二十七話 部活再開!
駅から学生寮までの道のり――――
学校から、運動部の低く唸るような声が聞こえてきた。ここまでサッカーから離れていると、少し、懐かしさを感じる声である。
「美月、ちょっと学校寄ってもいい?」
「いいけど、どうしたの?」
「齊藤先輩との約束思い出してね。ちょっと、サッカー部の視察」
「いいよ!拓斗がサッカーやってる姿、大好きなんだ」
「サッカーはやらないけど、OKってことだよな?」
「うん」
「じゃ、行こう」
俺達は校門をくぐり、サッカー部のグラウンドに向かった。
「おぉ、やってるやってる」
俺は、先輩や、倫也に見つからないように、校舎の陰からひっそりと練習を見た。
「で、どうなの?」
「まぁ、入学した時からはかなり成長してると思うけど、試合見てないからわからんな」
「そうなんだ」
と話していると、グラウンドの方から
「それじゃあ、紅白戦始めるぞ!」
という齊藤先輩の声が聞こえてきた。
「おっ、噂をしてればなんとやらですね」
「だな。楽しみだ」
意外とすぐに試合が開始された。
試合が開始され、俺達はグラウンドのすぐ隣にあるベンチに腰掛け、試合を観戦した。
「少しはましになったかな?」
ポジションも流動的に入れ替わり、パス回しもよりスピーディーに正確になっていた。だがしかし、ラストの決定力の面で、力を発揮できず、得点に至らないケースが多かった。
「倫也、ライン低い……。齊藤先輩、パスのタイミング遅ぇ~よ……」
文句のような独り言をぶつぶつと呟いていると
「拓斗、楽しそうだね」
美月が、微笑みながらそう言ってきた。
「そ、そうか?」
「うん」
「ふ~ん」
「拓斗。もしかしたら、先輩達、拓斗が来たことに気づいてるんじゃないの?だから、早く入って来いってメッセージ出してるんじゃないかな……?」
「齊藤先輩って、そんなに頭良い先輩だったかな?」
「それは、わからないけど」
「でも、美月に言われたらそんな気してきたわ」
「行くの?」
「おう。一応、持って来といて良かったわ」
「朝から、大きい荷物背負って何かと思ったよ」
「んじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。私は、ここで見てるね?」
俺はスパイクに履き替え、レガースまでしっかり装着し、グラウンドに入った。
「やっと来たか、清水」
「先輩、いいチームになりましたね?」
「相変わらず上からだな。まあいい。神谷、交代だ」
「はい……」
今年の編入生と思われる神谷は、不服そうに返事をして、強い視線をこちらに向けビブスを手渡してきた。
「拓斗、本気でやってもいいぞ」
「まあ、信じてみっか。みなさん、ついて来てください」
俺は先陣を切って、グラウンドに入った。
「紺野先輩は3m開いて。河合先輩は逆で2m絞ってください」
「お、おう」
前半のスコアは0対0。スコアレスで後半戦が開始された。
ボールを受け取り、顔を上げた。サイドでは河合先輩が大きく手を上げて、ボールを要求している。俺は、河合先輩のいる方向に視線を送り、キックモーションにはいった。相手も河合先輩を警戒して、パスコースをふさいできた。その瞬間、俺はアウトサイドで、河合先輩とは反対方向を駆け上がっていた紺野先輩に、パスを供給した。紺野先輩は、待ってましたと言わんばかりに完璧なトラップを決め、加速していった。DF陣も裏をかかれ必死に追いかけるが、結局追いつくことが出来ず、後半開始早々に得点に成功した。
「ほぉ~、やるじゃん」
「清水、どうだ?」
「いいんじゃないですか?というわけで、今日からお世話になります」
「本当か、清水」
「マジっすよ。それじゃ、ギア上げてきますよ?」
その後、バンバンと得点を重ねていき、後半だけで6ゴールを決め、見事勝利を収めた。
「えぇ~っと、清水拓斗です。今日から、お世話になります。よろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
先輩方は、一言も嫌みを言うこともなく、俺を受け入れてくれた。
「倫也。改めて、今日からよろしくな?」
「遅ぇ~よ、待ちくたびれたわ」
「ま、これからは練習も試合も参加するから、楽しんでこーぜ」
「おう」
「齊藤先輩、すみません。この後用事あるんで、先失礼します」
「わかった。これから、頼んだぞ」
「うっす。じゃ、失礼します」
こんなにも素晴らしいチームを作り上げた先輩に敬意を表し、深々と頭を下げてグラウンドを後にした。
「お待たせ、美月」
「ううん。拓斗、すごくかっこよかった。でもさ、この前見た時より上手になったっていうか、すごかったよ」
「語彙力。ま、先輩にあれだけの大口叩いといて、自分が進歩してないわけにはいかないからな」
「それもそうだね。これからは、ちゃんとサッカーするんでしょ?」
「もち。時間あったら、いつでも見に来てくれよ?」
「うん」
「そんじゃ、また学校で」
「うん。またね」
美月に手を振り、俺は男子寮に向かって歩き出した。
「美月、可愛すぎだろ……」
ベッドに身体を預けながら、一人ボソッと呟いた。
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