第26話 魔力の譲渡
「ところで、人員が足りないのでしたわよね?」
「え? あ、うん。蜂の対処は、皆頑張っているけど、数が多くてね……」
「それなら、私も少し力を貸しますわ」
「力を貸す? でも、黒薔薇さんは本体を叩きに行くんでしょ?」
そこで、黒薔薇さんは蜂の駆除にも力を貸すと言い出した。
だが、雷菜ちゃんの言う通り、黒薔薇さんはハニリッチを倒しに行くはずである。それなのに、どうやって手を貸すのだろう。
「総、少し手を貸してもらえますか?」
「え? あ、うん」
黒薔薇さんに言われて、私は手を伸ばした。すると、黒薔薇さんがその手を握ってくる。
急にどうしたのだろう。そう思った私だったが、すぐに考えを改める。黒薔薇さんが、こんな時に何も考えず手を握ってくる訳がない。何か意図があるのだろう。
「総、少し魔力を分けてもらえますか?」
「魔力を?」
「ええ、カマキュラーとの戦いで、私はそれなりの魔力を消費しましたわ。だから、魔力を分けてもらいたいのですわ」
黒薔薇さんは、私に魔力を分けてもらいたいようだ。
カマキュラーとの戦いで、黒薔薇さんは多彩な技を放っていた。それなりに、魔力を消費しているのは当然のことだろう。
もちろん、魔力を分けることは構わない。しかし、私はどうすればいいのだろうか。
「黒薔薇さん、魔力を分けるのはいいけど、それってどうすればいいの」
「魔力を放出してもらえますか?」
「あ、うん」
黒薔薇さんの指示に従い、私は魔力を放出した。その魔力が、黒薔薇さんの体に流れていることを私は実感する。
「ありがとうございます。もう放出を止めてもらっていいですわ」
「あ、うん」
「それでは、少し分身を作りますわ」
私が魔力の放出を止めた後、黒薔薇さんの隣の二カ所に植物が現れた。その植物は、だんだんと見た目を変えて、黒薔薇さんと同じ姿になっていく。
これは、カマキュラーとの戦いで使っていた植物の分身だ。この分身で、蜂の駆除を手伝うということなのだろう。
「私の力には遥かに及ばない分身ですが、あの蜂程度なら倒せると思いますわ。この分身に、蜂の位置を教えてくださいな」
「あ、うん、わかった。便利な分身だね」
「もう少し作り出したいのですが、これ以上増やすのは難しいですわ。分身の操作は、それ程難しいことではありませんが、流石にハニリッチと戦うのに増やし過ぎるのは厳しいですわ」
「大丈夫、二人も増えたなら、充分だよ」
二人の黒薔薇さんは、雷菜ちゃんの側についた。二人も増えれば、蜂の対処も楽になるだろう。
そういえば、この分身で黒薔薇さんは再度魔力を使ったということになる。これは、私の魔力を分けてあげた方がいいのではないだろうか。
「黒薔薇さん、私の魔力をもう一回分けようか?」
「え? いえ、それでは総の魔力がなくなってしまいますわよ?」
「大丈夫、私の魔力があるより、黒薔薇さんの魔力がある方が役に立つから」
黒薔薇さんは、私の魔力を心配してくれたが、それはいらない心配である。私より、黒薔薇さんが魔力を持っている方が、役に立つはずなので、私の魔力がなくなっても問題ないのだ。
という訳で、私は魔力を放出した。黒薔薇さんは、仕方ないという風な顔で、私の魔力を受け取ってくれる。
これで、黒薔薇さんの魔力が元に戻るはずだ。ハニリッチとの戦いに、備えることができるだろう。
「総、もう大丈夫ですわ」
「あ、そうなの?」
「……総? 気分は悪くなっていませんか?」
「うん、大丈夫。全然、問題ないよ」
魔力を渡し終えた後、黒薔薇さんは私を心配してくれた。だが、私は全然問題なかった。気分は、まったく悪くなっていない。
そんな私の発言に、黒薔薇さんと雷菜ちゃんは少し驚いたような顔をしている。私は、何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。
「総の魔力量って、本当にすごいんだね……」
「ええ、想像以上ですわね……」
どうやら、二人とも私の魔力の量に驚いていたようだ。確かに、黒薔薇さんの魔力を二回も回復させたというのは、中々すごいことなのかもしれない。
やはり、私の魔力量はかなり多いようだ。何故、ここまで魔力を持っているのかわからないが、これなら役に立つこともできるだろう。黒薔薇さんの魔力が切れそうな時、私から補充するというようなことができるからだ。
「黒薔薇さん、魔力が切れたら、私に言ってね。また、分けるから」
「ええ……でも、あまり私に渡し過ぎないでいいですわよ。あなたがまた倒れたら、私は戦いどころではなくなってしまいそうですもの」
「あ、うん」
魔力補充要員として張り切っていた私を、黒薔薇さんは少し心配していた。どうやら、この張り切り方はあまりいいものではないようだ。
とりあえず、自主的に魔力補充要員と発言することはやめた方がいいだろう。黒薔薇さんに、余計な心配をかける必要はない。
「さて、それではそろそろ行動を開始しましょうか」
「あ、うん……」
「そちらは任せましたわよ?」
「うん、任せといて」
そこで、黒薔薇さんは話を切り上げた。あまり、話している時間はない。早くこの町に蔓延っている蜂達を止めなければならないからだ。
こうして、私達は行動を開始するのだった。
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