二十九話 文化祭前夜

 文化祭前夜――――


「やっとステージ完成したな?結局、一回も通しできなかったけど、どうする?」

「ま、何とかなるっしょ。みんななら。じゃあ、明日に向けて、帰りますか」

「だな。みんな、気をつけて帰れよ?」

「おう。じゃあな」


俺は、全員が教室の外に出たのを確認して、教室のカギを閉めた。そして、そのカギを、職員室の所定の位置に返し、学校を出た。


「いよいよ明日か~」


独り言を零しながら、大きく伸びをすると、視界が急に真っ暗になった。


「だ~れだっ?」


聞きなれた可愛らしい声。すぐにわかった。でも、この状況が、俺のいたずら心に火をつけた。


「う~んと、誰かな?真佑かな?」

「違~う!」

「分かってるよ。美月だろ?」

「正解!」


いきなり開かれた視界の先に、嬉しそうな顔をした美月が現れた。


「もう帰ったんだと思ってた。なんで残ってたの?」

「それは……拓斗と一緒に帰りたかったから」

「帰りたいって、5分くらいしかかからないじゃん」

「でも、帰りたいの!」

「わかったよ。じゃ、帰ろ」

「うん」



俺達は、校門を通り、寮までの道のりをゆっくりと帰った。


「明日さ、ペアで歩くじゃん?」


美月がいきなり話始めた。


「うん。それがどうしたの?」

「あのさ?腕とか、組んでもいい?」

「良いんじゃね?結局、その場の空気とかだろ?」

「そうだよね。あぁ~!今から緊張してきたぁ!」

「大丈夫だよ。美月は何もしなくても可愛いんだから」

「そ、そそ、そんなにストレートに言われると照れるなぁ」

「まぁ、お互い頑張ろうな?美月はミスコンの方もあるんだし」

「そうだね。じゃあ、またね?」

「また」


俺は後ろ髪を引かれる思いで、美月と分かれた。

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