三十話 文化祭#1

文化祭当日――――


 俺は7時前に学校に登校した。


「いやぁ~。やっぱ早起き苦手だなぁ~」


教室で1人、大きな欠伸をしながら、伸びをして独り言をつぶやいていた。ぼんやりと窓の外を眺めていると、廊下から誰かの足音が聞こえてきた。普段なら気にしないのだが、この日はなんだか気になって、扉からひょっこり顔を出し、廊下の方を確認した。


「陽夏か。おはよう」

「おはよう」


いつも通りの静かな返事が、うつむいた前髪の奥から返って来た。


「あ、あのさ……。もし、もしよかったらなんだけど、これ、見に来てよ」


俺はすぐ近くにあったチラシを一枚とり、陽夏に手渡した。


「う、うん。わかった……」


力のない返事だったが、陽夏は確かにチラシを受け取ってくれた。


「約束だかんな?」

「……うん」


と話していると、遅刻常習犯の真佑がやってきた。


「おはよ!拓斗、陽夏」

「おはよう。てか、珍しいな。真佑がこの時間に来れるなんて」

「うっさい!」


力加減の狂った平手打ちを肩に受け、少しよろける。


「あ、私やらなきゃいけないことあるから、先行くね?」

「そっか。じゃーね」

「またな」


陽夏の背中が教室の中に消えて行ったとき、真佑が母親のような笑みを浮かべながら、


「なんか、久しぶりに陽夏と拓斗が話してるの見た気がするなぁ」


と、ボソッと口に出した。


「そうか?あんまり気にしてなかったわ」


何も考えなしに口にした一言に真佑は驚きの声を上げた。


「えっ……?」

「ま、今日は頑張ろうや」

「う、うん。そうだね」


真佑の驚きの意味も考えず、ありきたりな言葉を残して、俺は教室の中に入った。


 その後、続々とクラスメイトが集まってきて、全員が揃った時、


「じゃあ、委員長。円陣、よろしく!」


倫也が不敵な笑みを浮かべながら、そう言ってきた。


「わーったよ!」


俺は倫也と肩を組み、全員が来るように促した。


「えぇ~っと、今日はいよいよ本番ですね」

「なんか、固いぞ!」

「うるせぇ。えっと、気を取り直して。これまで、各々頑張ってきたと思う。だから、その成果を今日、この場で出し切ってやろう!C組ぃ~!ファイっ!」

「「おぉ~!!」」


地響きが起きそうなほど大きな声が教室に響き、輪を解いた俺達は、サッカー日本代表さながらに全員とタッチを交わした。


「もうそろ時間だな。ビラ配りの人は正門向かって」

「OK。行ってきます!」

「美月、倫也、真佑。やってやろーぜ!」

「うん!」

「おう」

「うん」


四人で改めてハイタッチをして、ステージでの士気を高めた。


 文化祭が始まって10分。俺達の最初の公演が始まろうとしていた。待機所のカーテンの隙間から、会場の様子を見て見ると、客席は超満員。教室の外にも、行列が成されるほど注目されていた。


「大盛況だな?」

「だな」

「尚更、頑張んねぇとな」

「よし。気合入れてこ!」

「おぉ!」


と、小さく円陣をすると、軽快な音楽が流れ出した。演出は、TGCさながらである。(見たことはないのだが……)


「拓斗、スタートかましてこい!」

「おう!」


俺は堂々とステージに上がり、悠々とランウェイを歩いた。衣装は、モノトーンで落ち着いたような感じだが、ダメージの入ったジーンズで少しやんちゃなイメージをたしたようなクールなコーデになっていた。客席からは、黄色い声援が大きく飛び交っていた。テンションの上がってきた俺は、その子に向けてポーズを決めて、ランウェイを進み、先端でもう一度しっかりとポージングをして、来た道を戻った。


「拓斗、ノリノリじゃん!」

「いやぁ。やってみたら楽しいわ、これ」

「将来はモデルかな?」

「バカ。次、お前だろ」

「おう。行ってくるぜ」


倫也もランウェイを堂々と歩き、続く翔太や司も楽しそうにウォーキングをしていた。

 女子の部。トップバッターの美月は、場慣れ感を感じさせるほど笑顔を振りまいてランウェイの上を歩いていた、客席から飛び交う男子の熱い想いをあしらうかのように、バーンと拳銃を撃ったようなポーズをして、ペロッと下を出した。それを見た男子たちは、今にも崩れ落ちそうなほどに強く胸を押さえ、悶絶していた。


「美月、めっちゃ可愛かったよ?」

「ほんと?嬉しい」

「次も頑張ろう」


その後、真佑たちのウォーキングを終え、男子ペアのウォーキングの時間になった。


「倫也、行くぞ」

「おう!」


俺は倫也と一緒にランウェイを歩いた。女子たちの黄色い声援を受け、ランウェイの先端では、俺が倫也にバックハグをするという、恥ずかしいポージングをした。終始照れを隠せてはいなかったが、女子からは大盛況であったようだ。

 そして、最後に男女ペアのウォーキングになった。俺と美月は大トリを飾るような順番につかせてもらっていた。


「拓斗。行こうか」

「そうだな」


俺達は腕を組んでランウェイを歩いた。女子からは黄色い声援が、男子からはドスの聞いたヤジが飛んできていた。最後のポージング。俺は、美月にバックハグという形をとった。


「「きゃぁ~!!」」


さっきまで聞こえていたヤジを全てかき消すほどの悲鳴を聞きながら、俺達はランウェイを戻って行った。


「拓斗。私なんかドキドキしちゃった」

「俺も緊張した」

「お二人さん、次も頼んだよ?」


今回のファッションショーのプロデュースを担当してもらった高木がそう言ってきた。


「おう!」

「任せといて」


その後、三回の休憩を経て、昼休憩の時間になった。


「んじゃ、することないと思うけど任せた。俺は、ミスコンの審査行ってくるわ」

「おう。頑張れよ」

「それは俺じゃなくて美月に言ってやれよ」

「それもそうだけどよ。七瀬先生の隣に一時間って体持つか?」

「それは、忘れてた」

「ま、頑張れや」

「おう」


俺は軽く倫也と会話をしてから教室を出た。

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