十二話 体育祭(二日目)前編

 少し美月のことが気になりながらも、体育祭二日目が開幕した――――


 体育祭二日目。俺はバスケで、シューティングガードとして試合に臨んでいた。こんなたいそうな名前をいただいてはいるが、ポジションの役割とかそう言ったことは一切分からないので、俺は単純明快に得点をたくさん取った。インサイドではバスケ部が活躍してくれているので、俺は3Pで得点を稼いだ。


「拓斗!頑張れ~!」


陽夏の声が、直で耳に届いた。その言葉で、力がさらに湧いてきた俺は、その試合、総得点36点をたたき出し、ある種の伝説となった。こんな得点を取ったので、当たり前だが、一回戦は危なげなく突破した。


「拓斗!お疲れ様!」


ギャラリーから笑顔で陽夏が声をかけてくれた。それだけで、この試合に感じていた疲労感が全て吹き飛んでしまったような気がした。


「今から下行くね?」

「おう!」


俺は、体育館の入り口で陽夏がくるのを待った。


「お待たせ。改めてお疲れ様」

「お疲れ」

「凄いね!3Pシュートの成功率90%超えるなんて。プロでもそうそうないよ?」

「そうなの?ま、陽夏の応援のおかげかな?」

「え?」


陽夏の頬が熱を持ったように赤くなっていた。


「てか、これから陽夏サッカーだろ?応援行くわ」

「ほんとに?」

「おう。てか、一緒に行こ?」

「うん」


俺は、陽夏と歩幅を合わせてグラウンドに出た。するとすぐに、


「陽夏!」


と早瀬さんが小走りでこちらに向かってきた。


「真佑!お疲れ。ソフトの試合どうだったの?」

「もちろん、勝ったよ?」

「おめでとう!すごいじゃん!」

「清水君の方は?」

「聞くまでもないでしょ。もちのろんで圧勝」

「だよね。それより、これから陽夏試合でしょ?」

「うん」

「俺、今から見に行くんだけど、早瀬さんも一緒にどう?」

「いいの?」

「もちろん。ま、一人でいるといろいろあるし……」

「あ~ね。わかった」


グラウンドに到着し、笑顔で陽夏を見送った後、早瀬さんと俺は一緒にグラウンドの見える広場?のようなところに腰を下ろした。フェンス越しに見えるグラウンドでは、陽夏たちがウォーミングアップがてら、たどたどしいボールさばきでパス回しをしている。生き生きとした陽夏の表情に、心臓の鼓動が早く鳴るのを感じていると、いきなり早瀬さんが、


「ねぇ、清水君?」


と可愛らしい声で声をかけてきた。


「ん?」


と返事をしながら、手に持っていたペットボトルの水を口に含むと、


「清水君。いや、ここは敢えて拓海で。拓海って、好きな人いるでしょ?」


突然そんなことを聞かれた。俺は、先ほど口に含んだ水を吐き出しそうになったが、すんでの所で留めて、勢いよく喉に流し込んだ。


「きゅ、急に何言いだすんだよ!」


喉元に違和感を感じながら早瀬さんに言い返した。


「拓海、陽夏のこと好きでしょ?」

「はっ、はぁ?そ、そそ、そんなことないし……」

「そんなこと?」


早瀬さんの全てを見通したかのような視線に、抗えず


「なくは、ないけど……」


正直な気持ちを口に出してしまった。


「やっぱりそーなんだ。フフ」


と、早瀬さんが不敵な笑みを浮かべたとき、試合開始を告げるホイッスルが大きく吹かれた。


「ほら、始まったよ?」


正気でいられない俺を見た、早瀬さんにそう言われ、


「わかってるよ」


冷静に返事をし、早瀬さんの隣に腰を下ろした。

 試合の内容は、小学生でも頑張れば勝てそうなレベルの試合だった。まあ、初心者の集まりだから仕方ないのだが、パスも繋がらず、ドリブルもたどたどしく、シュートも枠に飛ばない。小学生サッカーを象徴するような団子サッカーを繰り広げ続けること、二十七分。スコアは0対0。混戦状態の団子の中から出てきたボールは、スペースに立っていた陽夏のもとに転がってきていた。試合時間、残すところ僅か二分。ちらりとゴールを見ると、キーパーは若干高めにポジションを設定していた。


「陽夏!シュート!」


朝のトーキックの威力を見るに、陽夏のシュートは確実に20mは飛ぶ。そう思った俺は、大きく声を上げていた。陽夏は、俺の声に驚いたように反応し、反射的に右足を振りぬいた。つま先付近に当たったボールは、綺麗な放物線を描きながら、ゴール中心に飛んで行った。キーパーをしている女の子も、めいっぱい手を伸ばしてボールを止めようとするが、惜しくも指先も触れることなく、陽夏の放ったボールはゴールに吸い込まれていった。


「陽夏!すご~い!」

「ナイスシュート!」


同じチームの女子たちが、祝福と感嘆の声を上げ陽夏を取り囲み、喜びを分かち合っていた。輪がほどけた後、陽夏がちらりとこっちを見たので、俺は全力の笑顔を浮かべて、力強くピースサインを突き出した。すると、陽夏も三割ほどどや顔が入った笑顔を浮かべながら、こちらにピースサインを出してきた。その陽夏の表情に、俺の心臓は過剰に反応し、一段と大きく跳ね上がった。

 その後、スコアは一切動かず、1対0で試合が終了した。


「陽夏~!おめでと~!」


早瀬さんは、陽夏がグラウンドから出て来るや否や陽夏に飛びついた。


「ありがと~」

「陽夏、おめでとう」


俺はそんなほほえましい光景を見ながら、俺は落ち着いたトーンで陽夏に祝福の言葉をかけた。


「ありがとう」

「すごくいいシュートだったよ?」

「そうかな?拓海の声が聞こえて、びっくりして足振っただけだよ?」

「なんにせよ、あれはいいシュートだったよ」

「拓海の声があったからだよ。ありがと」

「おう。てか、俺次の試合の準備あるから行くわ」

「そっか。次の試合も頑張ってね?」

「おう」


俺は一人、体育館に戻った。

 その後、バスケでも危なげないスコアで勝ち進み、当然のごとく優勝を収めた。そして、すべての競技が終了し、桐櫻学園高等部の生徒全員がグラウンドに集結した。

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