二十話 雨空

 次の日。俺は、少しだけ寝坊をしていつもより遅く学校に登校した。教室前の廊下を歩いていると、陽夏の姿が見えた。


「陽夏、おはよ」


と声をかけてみたが、この日も昨日同様、完全に無視されてしまった。


 その次の日も、その次の日も陽夏の耳に俺の声が届いていないのかはわからないが、僕の挨拶や問いかけに答えてくれることはなくなってしまった。そんな淋しい日々を送る中で、以前より倍以上に声をかけてくるようになったのが美月だった。


『拓斗、お昼一緒に食べよ~』

『拓斗、勉強教えて~』

『拓斗』

『拓斗~』


 陽夏との間に距離ができ始めてから、早くも2週間が経ち、俺は少し気になって真佑に相談してみることにした。


「なあ、真佑」

「どうしたの?拓斗」

「あのさ。放課後って、時間ある?」

「あるけど……」

「話があるから、屋上に来てくれない?」

「……うん。あ、でも今日日直だから遅れる」

「OK」


 そして、適当に授業を受け、放課後を迎えた俺は、すぐに荷物をまとめて屋上に向かった。空は青々としており、白い雲が悠々と流れていた。

 のんびりと空を眺めていると、屋上の扉がゆっくりと開かれた。


「ごめん、おまたせ」

「それは、全然。悪いな、時間作ってもらっちゃって」

「ううん。で、話って何?」

「あのさ。最近、陽夏に避けられてる気がしたんだけどさ、俺、何かしちゃったかな?」

「えっ?そうなの?おっかしいなぁ」

「おかしいって?」

「あぁっと、それはこっちの話」

「そ、そうなのか。でも、その様子だと何も聞いてないかな?」

「うん。ごめん……」

「いや、全然。ありがとう」

「ほんとごめん。力になれなくて。私からも訊いてみるね?」

「ありがとう」


真佑の後ろ姿を見送り、俺は再び空を見上げた。


「俺、なんかしたかなぁ……」


とポツリ呟くと、青い空から一滴の雫が額に落ちてきた。


「マジかよ」


俺は、急いで荷物を持って校舎に入った。その瞬間、雨は本降りとなり辺り一面が灰色に染まった。


「はぁ。危うくびしょ濡れになるとこだったぁ」


俺は胸ポケットに入っている、小さく拙い折り鶴を取り出した。


「どうしたんだよ、陽夏……」


 折り鶴を掌に乗せながら、昇降口まで歩いた。


「あっ……」

「あっ……」


昇降口で靴を履き替え、顔を上げると、そこには傘を持たずあたふたしている陽夏の姿があった。


「傘、ないのか?」

「……」


沈黙の後、陽夏の首が縦に小さく動いた。


「じゃ、これ」


俺は自分の持っていた折り畳み傘を陽夏に差し出した。


「えっ、これ……」

「寮すぐそこだから。んじゃ、風邪ひくなよ!」


俺はそう言って、カバンを頭にかざして寮まで全速力で帰った。


「ふぅ。着いたぁ」


びしょ濡れのまま、寮の廊下を歩き、そのまま風呂場に直行した。

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