第13話 脱衣所での動揺
私と黒薔薇さんは、お風呂に入るために脱衣所まで来ていた。
この脱衣所の時点で、とても広い。恐らく、お風呂もすごい広さなのだろう。
「すごい広さだね……」
「そうですの? まあ、そうなのかもしれませんわね」
黒薔薇さんは、私の質問に少し不思議そうな顔をした。黒薔薇さんの中では、この広さは普通であるようだ。
「さて、服を脱ぎますが、恥ずかしいなら、タオルで隠してもいいですわよ。最も、湯船の中につけるのは、マナー違反ですけど」
「あ、うん……」
私が裸を見られるのが恥ずかしいと言ったため、黒薔薇さんはそのように言ってくれた。
確かに、タオルで隠しておけば裸を見られることはない。湯船の中に入れば、あまり見えないだろうし、それはいい案である。
「まあ、私は隠しませんが……」
「そうだよね……」
しかし、私にはある懸念があった。それは、黒薔薇さんがタオルで隠さないということである。
黒薔薇さんは隠さないでその体を、見せてくれるのだ。それなのに、私だけ隠すというのは不公平ではないだろうか。
自分だけ見て、相手には見せない。それは、私の心情的にあまり気持ち良くないものなのである。
「それなら、私も隠さない」
「え?」
「黒薔薇さんは別に見たくないとは思うけど、私だけ見て、黒薔薇さんに見せないのは不公平だもん。だから、私も隠さないようにする」
そのため、私は自らの体を隠さないことに決めた。その方が、私は気が楽なのだ。
そんな私の言葉に、黒薔薇さんは少し感心したような表情をした。私の決断を良く思ってくれているなら、少し嬉しく思う。
「総は、いい決断をしましたわね。そういう公平さを重んじるのは、私の好みですわ」
「そ、そうなの?」
「ええ、私は総の決断を尊重して、しっかりとあなたの体を見させてもらいますわ」
私の決断に対して、黒薔薇さんはそのように言ってくれた。
褒められたことは、とても嬉しい。ただ、しっかりと見るという言葉は少し動揺してしまう。
そんなにじっくり見られるのだろうか。それは、かなり恥ずかしくなりそうだ。
ただ、それは黒薔薇さんが私の決断を尊重してくれた結果である。こうなったら、しっかりと見てもらうことにしよう。
「さて、それなら早く服を脱ぎますわよ」
「あ、うん……」
黒薔薇さんの言葉に、私は頷いた。いよいよ、服を脱がなければならないようだ。
私は、ゆっくりと自分の服を脱いでいく。服を一枚脱ぐ度に、私の緊張は加速する。服というのは、ここまで心強いものだっただろうか。
「あっ……」
横目で黒薔薇さんを見てみると、既に下着姿だった。その美しい体に、私は思わず見惚れてしまう。
やはり、黒薔薇さんは普通の人とは違う。こんな綺麗で甘美な人は、他に見たことがない。
こうなってしまうから、私は黒薔薇さんの体を見てはいけなかったのだ。この憧れの感情は、私を正常な考えから遠ざけて行く。何か変な気でも、起こしてしまいそうだ。
「あら? どうかしましたか?」
「あ、ごめん。見惚れてしまって……」
服も脱がず固まっている私を、黒薔薇さんはおかしく思ったらしく、質問をしてきた。
その質問に、私は素直に答えていた。ここまで来て、誤魔化したりする必要などないと思ったからである。
「見惚れる? なるほど、そうでしたのね」
私の答えに、黒薔薇さんは誇らしそうな表情をしてくれた。私の言葉を、嫌に思ったりはしていないようだ。
「好きなだけ、見惚れていいですわよ」
「あ、ありがとう。でも、これ以上はやめておくね」
「あら? そうですか……」
私が遠慮すると、黒薔薇さんは少し残念そうにした。どうやら、黒薔薇さんは見られる方がよかったようである。
もしかしたら、私がたくさん褒めるから、気を良くしてくれているのかもしれない。だから、このようにサービス精神旺盛なのだろうか。
ただ、これ以上見るのは良くない。黒薔薇さんの体に見惚れていると、ずっとお風呂に入れなくなりそうだからだ。
私は、黒薔薇さんのことを気にせず服を脱いでいく。私を守るものは、どんどんなくなっていき、いよいよ下着姿になってしまった。
「……」
「……」
そんな私は、視界の横で黒薔薇さんがその下着を脱いでいることに気づいた。
私は、視線を自分の目の前に集中させる。黒薔薇さんの裸は、まだ見てはいけない。見ると、私は大変なことになってしまいそうだ。
とりあえず、私も自分の下着に手をかける。今は、自宅のお風呂場にいる。自分にそう言い聞かせて、一気に下着を脱いでいく。
「く、黒薔薇さん……ぬ、脱いだよ」
「ええ、私も脱いでいますわよ」
「あ、うん……」
私は、ゆっくりと黒薔薇さんの方を向いてみた。すると、一糸纏わぬ黒薔薇さんが目の中に入ってくる。
その体に、私は思わず固まってしまう。その透き通るような肌も、大きな胸も、そのどれもが美しく艶めかしい。
こんな美しい体を持つ人は、どこを探してもいないのではないだろうか。同性の私でも、この体には興奮を覚えずにはいられない。
「あら? 総も中々いい体をしていますわね」
「え? あ、ありがとう……」
固まっている私の体を、黒薔薇さんは褒めてくれた。
褒めてくれるのは、もちろん嬉しい。ただ、同時にとても恥ずかしく思う。
私の裸を黒薔薇さんが見ている。その事実は、私を激しく動揺させるものだ。
「あら? 私の裸に見惚れていますの?」
「あ、うん……ごめん」
「いえ、私は一向に構いませんわ。存分に見ていいですわよ」
私に対して、黒薔薇さんはそのように言ってくれた。先程言っていた通り、存分に見てもいいようだ。
しかし、存分に見ると、私はどうにかなってしまいそうである。黒薔薇さんの裸は、私にとって刺激的すぎるようだ。
「総、しっかり見てくださいな」
「あっ……」
黒薔薇さんは、私に見せつけるように胸を張ってくれる。自身の体を一切隠さない堂々とした態度だ。
その体勢をとったことで、黒薔薇さんの体はさらに強調される。先程までも刺激的だったが、さらに刺激的である。
そんな刺激的なものを見せられては、私もただでは済まない。鼓動が早くなり、頭が熱を帯びてくる。これは、明らかに普通ではないだろう。
「総? 大丈夫ですの?」
「あう……」
「総?」
動揺している私を心配して、黒薔薇さんが近づいて来た。その優しさは、本当にありがたいものである。
ただ、今黒薔薇さんに近づかれるのは、良くないことだった。その体が近づいてくるということは、より至近距離でその体を見ることになる。それは、刺激も強くなるということだ。
しかも、歩いたことで黒薔薇さんの体はもちろん動く。そのことも、その刺激を増す要因である。
「く、黒薔薇さん……私は大丈夫だから、お風呂に入ろう」
「総? どうして、目を逸らしていますの?」
「黒薔薇さんの体、私には刺激が強すぎるみたい……綺麗で艶めかしくて、私変な気分になっちゃいそう……」
私は、黒薔薇さんの体から目を逸らした。このまま見ていると、大変なことになってしまいそうだったからだ。
とりあえず、心が落ち着けるまで、黒薔薇さんの裸は見ないようにしよう。見たい気持ちはあるが、それは我慢するしかない。
「そうでしたのね。それなら、少しずつ慣れてくれればいいですわ」
「う、うん……」
私の言葉に、黒薔薇さんは納得してくれた。少し残念そうにしているので、やはり見てもらいたかったようである。
黒薔薇さんがそういう態度だと、私も益々見たくなってしまう。だが、見ると大変なことになる。精神力をしっかりとさせて、我慢するしかないのだ。
「さて、それなら、行きましょうか」
「あ、うん。そうだね……」
私と黒薔薇さんは、ゆっくりと洗い場へと向かって行く。色々とあったが、いよいよお風呂に入るのだ。
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