02-07. サウスパークディメンジョン予選開始
何事も、言うは
『おら。どうした嬢ちゃん。
「生まれて初めての水中潜航なんだから、もう少し加減してくれないかしら」
『そんな甘えは空でも海でも通じねえよ。
一回レースに出たからマシになっているが、まだまだ赤ん坊の方が上手に泳ぐぞ』
「言ってくれるじゃないっ!」
予選でタイムアタックをしているラフィーのアルス・ノヴァは、いきなり苦境に立たされていた。
空を飛ぶ。
エアリエルの基本だ。
海中を泳ぐ。
宇宙を飛べる機能のちょっとした応用だ。
これが尋常でなく難しい。
「高速移動化での空中と水中は同じ流体だとか、だれの盲言よ!」
『口汚く愚痴るより、今は前へ進め!』
ヌルフネットが叱咤するが、水中のアルス・ノヴァはフラフラと蛇行しまっすぐ進まない。
原因はスタビライザーにある。
空中では
長さとしてアエロフォーミュラと同じ程度だが、それが背後に伸びているのである。
それほどの大きさなのだ。
海中での動きを制限するに決まっている。
水の中では慣性制御によりエアリエルの周辺のみ空気泡が整形される。
次に速度を得るため、AFの外装を起点とした横倒しの水滴型流体が造られる。
水圧や離水などの対応を考えると必然的にそうなる。
つまりAFの外装は水にさらされるのだ。
一番距離が遠いスタビライザーなど、涙的の尖った部分からはみ出して、海流の影響を受ける。
ラフィーからしてみれば、背中の真ん中に思いっきり引っ張ってくる紐を縫い付けられた感触だ。
しかも引く方向が一定ではなく、振り回される。
なんとかコースを一周してピットに戻る。
「大丈夫か、嬢ちゃん。生きてるか? 生きてるな。よし」
肩で息をするラフィーを形だけ心配してヌルフネットが機体のチェックに入る。
「す、水中のスタビライザーがこれほど邪魔になるなんて、どこにも書いてなかったわよ……」
「そりゃ見てくれで解るからな。
他のエアリエルを見てみろよ。
使いこなす天女様なら、自分から揺らして推進力に変えるぜ」
同じくタイムアタックに出ている黒いAFが示される。
黒い機体といってもルカイン・プナグストのRHF-04w アルス・マグナではなく、セオドア・ロイロフスキーのグラオザーム・ヴェヒターだ。
「機体色と髪色が被っているから見間違えるかと思ったけど、そんなことは全然なかったわね」
「色よりも動きを見ろ」
ヌルフネットが進言するように、グラオザーム・ヴェヒターは凄まじい速度で泳いでいる。
今回のSPDは第一飛行、第一海上航行、第一潜航、第二海上航行、第二潜航、第二飛行の順番でコースが設定されている。
各パートはディビジョンと呼称され区別される。
つまりは、一度海水に浸ってしまうと、長く付き合うことになるわけだ。
「経験値の差と言っちまえば簡単だが、そんな弱音に逃げられる立場じゃねえんだよ。
死ぬ気で見ろ、そして真似しろ」
「わかっているわよ。いちいちうるさいわね」
「言い返せるなら大丈夫だな。コースが空き次第、次のトライに行くぞ」
セオドアは海面に飛び出る飛沫も少なく、移動力のロスをとても少なくして空中飛行に移行した。
コースの残りも鋭く飛ばし、本日のトップレコードを出す。
彼女のフォロワーたちが喝采を上げる。
これは黙っていられないと、ヴィクトリアが動く。
「エクスカリバー14。
ヴィクトリア・エリザベート・エックサトン。
出場よ!」
青いAFがピットから飛び立つ。
「ラフィーには一つ手本を見せてあげましょう。
後ろについてきなさい」
「了解よっ!」
呼気一拍。勢い良くアルス・ノヴァも飛び出す。
2機は指向性レーザー通信を使い、二人だけのトークグループを作る。
「空の飛び方は今更なので、今回のサウスパークで重要になる水場での動きを教えましょう」
ミニクラウン型のヘットセットを付けたトリシャが自慢げに胸を張る。
空中ディビジョンを通り過ぎ、第一海上ディビジョンに入る。
スタビライザーを下方に向け先端を海に付けると、ぐっと抵抗が機体にかかった。
「オプションが動きを阻害するのは仕方ないわ。それを強引に抑え込むか、取り込むかはエアリエル次第よ。
私は、流れに任せる!」
速度を落したアルス・ノヴァを置いて、エクスカリバー14が先行する。
空中飛行と比べて速度は落ちているが、ラフィーほどではない。
よく見れば小さく上下左右に機体を揺らして、スタビライザーから受ける抵抗を受け流している。
なるほど。ああやるのか。
ラフィーも真似してみるが、逆に抵抗を強くするだけで余計に失速した。
「これは難しいわ」
「簡単に真似されたらこっちが困るわ。
まずは先達のやり方を見て、自分にあったスタイルを探しましょう」
次に第一潜航ディビジョンに移り、動的流体を生成させる。
「水の中に入ってしまえばスタビライザーは判定機能を終えるわ。
だから最小まで短くして進行方向と逆向きにする」
「そこまでは言えれなくともわかるとこよ」
「制御する流体を大きくしてスタビライザーまで覆ってしまうのもありだけど、これはブレインパルスを大量に使う力技。推力も落ちてしまうわ。
最低限の保護を残して機体を水に晒す場合、一番最初に切り捨てられるのはオプション部位よね」
「だから邪魔になるんじゃない」
「ここで一つのテクニックを伝授してしんぜよう。
ありがたく拝聴しなさい。
とはいえ、さっきとほとんど同じなんだけどね。
単純にカウンターステアリングってだけで」
「ステアリング?」
水中で首を傾げるラフィー。
「うーんと、ラフィーは自分で車か舟を動かしたことある?」
「あるわけないじゃない」
「五歳で採掘現場の作業艇を運転させられるウチの王国より、ラフィーの方がよっぽどお姫様しているわ」
「『
「ラウンドランドの領地は資源採掘衛星の集合体よ。超現場主義なんだから。
エクスカリバーセカンドが、壊れた手持ち掘削機なレベルでね」
「それならファーストは?」
「至高の
人類史でも五指に入る大きさの巨大宝石なんだから。
ちなみに
「自国の喧伝に余念がない王女様ですこと」
「さてはて話の腰を戻してっと。
ようするにスタビライザーに掛けられる力とは逆側に頭を向けるの」
「こうかしら……」
言われたとおり、ラフィーが動く。
コースの最短ルートから外れはするが、流れの抵抗は減った。
なるほど、これは動きやすい。
「方向を決める軸を背中のジョイントじゃなくて、流体全体の重心にすればもっと水が柔らかくなるわよ。
実際に魚たちが泳いでいる方法でもあるんだから」
ここで潜航ディビジョンが終わり、海上に戻る。
エクスカリバー14が泡が弾けるように飛び出す。
続いたアルス・ノヴァは派手に飛沫を上げる。
「水中と水上の切り替えも、要練習ね。
そんなまっすぐで水を巻き込むやり方じゃなくて、タイミングを合わせて流体制御を変更させるの。
ディビジョンの変わり目で速度が落ちるのを防げるわ。
さあ、もう一回海上と水中にいくわよ」
トリシャが先行し、ラフィーが後に続く。
実地での訓練に、ラフィーは自分の力量が伸びてゆくのを実感した。
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