十三話 体育祭(二日目)後編
「それでは、最終種目のリレーに移りたいと思います」
このリレーは学年別で各クラス全員がバトンを繋ぎ、計7200mのリレーとなっている。
「それじゃあ、一年生のリレーを始めます!位置について、よ~い……」
パンッ!
ピストルの音がグラウンドに響き渡り、それと同時に全員が地面を蹴り上げる音が聞こえてきた。俺は、アンカーという大役をいただいているので、順番が回ってくるまでにそこそこの時間があった。余裕があることもあり、ふと周りを見渡すと、アンカーの列の中に陽夏の姿があることに気が付いた。このようなリレーの場では、アンカーは男子ってのが定石というかベターだと思うが、ここで任されるってことは相当なことがあるんだろうと俺は思っていた。
レースも終盤に差し掛かり、順位は1位D組、2位A組、3位E組、4組C組……。しかも1位と2位との差は約70m。D組は前半に早い人を置いてきたようである。
D組はいち早くアンカーにバトンがつながり、陽夏は勢いよくスタートラインから飛び出していった。2位、3位のクラスがスタートしていく中、若干の遅れをとって、俺の走り出した。アンカーは400mも走ることになっているため、まだまだ逆転のチャンスは残されていた。3位のチームは5mほど先にいたため、あっさりと抜き去った。
その後、200m通過時点で、陽夏との差は20mほどとなっていた。陽夏の体力も、限界を迎えたらしく、徐々に徐々にスピードが落ち始めた。俺はそこを突いて、陽夏を追い越した。ゴールまでは後20m。俺はギアをさらに上げ、全力でゴールテープを切った。その瞬間、後ろからドサッという音が聞こえてきた。
振り返ると、ゴールの目の前で陽夏が転倒してしまっていた。陽夏が必死に立ち上がろうとするのを尻目にA組、E組がゴールラインを越えていく。陽夏は立ち上がれず、ずっとうずくまったままでいる。微かに肩も震えているような気もする。外野からは、陽夏を応援する声もたくさん届けられている。だがしかし、陽夏は未だに立ち上がれずにいる。それを見ていた俺は、今走ってきた道を戻り、陽夏の手を取った。
「陽夏、一緒にゴールしよ?」
「…………うん」
俺は陽夏と共に、ゴールテープを切った。
「お疲れ様~!」
「よく頑張ったぞ~!」
走り終わった陽夏を見て、グラウンドの外からは陽夏を労うような声援が多く送られてきていた。
「陽夏、怪我とかしてないか?」
訊ねると、陽夏はゆっくりと視線を左下に落としていった。陽夏の視線が向けられている方を見ると、陽夏の膝から真っ赤な血が流れていた。
「陽夏、歩けるか?」
「どうだろう」
先ほどはアドレナリンで歩けていたのだろうが、今はものすごく痛そうに足を引きづっていた。
「引きずると変な癖つくから……」
俺は陽夏の目の前に背を向け、地面に膝をついた。
「拓斗?」
「おんぶするから乗って?」
「ダメだよ。わたし重いもん!それに、服汚れちゃう」
「どうってことないし、服だってどうだっていい。早く」
「う、うん」
陽夏は控えめに俺の背中に乗った。
「行くよ?」
俺は陽夏をおんぶしたまま、養護教諭のいる保健室に向かった。
「深川先生!」
「どうしたの?拓斗君」
相当慌てた顔をしていたのか、先生は驚いた表情で尋ねてきた。
「陽夏が膝から血流してるんで、手当してもらってもいいですか?」
「もちろん。じゃあ、陽夏ちゃん下ろしてくれる?」
俺は陽夏を保健室の椅子の上に下ろし、立ち上がった。
「じゃ、俺行くから」
「うん。ありがとね?」
「全然。じゃ。深川先生、お願いします」
「分かったわ」
俺は陽夏を残してグラウンドに戻った。
「拓斗」
グラウンドに戻ると、ものすごく心配した表情で早瀬さんに声をかけられた。
「大丈夫。膝擦りむいただけだから」
「そっか。良かったぁ~」
真佑は安心して、胸をなでおろした。
その後、表彰兼閉会式を終え、俺達は陽夏の荷物を持って保健室に戻った。
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