十八話 夏祭り 後編
2人で参道をゆっくり歩き、本殿まで行ける階段の中腹に腰かけた。
「拓斗?」
「なに?」
「ほんとに、今更なんだけどさ。その……彼女とかっているの?」
「ほんと今更だな。……いねーよ。いたら、夏祭り彼女と過ごすだろ?」
「そ、そうだよね。そりゃそうだ」
「どうしたんだよ急に」
「べ、別に?」
と、陽夏が視線を逸らしたときに、夜空に一筋の光が、龍のごとく天に昇って行った。そして、一瞬光が消えたかと思うと、夜空に、真っ赤な大輪の花を咲かせた。その後、色とりどりの小さな花が、辺り一面に咲き誇り、最後に天高く光が昇って行き。この日一番の大きな赤色の花を濃紺のキャンパスの上に色を添えた。
「綺麗だね?」
「綺麗だね……」
彼女は、夜空を見上げそう呟いていたが、俺の目には、真っ赤な花火に照らされた陽夏の横顔しか見えていなかった。
花火が終わり、ぼちぼちと参道から人影が減ってきていた。
「俺達も、そろそろ帰ろうか」
「そうだね」
陽夏が立ち上がった時、慣れない下駄に体勢を崩し、階段から足を踏み外した。
「陽夏!」
俺は咄嗟に陽夏の右腕を掴み、自分のもとに引き寄せた。
「大丈夫か?」
「うん、ありがと」
俺はそのまま手を離さず、参道を歩いていた。すると
「拓斗~!」
背後から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。振り返るとそこには、美月が立っていた。
「美月。元気だったか?」
「うん。それより……」
美月は俺の手元に視線を落とした。
「あ、あぁ……。これは、事故で……。たまたま……」
と、陽夏が必死に美月に弁解していた。
「ううん。別に、気にしてないよ?あのさ、拓斗。寮まで一緒に行っていいかな?」
「お、おう。いいよ」
俺は、両手に花状態で参道を歩いた。道行く男性たちが、こちらをチラチラと見てくる。俺は、優越感に浸りながら人通りのまばらな大通りに出た。
「美月、今日は誰と?」
「私は……一人で」
「あれ?でも、美月さ、学校の男子たちにめっちゃ誘われてたじゃん」
「そうなんだけど……。私は…………」
「ん?ごめん、聞き取れなかった」
「何でもない。拓斗だって、梅澤先輩とか、いろんな人に声かけられてたじゃん」
「ま、まあ。それより先に陽夏と約束してたしな」
これは嘘である。体育祭の前から、いろんな人に声をかけられていた。でも、どうしても陽夏と行きたくて、頑なに断っていたのだ。
「そーなんだ。ふ~ん」
学校の最寄り駅に到着し、俺達は陽夏を見送った。
「ねぇ、なんで陽夏ちゃんといたの?」
美月が俯きがちに聞いてきた。
「さっきも言ったろ?約束してたんだって」
「でもさ……」
「でもってさ。美月は俺の彼女でもないんだから、夏祭り誰と行くかぐらい俺の勝手だろ?」
少し語気が強くなってしまった。
「うん。そうだよね……」
美月がものすごく淋しそうな、残念そうな表情を浮かべる。
「美月、わる……」
「ごめんね?じゃあ、また……」
「お、おう」
美月が無理やり作ったような笑顔を見せて、僕の前から走り去っていく。その時の、微妙な笑顔を俺は忘れられずにいた。
その後、特に何をするでもなく、高校生活初めての夏休みが終わりを告げた。
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