。どうぞよろしく。そしてそして、審査委員長は、今学園全体でイケメンと話題になっている1-Cの加藤拓海が務めます!」
「「きゃ~!!」」
女子の黄色い声援がここまで聞こえてくる。
「さらに、特別審査員には、桐櫻学園のプリンセス。純白のドレスを身に纏っての登場になります、七瀬理佐先生です!」
「七瀬先生!」
男子たちの強い声が観客席から飛んでくる。
「そのほか、三人の審査員が公平に審査をして、ミス・ミスターコンのグランプリを決めていきます!まず初めにミスターコンから始めよう!学園内でも選りすぐりのイケメンたちが、ここに集結するっ!」
河合先輩の見事な前説の終わりと共に、会場が暗転し、スポットライトが灯り、軽快な音楽が会場を包み込んだ。その音楽と共に、最終審査まで残った強者たちがステージに登場してきた。
「エントリーナンバー1番――――」
と、各個人の名前を紹介していき、審査に入った。
「最終審査、まずはじめはこちら!」
スクリーンには、俺が徹夜して作った映像が流れ出した。
「この映像、よく作ったね?」
七瀬先生に耳元でそう囁かれ、身体をビクッと大きく震わせてしまったが、
「ありがとうございます。こういうの得意なんです」
と平静を装って返事をした。
「第一の審査内容は、秋のデートコーデ対決だ!」
会場からは歓声が上がった。
「それでは審査内容の質問をさせていただきます。この審査はですね、この季節に、女の子とデートをするとなった時、どのような服装をしてくるのか、と言うのを審査するものになってます」
河合先輩が言い終わった時、
「そのままやないか~い!」
と、観客席からツッコミが飛んできた。
「ナイスツッコミです!」
会場内に大きな笑い声が起きた。
「では、みなさん。お着換えの方をお願いします」
と言うと、強者たちはステージの裏の方に消えて行った。
その後、様々な審査を行い、全員での協議の結果、グランプリが決定した。
「初代、ミスターコンテストグランプリは――――」
ドラムロールが流れ、シンバルの音が大きく響いた。そのタイミングで七瀬先生が、
「3年C組の長谷川徹君です」
と言い、長谷川先輩に花束を手渡した。長谷川先輩には最高の思い出となったことだろう。
「これにて、ミスターグランプリを閉幕します!尚、五分の休憩をはさんで、ミスコンを始めますので、ご興味のある方は、ぜひ、ご覧になってください。それでは失礼しま~す」
河合先輩がそう言って、俺達はステージから降壇した。
「七瀬先生、ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ。こんなドレスまで用意してもらっちゃって」
少し照れてる七瀬先生に、からかい半分で河合先輩が
「ステージに拓斗と上がってきたとき、結婚式かっ!って思っちゃいましたよ」
と言うと、七瀬先生の頬が一気に赤くなっていった。
「七瀬先生、大丈夫ですか?」
俺は心配で、七瀬先生の顔を覗き込んだ。
「顔、真っ赤じゃないですか。熱あるかも……」
俺は七瀬先生の額に自分の額をくっつけた。七瀬先生のおでこは、煮えたぎったやかんのように熱くなっていた。
「七瀬先生、ほんとに大丈夫ですか?」
「ダ、ダイジョブダイジョブ。ソレジャアネ」
七瀬先生は片言でそう言い残し、俺達の前から去って行った。
「七瀬先生、大丈夫かな……」
「お前、ほんと鈍感な」
齊藤先輩にそう言われたが、
「へ?」
俺はそんな間抜けた声を上げることしかできなかった。俺の心には、七瀬先生を心配する気持ちだけがやんわりと残っていた。
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