第6話 ヒロイン

波乱の編入スピーチを終えて、次の日からは普通の授業が始まった。


……そして案の定、指定された教室に入ると多数の視線が肌に刺さった。

ある者は興味と感心を。

ある者は不安と嫌悪を。


「……やれやれ」


今日グレイに会ったら文句を言ってやろう……って、


「よお、ユウ」


「思った矢先に会うことになるとは……」


「あん? そりゃそうだろ、隣の席なんだから」


どうしてこのクラスの担任は、この問題児を僕のとなりに置いたんだ! 悪意しか感じない!


「……ていうか、同じクラスだったんだね」

「俺は知ってたがな。お前が同じクラスになることは」

「え……どうして?」


僕は彼のとなりに座って、会話を転がした。この教室は中心に大きな黒板があり、そこから円形に生徒たちの席が配置された、少し変わった教室だった。


続々と生徒たちが登校し、僕らに注目を浴びせるなか、グレイは「ふふ、それはな……」とどこか誇らしげに語りだした。


「ここが特進クラスだからさ」


「特進クラス……?」

「そう。ここは学院長――あ、あのキングっておっさんの事な。アレに認められた生徒たちが一挙に集まった、エリートたちの集団なんだぜ!」


……あやしい。


あの偏屈な学院長が、グレイをわざわざ贔屓したりするだろうか。仮に特別視していたとしても、それは厄介者とか、そういう類のラベリングだと思うけど……。


「だからお前ほどの実力があれば、このクラスにくることは分かりきっていたってワケだ」


……まあ、彼も魔剣と闇属性の魔法の扱いには目を見張るほどの実力があるし、こんなクラスが通常クラスとわかれて併設されるのも、無理な話ではないかもしれないが……。


――なーんか、うさんくさいな。

裏に思惑が隠れている気がする。


「浮かねえ顔だな、ユウ」


「これからの学校生活が心配でね……主にきみのせいで」


僕は中学校も通っていないし、おおよそ、ここにいるみんなは積んでいるであろう対人コミュニケーションの経験値をぼくは全く持っていない。


「最初にできた友人(仮)はこんなんだし、友だち百人なんて夢のまた夢だ……」


「――へえ。きみ、面白いこと言うんだね」


その、ぼくのほとんど独り言のような言葉に。


「友だち百人、欲しいの?」


と、声をかけてきた女の子がいた。



「お、リーシャ。おっす」

「おすおす~。グレイ久しぶりだけど元気そうだねー」


ひらひらと小さな手を振る女の子は、リーシャという名前らしい。

彼女は指定の制服に自前のパーカーを羽織り、頭部も同じようにパーカーで覆い隠している。

明るく、屈託のない笑顔が印象的な、かわいい子だった。


「それで、そのとなりが噂の編入生くんだね?」


視線が向けられ、美少女に言葉を向けられたことで一瞬体がこわばる。


「は、はい」

「あはは。そんな緊張しなくてもいいのに」


リーシャはグレイに見せたのと、同じくらい明るい声と表情で。


「友だち百人、できるといいね。もしよければ、私がその一人になってあげる」


そう言って僕の手を握り、また微笑んだ。


「あ、そろそろ予鈴の時間だ。そろそろ行くね。グレイ、ユウくん。またお昼休みに会おうねー!」


彼女は女の子らしい走り方で、トタトタと広い教室のすみっこまで消えていった。


「はあ……相変わらずうるせえヤツ。なあ、ユ……ウ?」


「――」


握られていた手は、まだ少し暖かくて。

それは彼女の熱なのか、僕の体温なのかは分からない。

でもなぜか、むず痒いくらいに嬉しいのは確かだった。


「おい、ユウ?」

「――はっ。ど、どうしたのグレイくん」

「いや、どうしたじゃなくてよ……放心してるみたいだったぞ、お前」


まずい……これは。


「な、なんでもないよ」


恋っていう、やつかもしれない。

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独学賢者の学園生活~勉強させられるのは苦手なので、独学で世界を掌握することにしました~ 羽毛布団 @umou2355

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