八話 体育祭(1日目)中編

 体育館に入ると、ちょうどC組がバスケの試合をしていた。


「拓斗、こっちこっち!」


ギャラリーの所から、陽夏が手招きをしていた。俺は、陽夏の方に向かい、戦況を尋ねた。


「今、どんな感じ?」

「残念ながら、C組が二点差で負けてる。残り時間は……」

「二十秒か」


バスケについてはそこまで知らないが、厳しい状況だということは分かった。


「陽夏、勝つためにはどうしたらいいんだ?」

「えっと、3Pシュートを決めるか。あとは、普通のシュートを2本決めるか。他は、そうだなぁ。フリースローでワンスロー目を決めて、ツースロー目をわざと外してリバウンドで決めるとかかな?」

「てか、陽夏ってバスケ詳しいのな?」

「まぁ、中学でやってたから」

「そーなんだ。じゃあ、優勝は一年D組かな?」

「それは、厳しいかな?」


と話していると、試合時間は残すところ僅か5秒となっていた。この状況で、奇跡的に早瀬さんがファウルをもらっていた。早瀬さんは、正直言って頭が悪いため、この状況を理解していないだろう。しかし、ワンスロー目は、見事ゴールに沈めた。そして、2本目。早瀬さんはショットを外した。早瀬さんは申し訳なさそうな表情をしていたが、美月るなは一心不乱にリバウンドに飛んだ。マッチアップは、三年の梅澤先輩だった。梅澤先輩は、身長が170㎝もあり、美月が敵うとは思っていなかった。だが、俺は、


「美月!負けるな!」


声を張り上げ、美月を応援していた。すると、美月は見事、梅澤先輩に競り勝ち、マイボールにした。そして、体勢が整わないままシュートを放った。ボールが手から離れた瞬間、タイマーのブザー音が体育館に鳴り響いた。ボールは、リングの淵をくるくると転がったのち、サッとネットに吸い込まれていった。


「やった!」

「やったね!」


俺は、ギャラリーで陽夏と喜びを分かち合った。

 整列して挨拶を終えた美月は、こちらに気づいて手を振り、小走りでやって来た。


「お疲れ様、美月」

「ありがと」

「最後、よく競り勝ったな?」

「拓斗の声が聞こえたからかな?」


俯きがちに言う美月の表情に、胸がキュンと鳴いた。


「拓斗。私、これから試合だから……」

「おう、頑張れよ。応援してる」


陽夏とすれ違うように、美月がギャラリーに上がってきた。


「改めてお疲れ」

「お疲れ。ていうか、この後試合でしょ?」

「あれ?そーだっけ?」

「ちょっと。何やってんの?早くグラウンド行きな」

「は~い」


陽夏のバスケ姿を見たかった俺は、後ろ髪を引かれる思いで体育館を後にした。


「拓斗!遅ぇよ!もう始まるって」

「わり」


俺は、クラスメイトと合流して試合を開始した。


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