三話 部活動見学

次の日――――


 この日は、美月るなが寝坊したこともあり一人で登校していた。


「あ、陽夏。おはよう」

「おはよう、拓斗」


話したいというタイミングで、校門前で偶然、陽夏を見かけた。


「あのさ、寮入りたいの?」


俺は昨日、母に言われたことが真実なのかを確かめるために、陽夏に尋ねた。


「えっ?うん……」

「遥香さぁ。夜、一人で寝れんの?」

「はぁ?バカにしてる?」

「してないけどさ。幼稚園の林間学校みたいなので寝れなくて泣いてただろ?」

「それは……そう、だけど…………」

「まあ、入りたいなら止めはしないけど。入寮したところで、何が変わるでもないから。家から電車とかで通えるなら、家からの方がいいと思うよ?あくまで俺の意見だし、俺は寮に入ってるけど……」

「そ、そうなの?じゃあ、入寮はやめておこうかな」

「そっか。んじゃ、今日も授業頑張ろうぜ~」


俺は教室の前で陽夏に手を振りながら、自分の席に向かった。


 席に座り、適当に教科書類を机にしまい、カバンを横にかけた。いつも通り、文庫本を開き、昨日の続きを探していると、


「あの、拓斗君?」


聞き覚えのない女子の声が、斜め後ろ辺りから聞こえてきた。俺は、本から顔を上げて、その女子の方を見て、顔だけで返事をした。


「あ、あの。連絡先、交換してほしくて……」


その女子のか細い声を、何とか聞き取り、返事を返した。


「連絡先って、LINK?」

「うん、そうだよ?」

「悪い。俺、通知とかグループとか面倒だから入れてないんだ。メールならいいんだけど……」

「そ、そうなんだ。じゃあいいや。ごめんね?」

「いや。こっちこそ悪かった」


俺は、その弱弱しい女子を追い返したのち、本を閉じ、睡眠を始めた。


 ぎり一時限目までに目を覚まし、中学で一度聞いたような授業をもう一度しっかり受け、終業のショートホームルームで先生の話を聞いていた。


「えぇ、今日から部活動の見学が始まります。興味のある人は、時間と見学場所を守って見学するようにしてください」


俺には関係ない事だと思い、視線を虚空に向けた。


「拓斗、今日ヒマ?」


ショートホームルームが終わってすぐ、美月が机の前に現れた。


「暇だけど?」

「じゃあさ、見学付き合ってよ」

「なんで?」

「一人じゃ不安なんだもん」


上目遣いでそう言われ、俺は仕方なく、


「まあ、いいけど……」


と返事をした。するとそこに、


「おう、拓斗!拓斗も見学すんの?俺も一緒にいいか?」


と、廊下から倫也がやって来た。


「え~、倫也も?」


美月は、怪訝そうな顔をしたが、俺は快く承諾した。

 その後、陽夏と早瀬さんも加わり、五人で部活見学に向かった。

 バスケ部、バレー部、ダンス部、茶道部、アイドル研究部などなど。様々な方面の部活を見て、最後にサッカー部の見学に向かった。


「最後はサッカー部でしょ?倫也も拓斗も中学ではサッカー部だったんだし」

「拓斗、サッカーやってたの?」

「まあ、趣味の範疇はんちゅうでだけどね」

「そうなんだぁ」


と話していると、徐々にサッカー部恒例のブラジル体操の低く唸るような声が聞こえてきた。


「拓斗、見てたらサッカーやりたくなってきた!」


倫也は目をキラキラと輝かせながら俺に訴えてきた。


「やってくりゃいいじゃん」

「拓斗はやんないの?」

「俺は、中学で幕引きするよ」

「そうか?んじゃ」


倫也が立ち上がり、グラウンドに入ろうとしたときに、サッカー部現主将の齊藤翼先輩に見つかってしまった。


「お、清水、生田。どうした?見学か?」

「まあ、そうですね」

「んだよ。見てないで入れよ」


俺達は断りきることが出来ず、無理やりグラウンドに連れて行かれた。


「倫也。なんで着替え持ってきてんだよ。スパイクも」

「なんかありそうな気がしてて」

「ま、いいや。俺は制服にランシューでやるわ」


寮にサッカー用具一式はそろっているが、取りに行くのも面倒なのでそのまま部室を出た。


「なんだ、清水。部室にスパイクあったろ?」

「いいですよ。真面目にやるわけじゃないんで」

「そ、そうか。複雑だが、まあいいや」


俺と倫也は先輩からビブスをもらい、四軍のチームに配属された。


「えっと、加藤拓海です。よろしくお願いします」


倫也も俺も、名前だけ教えて、齊藤先輩に指示されたポジションについた。

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