二話 新学期初登校

「陽夏、何組だった?」

「D組。拓斗は?」

「俺はC組。別々かぁ」

「そうみたいだね……」

「ま、何かあったらいつでも来いよ」

「うん。ありがと」


クラスは、俺と美月るな、倫也が同じクラス。陽夏は一人ぼっちになってしまった。

 教室の前で二手に分かれ、俺は美月と教室に入った。黒板に張り出された座席表を確認し、その席に座った。すると、


「あの、あなたが清水拓斗君?」


見たこともない女子に声をかけられた。


「そうだけど、君は?」

「私は早瀬真佑」

「その早瀬さんが何の御用ですか?」

「清水君が陽夏の幼馴染だって聞いて、どんな人なのかなって」


この早瀬真佑という子は、陽夏の親友的ポジションなのだろう。


「で、どんな人でしたか?想像通りの人ですかね?」

「思ってたよりも、そうね。良く言えばクールな感じかな」

「それはどうも。てか、もうそろ先生来ると思うから席に戻ったら?」

「え?そうなの?ありがとう」


気の強そうな子のように思えていたが、今の反応からすると、どちらかというと可愛らしい女の子なのだろうと思った。


 先生の簡易的な自己紹介が終わり、入学式のため、すぐに体育館に入場となった。初等部からほとんど変わりのない入学式を終え、大きく伸びをしながら教室に戻った。

 その後、担任が新任の先生だったため、一人一人の自己紹介が行われた。編入生以外の自己紹介はさらっと聞き流し、自分の自己紹介も適当な言葉をダラダラと並べて、パパっと終了させた。そうして、高等部進学初のホームルームが終了した。


「た~くとっ!一緒に帰ろ」


カバンを後ろ手に持った美月が、ぴょんと俺の前に現れた。


「何だよ。一緒に帰るっても、寮までだろ?中等部からずっとそうだったろ?」

「そうだね。じゃ、帰ろ」


俺は、美月に教科書を乱雑に詰め込まれたカバンを持って、美月に腕を引かれ、教室の外に出た。


「珍しいな。美月が俺を連れ出すなんて」

「だって、クラスに来た編入生達がみんな拓斗のことちらちら見てたんだもん。拓斗、そういうの苦手でしょ?」

「そういうことか。サンキューな」


校舎の外に出ると、さくらの花びらが太陽に照らされ、キラキラと輝いていた。そんな美しい風景を汚すかのように、体育会系男子たちのむさくるしい掛け声が耳に入って来た。


「拓斗。高校ではやるの?サッカー」

「やらないよ。疲れるし、汗かくし。それに、中学でやり切ったからな」


俺は、中学サッカー界では知らない人がいなかったほどのプレイヤーだった。全中では、圧倒的なゲームメイク力と得点力を武器に、MVPを獲得。その後、U-15の日本代表にまで選出され、U-15の世界大会でもベスト4という結果を残した。


「そっか……。残念だなぁ。私、拓斗がサッカーしてる姿、結構好きだったんだけどなぁ」

「そうですか、そうですか。それでも、やんねぇけどな」

「もぉ」


美月は腰に手を当て、大きく頬を膨らませた。その表情は間違いなくかわいいのだが、俺の気持ちは動かせなかった。


「そんな顔されても、やらないよ」

「じゃあ、もういいや。帰ろ」

「おう」


そうして、俺達は寮に戻った。


「じゃあ、また明日ね」

「おう、また明日」


そうして、俺は女子寮の前で美月と分かれた。

 自分の部屋の、扉を開き、俺は真っ先にベッドに身体を預けた。


「陽夏、可愛くなってたなぁ」


無意識に心からあふれ出た言葉を隠すように、枕に顔をうずめた。そのまま、駄々をこねる幼稚園児のように足をばたつかせていると、机の上でスマホが小刻みに震えた。


「もしもし?」

『もしもし、拓?』

「そうだけど?何?」

『昔さ、隣に住んでた喜田さん所のお嬢さん、桐櫻に来たらしいじゃない』

「そうだね。それで?」

『遥香ちゃん、寮に入るか迷ってるんだって。だから、明日にでも陽夏ちゃんに説明してあげてくれる?』

「そんなこと、学校側が……」

『まあまあ。じゃ、頼んだわよ?」


そう言われ、一方的に電話を切られた。


「てか、寮とか大丈夫かよ……」

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