五話 号外

次の日――――


 いつも通り美月るなと学校に来ると、昇降口にすごい人だかりが出来ていた。気になって、人込みを掻き分け密度の濃い中心部に行くと、昨日の試合を見た新聞部の先輩達が記した号外が貼りだされていた。見出しは『サッカー部 部活動見学中の生徒に大敗』と、なんとも屈辱的なタイトルがでかでかと書かれていた。内容は見出しの通り、我が校が誇るサッカー部が、俺と倫也にボコボコにされたという衝撃的な出来事に多少の脚色を加えて書かれていた。俺は、その新聞にザッと目を通して教室に向かった。

 教科書類を机にしまい、読書をしていると、普段より教室の外が騒がしく感じた。本から目を離し、廊下に視線をやると、同級生、先輩問わずたくさんの女子生徒が集まってきていた。


「拓斗、すごいよ。この人達、みんな拓斗目当てで来てるんだよ」


美月が面白がっているような笑顔を浮かべてこちらにやってきた。


「こういうのが嫌なんだよ。美月は分かってるだろ?」

「分かってるって。だから今日はそんな拓斗を救済しようと思って」


美月は耳元に顔を近づけ、俺に一言アドバイスをくれた。


「なるほど」


俺は椅子から立ち上がり、教室の開いた扉の前に立った。女子たちは、こっちに来たことにキャーキャーと、鬱陶しい声を響かせた。俺は、廊下にいる女子の多さに戸惑っている陽夏を見つけ、鬱陶しい声と、女子たちを掻き分け、陽夏のもとに向かった。


「陽夏、ちょっと話合わせてくれる?」

「えっ?うん」


俺は、陽夏の手を握り、高く手を掲げた。


「あの、えっと。皆さん、何に期待してきたんだかは知りませんが……。俺、彼女いるんで。そういうの目当ての人たちは今すぐ自分の教室戻ってください」

『え?彼女って?』


どこからかそんな声が聞こえてきた気がしたので、


「今隣にいるのが、俺の彼女です。分かったらどいてくれますかね?迷惑になってるから」


と言うと、女子たちは集団を崩し、各々の教室に戻って行った。


「陽夏、悪かったな。これでなんかあったら悪いから、もしものことがあったら相談してくれよ?」

「あ、う、うん」


陽夏の顔がみるみるうちに赤くなっている。


「じゃあ、そろそろHRだから……」

「うん」


陽夏は恥ずかしそうに手を離し、教室に入って行った。よくよく今の言動を思い返してみると、言葉上ではあるが、一時でも陽夏を俺の彼女にしてしまった。思い返してみると、自分の顔が熱くなってきているのを感じた。


「これで、気兼ねなくサッカーできるね?」


教室に入ってすぐ、美月にそう言われた。


「ありがとな?美月」


俺は平静を装って、美月に感謝の気持ちを伝えた。

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