第4話 戦闘


――魔法使いと一口に言っても、その種類はさまざまだ。


①先生のように、魔法を放つ杖――ワンドを触媒として、そこから魔力を放出するオーソドックスなタイプ。

②触媒を用いず、己の体から膨大な魔力を無下限に放出するごり押しタイプ。これは体に負担がかかるから、タフな人間でないとムリ。

③そして、剣を触媒とし。切っ先に魔力を注入してすべてを薙ぐ、彼のような魔剣士タイプ。


「ユウ。お前は、どんな魔法が得意なんだ?」


グレイが僕に聞いた。


「……これといって、得意とか不得意とかはないかな。

君が魔剣スタイルで来るなら、僕もその土俵で戦おう」


「……おもしれえ」


彼の表情が、ニヤリと歪んだ。

それは獲物を前に戦闘本能をむき出しにした野獣のようだった。


「この際だから教えてやる。魔剣の扱いで、学園で俺の右に出るやつはいねえ!」


彼は「ブンっ」と大きく、剣を宙にかざすように振り上げた。剣先からあふれる魔力のエネルギーは、そのまま彼の頭上で、大きな楕円形の何かに変化していった。


「――開け、魔界門デスゲート!」


楕円形の物体は、パカリ、と。

口を開けるようにその中を覗かせた。

――そこには魔力で練り上げられた、

魔弾が装填されている。


「剣で秀でねえやつに、剣技で勝負するのは卑怯だからなあ。単純な魔力の圧で、勝負をつけてやる!」


「――なるほど。魔力を流した剣をそのまま振るうんじゃなくて、余分な魔力を剣から流して具現化しているのか。……勉強になるなあ」


「おら、ごちゃごちゃ言ってんなよ! ケガすんぞ! まあもっとも――」


魔弾が、彼の頭上から発射される。


「ケガで済めばいいけどなあ!」


発射された魔弾は、一瞬もしないうちに、僕の眼前まで迫ってくる。

ぼくがこの一瞬でできる事といえば――魔力で防御壁を展開すること。もしくは、己の魔法で迎撃すること。その二つだ。


――だけど、そのどちらも正しくない。


たとえば防御壁を展開したとしても、対象の魔力と同じか、またはそれ以上の魔力の壁を作らなければ相殺できない。迎撃するにしても、上記と同様に同じだけの魔力がいる。


彼は――グレイは強い。

この一瞬の魔力軽量で、彼の力量を推し量ることはできなかった。


……ならば、どうする?

どれだけの魔力を流せば、彼の魔弾を粉砕できる?


――答えはいつだって、あの4年間の独学の中に。





「――よし。これで基礎はだいたい覚えたな?」


これはだいたい、僕が山にこもってから1週間後くらいの記憶だ。


「これからは私の教えたことに縛られることなく、独学で学んでいきなさい。その方が誰かに教えられるより、ずっと成長が早い」


「……先生は」


「うん?」


「教育者だったんですか?」


それは単純な疑問だった。


先生は、魔法を教えるのが上手かった。単純に魔法を扱うことが得意だからというだけで、説明がつくものではない。

どれだけ技術が秀でていても、人に教える腕が鈍い人間なんて、いくらでもいる。たとえばそう、ぼくに割り算を教えた教師のように。


「――いいや」


「でも、教えるの上手いじゃないですか。とても分かりやすいです」


「そっ……そうか? 照れるな、えへへ……」


頬を緩める先生は、少しだけ子どもっぽくてかわいかった。


「お、おっほん。……人にものを教えるというのは、自分の実力を測るうえで、最も効率的な手法の一つだからな。――思えば私も学院に通っていたときは、よくクラスメイトに自分の魔法を教えるとかこつけて、それを自慢していたものだった」


「先生、学校に通っていたんですね」


すると、先生は「むっ」と膨れて。


「私だって義務教育プラスαくらいは受けていたさ。――いつか君にも通わせてあげたいな。私の愛する母校に」


先生は遠い目をして、そう言った。でも先生の容姿なら、そんなに昔のことではないような気もするけど。


「まあ、きみの実力なら、いつかそんな時が来るだろう。それを目標に、今日も今日とて、さあ勉強だ。――明日までにこの風属性の魔法について、発動する条件を3つほど箇条書きにして私に提出しなさい」


きっつ。


「あはは。きみもいつか、分かるようになるよ」


先生は苦い顔をする僕に対して、笑顔で笑いかけた。


「――独学が本物に変化する、その至上の喜びを」





そうだ、思い出せ。4年間の独学で見出した魔力放出の基礎を。


――魔力を放出する工程は、おおまかに分けて、2つ。


①『溜めて』②『放つ』だ。


『溜め』の時間は、どれだけあってもいい。

自分が制御できる魔力量であれば、溜めた分だけの威力が出る。そして『溜め』に使った時間から、おおよその威力を割り出すことができる。


ちなみにこの工程は、教科書には載っていない。

すべて僕が見つけた法則である。


――彼が魔力を練った時間はどれくらいだ?


少なくとも、10秒以上。


「……ふふっ」


それなら、話は早い。

だってそれは――


「溜めすぎだね」


迫りくる弾丸は、ひらり――と身をかわした僕の体を、捉えきることはできなかった。

そのまま床に爆ぜ、大きな爆音と爆風を生み出しただけで焼失する。


――グレイは、無傷の僕を信じられないような表情で見ていた。


「ありえねえ……」


わなわなと震えながら、


「魔力の揺れ幅まで計算した、完璧な攻撃だったはずだ。

そんな冷や汗一つもかかずに、よけられるワケがねえ」


「うん、たしかに――割り算くらい、難しい攻撃だったよ」


「……テメェ、おちょくってんのか」


……な、なぜか怒られてしまった。割り算と比べることは、僕史上最大級の誉め言葉なのに。


「だ、だってそうだろう? 割り算の公式は、たてるかける引く下ろすの四つ――それに対して、魔法はたったの2つだ」


割り算よりも、魔法の方が簡単である。


「それと、きみの最大の失態は――『溜め』の時間を作りすぎたことだ。溜めの時間を作りすぎると、隙が生まれるだけじゃない。たとえば魔弾だったら、着弾する地点が簡単に計算できる。10秒チャージしたんなら、おおよそ狙ったのは、僕の足元だね?」


単純な話だ。火薬を詰めすぎれば、爆弾は重くなり、落下のスピードは射出のスピードを上回る。そうして結果的に、足元に着弾する。

それだけの話である。


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