十七話 夏祭り 中編

 俺は適当に塩焼きそばを購入し、その場でササっと平らげて、再び歩き始めた。


「拓斗!見て見て!金魚すくいあるよ!」

「欲しいの?」

「うん」

「しょうがないなぁ」


俺は屋台のおじさんに300円を支払い、ポイをもらった。16年間生きてきて、初めての金魚すくいに少し緊張したが、やってみれば簡単なもんで3匹すくって、おじさんにポイを返した。


「あんちゃん、上手だね?」

「いえ、そんなことないですよ」

「金魚すくいが上手い奴に、悪い奴はいない。俺の持論だがな。お嬢さん、いい彼氏持ったな?」

「は、はい……」


照れたように視線を逸らして微笑む陽夏の表情にキュンとしていると、


「あれ、拓斗じゃね?拓斗~!」


と遠くから、だいぶ馴染みのある声が聞こえてきた。


「倫也か。倫也~!」


おおきく手を振って、倫也がこちらに走ってくるのを待った。


「久しぶりだな。一人か?」

「あぁ。拓斗は、陽夏ちゃんと?」

「まあな」

「おっと。じゃあ、俺は邪魔だったかな?そんじゃ」

「おい!」


倫也の肩を軽く叩き、倫也を送った。


「陽夏。あのさ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

「うん」

「ここで待ってて?」


俺はトイレに向かい、用をたした後、陽夏のいた場所まで戻ったが、そこに陽夏はなかった。


「陽夏?陽夏~!」


俺は陽夏の名前を叫んだが、祭囃子の音楽と、お祭りを楽しんでいる人たちの賑わいで、俺の声はそこまで遠くに響かない。俺は、急いで階段を駆け上がり、陽夏の姿を探した。


「頼む。見つかってくれ!」


俺は目を凝らして、人込みの中にいる赤色の浴衣を着た陽夏を探した。


「どこにいるんだよ」


参道から少し視線を逸らし、少し離れた林の近くで、見知らぬ男3人に無理やり連れて行かれている赤い浴衣を着た女性を見かけた。俺は、反射的に陽夏だと思い急いで階段を駆け下りた。人混みを必死にかき分け、さっき女性を見かけたところまで向かった。林にゆっくりと踏み入り、祭囃子の中に微かに聞こえる葉が擦れる音を聞き取った。俺は、音が聞こえてきたほうに急ぎつつも静かに向かった。そして、手足を縄で縛られ、口に猿轡さるぐつわをはめられた陽夏を見つけた。


「おい!何やってんだよ!」


俺は、声を張り上げた。


「兄ちゃんこそ、こんなところで何してんのさ。お祭りの会場はあっちだぜ?」

「お兄さんたちこそ、何をしてるんですか?その女性、とても苦しそうですけど……」

「こいつ、可愛いし、胸もあるから、犯してやろうと思ってな?だからよ、あっち行ってくれるかな?」

「それは、やめておいたほうがいいかもしれませんね」

「あぁ?」

「そんなことやめて、お祭り行きましょうよ」

「テメェには関係ないんだよ」

「関係ないのはあんた達の方だろ」

「んだと?」

「俺の彼女に手出すなって言ってんだよ」

「あぁ、なるほどね、なるほど、そういうことか、じゃあ、彼氏さんの目の前でヤっちゃいますか」


男達は不気味な笑みを浮かべて、陽夏の方に足を進めて行った。


「やめろよ!」


俺は感情のままに、男達に拳を振るった。男たちは、結局陽夏に指一本触れることなく、その場にばたりと倒れこんだ。


「陽夏!今、外してやるからな」


俺は急いで陽夏のもとに駆け寄り、縄と猿轡を外した。


「陽夏、大丈夫か?怪我とか……」


陽夏は言葉を発さず、俺に身体を預けてきた。陽夏の肩は小刻みに震えていた。そんな陽夏をそっと抱き寄せ、ギュッと抱きしめた。


「ごめんな。俺がついていたのに、こんな思いさせて……。怖かったよな」


俺は、罪悪感に苛まれ、これ以上の言葉を発せなくなってしまった。


――――


「陽夏、少しは落ち着いたか?」

「うん……」

「怪我とかしてないか?」

「うん、大丈夫」

「そっか、なら良かった。ごめんな、陽夏のこと守ってやれなくて……」

「ううん。私も注意してなかったから……」

「俺が悪いんだ。それより、参道に戻ろう」

「そうだね」


俺達は、林の中を進み、参道に戻った。

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