二十六話 文化祭(準備編?)#3

「いらっしゃいませ。好きなところに座ってね」


優しそうなご婦人が笑顔でそう言った。俺達はとりあえず、窓の近くの四人掛けの席に座った。


「どれにしようかなぁ」

「どれもおいしそうだね」


小さなメニューに記された料理はどれも食欲をそそるものばかりだった。


「美月、決まった?」

「う~ん、ちょっと迷ってて」

「どれ?」

「これと、これ」

「お、奇遇。俺、ちょうどカレー食べようとしてたから、美月はスパゲッティにしな?」

「いいの?」

「もち。すいませ~ん」


店員さんを呼び


「えっと、特製カレーライスにとんかつのトッピングと、このキノコのスパゲッティください」


と注文した。


「以上ですか?」

「はい」

「ご注文繰り返させてもらいます――――」


内容の誤りを確認し、ちゃんと返事をしてメニューを返した。


「拓斗、ありがとね?」


ふいに美月がそう言ってきた。


「何が?」

「何でもない」

「何だよ」

「なんでもないって」

「そっか」


と、会話とは言えないような会話をしていると、


「拓斗……」


と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「陽夏……」


陽夏の隣には、見たことのない女の子がルンルンしながら座席を探していた。


「陽夏ちゃん、何してたの?」

「えっ……。ちょっと、買い物に」


視線を泳がせて、恐る恐る返事をする。


「陽夏、どこにする?」

「ごめん、あや。店変えよう?」

「えぇ~、なんで?」

「ごめん。今日は私がおごるから」

「分かったよぉ~」


陽夏とあやと呼ばれるその女の子は、店を出て行ってしまった。


「ねぇ、拓斗?」

「なに?」

「陽夏ちゃんさ、最近拓斗に冷たくない?」

「えっ?」


核心を突いたことを言われ、動揺があらわになる。


「なんか、最近拓斗元気ないなぁと思って見てたからさ。もしかしたら陽夏ちゃんが原因?なのかなって」

「そ、そんなことないよ?」

「そんなことあるときの反応だよ?それ」

「まあ、それはあるけど……。なんとかなりそうだわ」

「そう?ならいいけど……。拓斗、あんまり溜め込まないでね?拓斗、昔から相談とかするタイプじゃないから心配で。私でよかったらいつでも相談乗るからね?」

「サンキュ」


会話が一段落した時、注文していたカレーとスパゲッティが到着した。


「いっただきま~す」

「いただきます」


手を合わせてお互い料理を食べ始めた。


「うまっ!」

「ほんとだ!美味しい!」


ほっぺが落ちてしまいそうなほど美味しい料理を、2人で堪能していると、美月が


「はい、あ~ん」


と自分が食べていたスパゲッティを差し出してきた。


「恥ずかしいからやめろよ……」

「いいからいいから。はい、あ~ん」


仕方なく俺は、小さく口を開けてスパゲッティを口に入れた。


「うん。美味しい」

「でしょ?」


美月は、さも自分が作ったかのように自慢げな表情を浮かべていた。

 美月に差し出されたスパゲッティを喉の奥に沈め、自分のカレーライスをスプーンですくい、自分の口に運ぼうとした。その時、


「んぅ~」


美月が変な声を出して、こちらに何かをアピールしてきた。


「ん?」

「だから……。私には?」


少し恥ずかしそうな表情を浮かべ、顔をこちらに差し出してきた。


「しゃーねーな……。ほい、あ~ん」

「あ~ん。美味しいっ!」

「大げさだな?」

「拓斗に食べさせてもらったからかな?」


上目遣いをして、そう言葉にした美月に、俺は恋に落ちてしまった。



「ふぅ、お腹いっぱい」

「だな。てか、この後なにかあったっけ?」

「特にないよ?」

「んじゃ、寮戻るか」

「だね」


俺は、二人分の会計を済ませて、店を出た。


「拓斗、ご馳走様」

「いいって、これぐらい」


そうして俺達は電車に乗り込み、寮に戻った。

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