02-06. フィクスチャーとスタビライザー
ピットをあとにしたラフィーは、グライブが手配したホテルまでの移動。
車の中で反省する。
やってしまった。
また相手を拒絶するかのような態度を取ってしまった。
ヌルフネットが自分をエアリエル認めてくれて嬉しかった。
その反動でつい甘えが出てしまった。
同じような所作をヴィクトリアがしているのをみて、自重しようと考えていたのに。
とりあえず、ホテルの着いて熱いシャワーで絡まる思考を洗い流す。
身の回りの細々としたことは、自分一人で出来るように教えられている。
お気に入りの化粧箱から、櫛やら香油やらを出して髪の手入れする。
グライブがやってきて一言残す。
「チーフエンジニアよりの連絡がきました」
ヌルフネットが予告していたアルス・ノヴァのレポートが届いたのだ。
「こっちにまわして」
ラフィーは化粧箱のミラーに通信表示させて、レポートを読みながらヘアケアを続ける。
まず最初に機体状況についての記述があった。
飛行能力は想定出力の90%で安定が可能。
当日はトリシャとチームを組んでいるので、フォロワーの数は最低限確保されている。
内部制御部のアビオニクスは、手を付けることを諦めて三河屋製のものをそのまま流用することになった。
外部ユニットをメインにした特殊な制御タイプだが、単独で翔べないわけではない。
リミッター関連も同様で下手に触らないほうが良いとの判断だ。
故障箇所は大方修理された。
一番の問題であったカウルに埋め込まれた太陽発電地の破損だが、新パーツに置き換わることで解消されている。
武装もAK46マルチライフルを継続して使う。
新型ビームセイバーも取り外すこと無く使用可能。近接戦闘も問題ない。
調査の結果により、本来の運用方法らしきものも見つけられた。
骨格にも異常がなく、ラフィーのマシンドレスは万全の状態で明日を迎えられる。
いよいよガブリールの後継を掛けた戦いが始まるのだ。
ラフィーは逸る心を抑えながらベッドに埋もれ、寝入りに入った。
翌朝。
ハイレッグレオタードに着替えたラフィーがフライトランスポーターから出る。
ピットに向かおうとした所で、作業着姿のヴィクトリア王女と出会った。
チューブのゼリー飲料を飲んでいるトリシャが挨拶してくる。
「おはよう。今日はお互いに頑張りましょ」
「おはようございます。行儀の悪い王女様。
どうしてまだ着替えてないのよ。
もうすぐにでも予選が始まるのよ」
「ちょっとエクスカリバーの調子が悪くてね。早朝から作業してたの。
それに着替えは大丈夫」
トリシャがばっと作業着を脱ぐと、すぐ下にレーシングスーツを着ていた。
「よし。準備オッケー」
「用意周到ね。下に着込むのが常態化している様子がよくわかったわ」
「私よりラフィーよ。
そのおっぱいの大きさなら
突然の指差しに羞恥を感じたラフィーが身体をかばう。
「なによいきなり。胸の大きさなんてどうでもいいでしょ」
「良くないよくない。若くてもきちんとボディケアはしないと。
いくらAFが慣性制御しているからって、エアリエルの身体を常に守り続けるわけじゃないのよ」
「それぐらいは知っているわよ」
『
「それならボディラインを崩さないようにしないと」
「レオタードのカップで十分でしょ」
トリシャが両手でバツ印を作る。
「ダメー。
ラフィーは歳の割りにおっぱい大きいんだから余計に気をつけること。
これチームリーダーとしての命令だからね」
言うだけ言うと、トリシャがチームクルーにラフィーの採寸とフィクスチャーの用意を支持する。
その場に留まろうとするラフィーを自分のフライトランスポーターに引きずり込む。
「あれは、逆に胸を強調しているみたいで恥ずかしいのよ」
「おっぱいが大きいっていう身体的売り文句が出来るのに、主張しないのは広報戦略的にありえないから」
女性クルーたちがトランスポーターに入ってきて、ラフィーの上半身が剥かれる。
感嘆の声。
「いけないわね。これは守らないといけないわ」
「こんな立派なものを保護もせずに振り回すとか言語道断です」
「年下に負けるとかどうではなく、これはラフィーたんが規格外なだけのでは?」
「本当はレオタードもサイズが合ってないでしょこれ。
ああん、そこからやらないとまずいか」
口々に好き勝手な感想が述べられる。
「恥ずかしいんだから、早くして!」
ラフィーが頬を赤らめて叫んだ。
最終的にレオタード切開し補修布で調整、フィクスチャーを作成し押し込めた。
外見的には固定パーツで胸を上下から挟んでいる。
縦横無尽上下斜めに飛び回るASFに置いては、全方向への対処が必要だからだ。
「前より胸がきついんだけど……」
「歴代の巨乳エアリエルたちも同じ苦しみを味わったのだから甘受しなさい」
フィクスチャー関連で一騒動あったが、SPD予選への準備は順調に進んでいた。
胸部固定具を付けたラフィーが自分のピットに入ると、ヌルフネットはじめ男性陣が一斉に目を逸したり、注視したりした。
だからラフィーはフィクスチャー装着へ否定的だったのだが、チームリーダー命令では仕方ない。
わずかに頬を染めながらRHF-04 アルス・ノヴァに近寄る。
前回は2枚のサーフボードを付けた箇所に、一本のポールが陣取っていた。
「こうしてみると本当に長いわね」
「そりゃあ機体丈より長くないと、わざわざ付ける意味がないからな。
スタビライザーの使い方はちゃんと頭の中に入っているか?」
ヌルフネット・ロドリゲスがエアリエルに声を掛ける。口元はまだ若干痙攣している。
少女がいきなり「わたしは巨乳です」と主張しだしたのだ。笑えもする。
その様子に金髪ツインテールのこめかみも少しひきつった。
「わたしマニュアルの類は全部読み込む人間なの。
逆に説明してあげてもいいわよ」
ヘッドパーツのメカリボンを装着したラフィーが高圧的に言い放つ。
「それなら、このスタビライザーってのが出来た理由を教えてくれ」
「昨日も言ったけど、アエロフォーミュラが海上を通るなら低空を飛行すればいいわ。
でも今回は海上を航行していると証明しなくちゃいけない。
抵抗のある水にわざわざ機体を付けるより、専用のパーツだけで済ませるための装置よ」
「わかってんじゃねえか」
「当然本戦では破壊の対象になるし、破損した場合は機体を海面に着けて航行しなければならないわ。
そうなればかなりの時間と速度、なによりブレインパルスリンクのロスになってしまう。
別に海上だけに限らず、常に注意を払う必要があるオプションよ」
今回のような海上ディビジョンが存在するレースでは比較的ありふれた装備品でだった。
スタビライザーを知るうえで、ラフィーは自分がまだまだASFについて知識不足であることを痛感していた。
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