01-21. 我が心 我らが翼
初参加の新人がトップを走る異常事態に、クルーピットも観客席も各フォロワー会場も沸き立つ。
状況と反して冷静な直人のコールが鳴る。
『お嬢、今からアルス・ノヴァのパルスリンクを開始する。
出力の扱いが難しくなるから気をつけろ』
「いつもいつも唐突ね。
きちんと説明しなさい」
『そんな余裕は無いが、手短に言えば頑張るお嬢を応援したいと思う数奇者が出始めたんだよ。
純粋に喜べ。
お前はもう独りで飛んでいるんじゃない 』
直人が言い終わると同時に、アルス・ノヴァのアークイオンドライブが蠢動する。
身動ぎの次に機体全体が膨れ上がる感触がした。
それを後方へと吹き出すようにして、アルス・ノヴァが速度を上げる。
ファナタと一緒に飛んでいた時とも違う。
誰かに背を押してもらえる感覚。心の奥から沸き立つ高揚の熱さ。
これが本当の、ブレインパルスリンケージアークイオンドライブ。
情熱を進む力に変え無限の空間を渡った原動機。
白光、尾を引き空駆ける。
RHF-04b アルス・ノヴァが人々の心と願いで飛翔する。
それを見守る27番ピット。
小口個人でラフィーの応援を希望するフォロワー契約をリアルタイムで奨めまとめながら、松平元康が苦笑いした。
「三河屋は試験チームが対外で使う名目上の会社っす。
まさか本当に中継屋をやるとは思いませんでした」
「長かったり短ったりする人生にはそんなこともあるさ」
「自分とジョージは年齢ニ個違いじゃないですか。
生き方語ったりする余裕があるんすか」
「一秒でも濃厚な人生を送りたいんだよ、オレは」
4枚のフロートキーボードを器用に操り、ブレインパルスリンクをジョージ・セントニアが調整する。
増える送信先を絶妙なタイミングで繋ぎ変えて可能な限り上昇値を一定に揃える。
本名が偽装というややこしい新垣翔子はラフィーに指示を出す。
「無理に吹かしたり膨らんだりする必要はないわ。
送られてくる分はいくらでも機体が受け止めてくれるから、そこは信頼しなさい。
いままでボードに頼っていた箇所を、アルス・ノヴァが溜めているパルスリンクで代用する感じね。
そうそれ、上手じゃない。
はい、次のコーナーがくるわよ」
エンジニアのジュネルフ・マルガレッガは憧憬の瞳でモニター越しのアルス・ノヴァを見る。
総飛行時間が10時間にも満たない子供の、赤子のような飛行が、どうしてグランプリのトップを取るなんて想像できただろうか。
訓練中の事故から空を諦めた自分には、どうやっても無理だと思う。
チーフの新城直人が渋面で、姉の肩を軽く叩く。
翔子はマイクをオフにすると弟に振り返る。
「なにかしら?」
「バイタルがまずい。
調子が良いように見えても、無理な飛ばし方はしないでくれ。
お嬢には経験が無いから自覚症状に疎いし」
「あたしたちの空に、そんな甘い考えが通じるわけないでしょ。
それ見なさい。影が追いついてきたわよ」
加速するアルス・ノヴァに、シャドーエイリアスが食らいつく。
速度を上げたとはいえラフィーの技術ではまだ無駄が多い。
コーナーを一つ曲がるたびにサトリ・アメカジが距離を縮めてきた。
サトリのフォロワーたちの声援が高まる。
革鼓を、葦笛を、曲琴を鳴らし唄い、
かつて
『ここが正念場よ。
勝利が欲しいのなら、腕を伸ばしなさい。
脚を動かしなさい。
なによりも、心を燃やしなさい!』
「当然っ……でしょっ!」
昨日より何倍も効率的にコースを疾駆するアルス・ノヴァ。
白い機体がブレインパルスリンクを受けて飛ぶ。
一度は散りそうになった
アルス・ノヴァとシャドーエイリアスの間合いが近づいて、サトリが外れるのを承知でベイブレードを投げた。
先を行くラフィーに対しての急かしを含めた牽制攻撃だ。
『振り返るな!
集中しろ。自分が飛ぶ先を、信じる未来だけを見ろ!』
魔女の叫びが聞こえる。
背中の圧力より強い言葉に前方だけを睨む。
そして少女は、より正確な噴射と慣性制御でコーナーを制し背後からの攻撃をかわした。
これにはサトリも焦りを覚える。
ゴールまで残り1ラップまで来た。
ここはラストストレートに掛けようと決意する。
「一意専心。
最後の直線に入ったアルス・ノヴァに向けて、ベイブレードを全力投剣。
身体全体を使って竜巻のような加速を与える。
サトリ自身も少し減速するが、これでトップのアエロフォーミュラを攻撃できれば、逆転できるだけのダメージを与えられる。
「……つぁ!!」
差し込まれる殺気にラフィーが反応する。
思考よりも先に機体が動く。
飛翔速度を一瞬だけ削り、後ろ反り返りつつ脚を振る。
上下反転回し蹴り。
左足装甲を削ったのみでアルス・ノヴァはベイブレードを迎撃し、優位を守りきった。
勝った!
やったよ! 大婆さま!
コースの残りを数えきり、アルス・ノヴァが空を飛びきった。
ゴールラインに触れる直前、ラフィー・ハイルトン・マッハマンの意識は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます