四話 試合開始

 一軍対四軍の試合が開始された。

 まずは様子見として、相手にボールを回す時間を与えた。一軍は、実に見事なパス回しをしていた。四軍は四軍らしく、ただ愚直に蹴られたボールを追いかけていた。相手ディフェンダーの2番がルックアップした時に、パスの方向を予測して、いち早く動き出した。ボールは狙い通りの所に蹴られ、俺は完璧な形でインターセプトに成功した。ボールを足元に留め、顔を上げると、最前線でフォワードの11番が手を上げてボールを呼んでいた。キックモーションにはいった時、完璧なタイミングでディフェンスラインを押し上げた。俺は、すんでの所で足を止め、右斜め前にチョンとボールを転がした。キーパーは、もしものことを考えてポジションを上げているのを見て、俺は迷わず右足を振りぬいた。ボールは綺麗な放物線を描いて、ゴールに吸い込まれていった。優に40mを超えるロングシュートを決め、齊藤先輩含め、ピッチ上、更には、グラウンドの外にいる生徒達も反応に困っていた。

 自陣に戻った俺は、四軍の先輩方に指示を出した。


「先輩方、これから過度にボールを追わないでください。パスコースを切る形でポジションを取ってください。マークの指示とかは、俺と倫也でやるんで、指示通りにお願いします


実力を目の前で見せつけた後だったので、先輩方全員、素直に従ってくれた。


 その後、三十分ハーフの試合を終えたとき、グラウンド周辺は騒然としていた。理由は明確である。四軍が一軍に10対0というスコアで、勝利したからである。

 言い忘れていたが、桐櫻学園サッカー部と言えば、全国のサッカー少年少女たちの間で知らない人はいないほどの常勝校で、昨年度の選手権で三連覇を達成した超有名校である。

 今の説明を受けて、この反応は当然だと思うかもしれない。更に言えば、この試合の10得点全てをこないだまで中坊だった俺と倫也が取ったということもこの光景の要因の一つと言えるだろう。


「先輩、お疲れさまでした。失礼します」


そう言って、頭を下げグラウンドを出た。


「ごめん、時間取らせちゃって。帰ろっか?」

「う、うん」


息も切らさず、あまりに平然としている俺に、三人とも驚きを隠せていない様子だった。


「た、拓斗ってすごいんだね?」

「すごいか?制服だし、ランシューだし……。だいぶハンデ付けてやってた感じだけど……」

「え?まだ本気じゃないの?」


と陽夏が訊いてきたとき、グラウンドの方から走って来た倫也が


「あれで拓斗が本気出してると思ってたの?陽夏ちゃん」


倫也が、自分のことのように自慢げに言った。


「えっ、そりゃ8得点、2アシストを四軍のメンバーでやってたら本気だと思うでしょ」


当たり前のことを早瀬さんが言った。


「甘いね、真佑ちゃん。拓斗だったら、スパイクとかもろもろちゃんとしてたらあと5点は決められたと思うよ?」

「そんなに?」

「あ、レベチっしょ。正直」

「それだけ実力があって、サッカーやめちゃうの?」


痛い所を陽夏が突いてきた。


「まあな。サッカーすっと、いろいろ面倒なんだよなぁ。サッカー自体は、めっちゃ大好きなんだけど」

「なるほど、拓海モテるもんね」


美月が言ってきた。


「モテるのかは知らないけど、女子たちが群がってくるのは面倒だし、応援でもない奴らをスタジアムに入られるのは、サッカーを侮辱されてるようで嫌だったし、俺がサッカーを汚してるようで申し訳ないからさ。だから、やめようと思って」


落ち着いたトーンでそう言い放つと


「なるほどなって、自慢にしか聞こえね~よ!バカ」


倫也にいきなり頭を叩かれた。


「ってぇな。何すんだよ」

「お前いないとサッカーやってて楽しくない。だから、俺もやめる」

「いや、お前はやれよ。たまに相手ぐらいならしてやっからよ」

「やだ。試合にも出るってならやってやるよ」

「わかった。考えてみるよ」


入る気は毛頭ないが、会話を切るため適当に返事をして、その場を落ち着かせた。

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