02-03. サウスパークディメンジョン
エスメカランに置いて広義のサウスパークは、南半球唯一の大陸を指す。
狭義ならばサウスパーク大陸の首都サウスパーク、別名南の都のことだ。
一般にはサウスパーク都によく使われる。
エスメカランには大陸が3つしかない。
なので、オービタルリングを六等分する衛星を基準に6つの行政地域に区切られるエスメカランでは、D大陸と呼んだほうが解りやすい。
さて、サウスパークディメンジョンというからにはサウスパーク都もしくは大陸で行われると思われるが、違ったりする。
近海ではあるが少し離れた小島が舞台だ。
最大の協賛者がサウスパーク都ではあるので、まあ名前に偽りはない。
なによりサウスパークディメンジョンは発起者の案で一風変わったレース担っている。
ASFとアエロフォーミュラの来歴について思い出してほしい。
1. AFは
2. 循環艇は衛星軌道と惑星エスメカランを行き来できる。
3. エスメカランは海洋面積89.8%である。
4. 配達業過渡期では、配達先への直接お届けサービスは当たり前! 海上海中お手の物!
5. 大丈夫。宇宙が飛べれば水の中もイケル(暴論
よって循環艇には着水能力、潜航機能が付いていた。
アエロフォーミュラも、当然これらの機能を踏襲している。
実際にはブレインパルスドライブと慣性制御で、無理矢理泳いでいるとも言える。
この能力をレースに反映できないかと考えた結果出来上がったサウスパークディメンジョン。
空中、海上、海中に渡る三種複合の競技だ。
「こんなレース形式があったなんて、知らなかったわ」
フライトランスポーターの中で、資料を読み終えたラフィーが呆れた。
アルス・ノヴァと整備機材一式を格納しているフライトランスポーターを飛行艇形態にしての移動中である。
ヴィクトリアの来襲から数日。
今日がサウスパークディメンジョンの予選前日だ。
調べてみると、混合競技というのは少数ながら存在する。
『
珍しくはあるが、認知度はあるようだった。
「なるほど。中継屋なんて職業が生まれるわけね」
レースを飛び泳ぐエアリエルの姿を動画映えする形でまとめるとなると、専用の人間が必要になってくる。
ただの囲いを大げさに誇張しているだけと思っていた先日までの自分を少し反省する。
反省はするが、だったら知名度を上げてわかりやすくしておけと八つ当たりの憤りを手にあるターミナルペーパーに向ける。
具体的にはテーブルに叩きつける。
最近モノにあたることが多いと思い直して、ツインテールを一房取り手遊びにする。
フライトトランスポーターを運転していたグライブがキャビンに内線を通す。
「お嬢様。着陸体勢に入ります。シートにお座りください」
「大丈夫よ。そのまま降りてしまって」
車体横のフローターユニットから下方に風を送りながら、ゆっくりとマッハマンのトランスポーターがサンニッチ島に着陸する。
フローターユニットを折りたたみ、前方のキャブレーション部のロックを解除して、地上トレーラー状態に移行する。
「お待ちしてましたわ。『
トランスポーターから出てきたラフィーを、なぜか作業着姿のトリシャが出迎える。
今度は編み上げの髪と肉厚ゴーグルを額に巻き、どこにでもいそうな作業員になっている。
「なに? その格好と名前は?」
ひょっこりとフィフスが顔を出す。
「『
お名前は先日のEEGPの後、『
「わたしは二つ名持ちになれるほどの成績を残していないわ。
それって所謂新人イジメよね。
実力者が寄って
「合同公開ミーティングを開いてまでの呼びかけですから、ラブコールと受け止めるべきでは?
もう一度競い合おうとの誘いと取れるわ。
逆にイジメだとして、先に迷惑かけたのがラフィーでないと言い切れるのなら、二人の行いも少なからず糾弾されるでしょう。
EEGPに波乱を持ち込んだのは、誰に聞いても同じ答えが出てくるので、新しい名前が通っていると思いなさいな」
「優勝者である
カーマノさんも意図的にラフィー殿の情報を避けていマす。
これは二つ名持ちのお二人が表向きは好意的に絡んだことで、EEGP参加者たちからの適度な緩衝材となっていると見るべきカと」
二人の分析に返す言葉がないラフィーであった。
もとより、ラフィーには他のエアリエルたちとの
入院時の見舞いで来たメッセージも、グライブに事務的に対応させた。
もっと彼女たちとコミュニケーションを取るべきと考え直す。
まずは目の前のエアリエルに頭を下げる。
「病院にトリシャが会いに来てくれて、とても感謝しているわ。
これからもチームとしてよろしくお願いします」
「もーっと恩に着ていいのよ」
おーほっほっほと高笑いを上げそうなほど、得意げに胸を張るトリシャ。
「そして聞き慣れない『
トリシャの二つ名は『
「ヴィクトリア王女は希少な『
どちらともレースとは関係ないバックヤードが発祥元なのは突っ込まないで上げてくだサい」
「アナタのその言葉がすでにツッコミなのよ」
トリシャの拳がフィフスのボディをカーンと叩く。
しかしイノガロイドは動じない。叩かれ慣れているようだった。
音からして中身にはかなりの空洞がありそうなのも謎だった。
「では、ラフィーの機体を出してください。
ピットに入れてしまいましょう。
クルーもご紹介します」
トリシャが襟元の通信機で誰かを呼ぶ。
今回チーム・マッハマンが入る予定の7番ピットからスタッフたちがやってくる。
その最初の一人を見て、ラフィーの顔が不機嫌になった。
「これはどんな意趣返しなの」
「単純に懐の事情よ」
トリシャは平然と切り替えした。
「俺だってこんなにも早く嬢ちゃんと再会するとは思ってなかったよ」
先頭に立つチーフメカニックは、EEGP予選の時にラフィーが癇癪で解雇した男ヌルフネット・ロドリゲスであった。
クルーたちの何名かもあの時の顔ぶれだ。
「おう。新星様をピットに運ぶぞ」
不機嫌そうなヌルフネットの指示でテキパキと手際よく機材が運び出されれる。
最後にヌルフネット本人と一緒に数名のクルーに支えられて、ラックに固定されたアルス・ノヴァが出てきた。
そのまま危なげなくピットの中に収まってゆく。
ヌルフネットの指揮も的確で見落としがない。
「それで、スタビライザーの装着は数時間あればできるが。
もうやっちまっていいのかい?」
「作業を始めてもらってもいいんだけど。
まずはご機嫌斜めな嬢ちゃんをなだめないといけないみたいね」
トリシャが肩をすくめる。
ラフィーはヌルフネットを見てからずっと、頬を膨らませて押し黙っていた。
ヌルフネットが頭をガリガリと掻いて上を向く。
あー、と呻いた後。
「順当に考えりゃ新規でチームを作るなら、あの時解散した人間に声が掛けられるに決まってる。
特に財布が薄い連中ならどんな仕事にだって飛びつくさ。
まさか、その可能性を考えて無かったのか?
そりゃとても思慮深いことで」
鼻で笑った。
目尻吊り上げたラフィーが声を上げる前に、トリシャが二人の間に入った。
「ヌルフネットさん。契約の最初に言ったとおりここまでです。
スタビライザーの取り付けより、アルス・ノヴァは現状の調査把握を優先してください」
「へいへい」
エンジニアの男は妙に潔く引き下がった。
金髪ツインテールが荒ぶり続ける。
「どうしてあの人がここにいるのよ!?」
「チーム・ランドランドは
後は、単純に順序の問題ね。
最初に今回のレースにはチームで出場する予定だった。
でも、ナスカッサのおバカが居住許可延長申請の大ミスをして、チームが一度解体された。
次にアナタがEEGPで暴れた。
フィフスが事情背景を掌握してラフィーをチームメイトにする進言をした。
チームを再集結させるために緊急で技術者たちを探した。
ヌルフネットさんも言ったけど、タイミング的にラフィーが解雇した人間が集まるのは当然の成り行きだわ。
そして、あの病室へとたどり着くの」
「ナスカッサっていうのが、本当のチームメイトね」
「FNUB-33 フェイルナッツのエアリエルよ。
騒がしくて楽しい子なんだけど、ラフィーとは相性が合わなさそうかも」
「わたしだってだれかれ嫌うわけじゃないし、楽しいおしゃべりは大好きよ」
「うーむ。私が見てきたラフィーって塞ぎ込んでたりネガティブなイメージが強いから。明るい印象が薄いのよね」
「だって、ずっとずっと……」
耐えてきた。頑張ってきた。気を張ってきた。
瞬間として笑えたことはあっても、ラフィーの心はまだ深い不安の中にある。
奇跡が続き、希望が見えていても、心細さは消えてくれない。
金髪ツインテールに、勤労王女が手を乗せる。
「大丈夫。嫌味は一回だけだってヌルフネットさんと約束してあるから」
「えっ?」
「あっちだって何度も解雇されるのはイヤだろうからね。
契約の時に一文加えたのよ。
ラフィーとは折り合いつけるってさ」
「なによそれー!?」
「怒らないでってば。
ラフィーだって一度飛んでみて、どれだけチームスタッフが重要かわかったでしょ」
そこを突かれると弱い。
今でさえASFに対する知識は万全とはいえない。
EEGP予選前なんて、今からでは考えられない無知さ浅慮で挑んでいたとわかる。
「思い出してみて、ヌルフネットさんが間違っていたことを言ってた?」
「言ってた。
わたしにはアエロフォーミュラは早いって。飛ぶ力が無いって」
「EEGPの中継を見ていた人間として、それは正解だったと言わざるを得ないわ。
序盤から中盤にだって、渡守りとの連携がなければ順位を上げられなかったでしょうしね」
「それは、そうかもしれないけど……」
強く返せず言い淀む。
Gパルスドライブの存在だけで、うまく行けたと言い切れるほどラフィーも能天気ではない。
あのファナタとの共闘は、ラフィーに訪れた奇跡の筆頭だろう。
「さあ、アナタのチームへ行きなさい。
みんなときちんと話して、明日からのレースに備えるのよ」
背中を押してくれるトリシャにも感謝の念が絶えない。
「どうしてここまでしてくれるの?
気持ちが近いってだけじゃ、いくらなんでもやりすぎよ」
疑問をぶつけられたヴィクトリア王女様は、あっけらかんと言い放った。
「あれ? 言ってなかったかしら?
初代『
爆弾が発破したような初耳だった。
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