第7話 魔力の放出

「さて、それでは次に魔力を放出してみましょうか」

「魔力を放出?」

「ええ、とりあえず、私を見ていてもらえますか?」


 そこで、黒薔薇さんはそのように言ってきた。次は、魔力の放出を学ぶようだ。とりあえず、黒薔薇さんが手本を見せてくれるのだろう。

 言葉の直後、黒薔薇さんの体から、何かが溢れ始めた。以前の私なら、それは見えなかったのだろう。恐らく、それが魔力だ。


「少々わかりやすく表現はしていますが、これが魔力の放出ですわ。魔女は、このようにして魔力を行使しますわ」

「そうなんだ……」


 やはり、これが魔力の放出であるらしい。この状態で、魔女は魔力を行使するようだ。

 私は、今からこれをやらなければならないだろう。だが、やり方はまったく理解できていない。一体、どうやって魔力を外に出しているのだろうか。


「魔力を放出する方法は、非常に簡単ですわ。自分の中に流れる魔力を感じ取れているなら、魔力を外に出すようにイメージすればいいのですわ」

「魔力を外に出すイメージ……」

「ええ、目を瞑ってやるのがいいかもしれませんね」


 私は、黒薔薇さんに言われた通り目を瞑る。そして、自身の中にある魔力が外に出るようにイメージする。

 魔力の流れを既に掴んでいるからか、魔力を外に出すイメージはすぐにできた。私の体から、魔力が流れ出ている。その光景が、簡単に脳裏に浮かぶ。


「え?」

「あら……」


 次の瞬間、私は奇妙な感覚に包まれた。体の周りに、何かが溢れているような感覚がしたのだ。

 私は、ゆっくりと目を開けて、今の自分の状態を確認する。


「これは……」


 私の周りには、先程までの黒薔薇さんと同じように、何かが張り巡らされている。それが、私の体から放出された魔力だということは、すぐに理解することができた。


「できたみたいですわね」

「あ、うん。これで、いいの」

「ええ、大丈夫ですわ。少し無駄に放出していますが、それは最初ですから、仕方ありません。何度かやっていれば、慣れてきて、どれくらい放出するかを調整できると思いますわ」

「あ、そうなんだ……」


 私の状態は、少し無駄に魔力を放出しているようだ。

 確かに、先程までの黒薔薇さんと比べても、自身の周りに広がる何かの範囲が大きい。黒薔薇さんは、わかりやすくしていてあれなのだから、私は相当無駄があるということなのだろう。

 しかし、それは最初だからそうなっているだけのようだ。慣れてくれば、これも調整できるのだろう。


「さて、次はわかりやすい魔法を一つお教えしましょうか」

「わかりやすい魔法? 私にもできるの?」

「ええ、本当にとてもわかりやすいですわよ。魔力を集中させて、放つだけですもの」


 そこで、黒薔薇さんはそのようなことを言ってきた。どうやら、わかりやすい魔法を一つ教えてくれるようだ。


「あなたに教えるのは、だん……マジック・ショットともいいますわね。とにかく、魔力を弾にして打ち出す魔法ですわ。まあ、見ていればわかりますわ」

「あ、うん」


 私にそう言った後、黒薔薇さんは指を銃のように構えた。人差し指と親指を伸ばし、木がある方向に狙いを定めたのだ。

 黒薔薇さんの人差し指に、魔力が集中しているのが感じ取れる。その直後、黒薔薇さんの指先に小さな光の球体ができあがった。


「私の指先に、魔力が集中しているのがわかるでしょう。今から、これを飛ばしますわ」

「あっ……」


 言葉の直後、黒薔薇さんの指から光の球体が放たれた。

 その球体は、真っ直ぐに飛んでいき、前方にあった木に命中した。すると、その木で小規模な爆発が起こる。


「これが……」

「ええ、魔弾ですわ」


 爆発の後、木は大きくえぐれていた。これが、魔弾というものの威力なのである。

 小さいながらも、魔弾はかなりの威力を持っているようだ。とてもわかりやすい魔法であるようだが、かなり危険なものでもあるらしい。


「今のは、威力をかなり抑えましたが、やろうと思えば、もっと威力はあげられますわ」

「え? そうなの?」

「ええ、単純ながら攻撃力があるいい魔法ですわ」


 どうやら、魔弾の威力はあれでもかなり抑えていたようだ。それで、あの威力なのは、かなり恐ろしいものである。

 ただ、それは黒薔薇さんが使っているからという可能性もあった。熟練者の黒薔薇さんが使うからこそ強く見えるだけで、私が使えば、そこまでなんてことのないものになるのかもしれない。


「さて、あなたもやってみましょうか。やり方は、私のを見て、わかりましたか?」

「あ、うん。少しはわかったから、やってみるね」


 黒薔薇さんの手本があったため、どういう風に魔力を扱うかは理解できていた。

 私は黒薔薇さんと同じように指を構えながら、指に魔力を集中させる。すると、私の指先に光の弾が現れた。この状態から、魔力を飛ばせばいいということだろう。

 ただ、ここからが少しわからなかった。魔力を集中させることはできても、魔力を飛ばすことはできないのだ。この部分は、黒薔薇さんに聞いてみるとしよう。


「黒薔薇さん、少しいいかな?」

「あら? どうかしましたか?」

「魔力はどう飛ばせばいいの? 集中はできたけど、飛ばす方法だけはよくわからないんだ」

「飛ばす方法は、簡単ですわ。集中させた魔力を、前に押し出すと同時に、切り離せばいいのですわ」


 私の質問に、黒薔薇さんはそう答えてくれた。少し前までの私なら、この言葉を理解することはできなかっただろう。

 だが、魔力を把握した私は、その言葉をなんとなく理解できた。そのため、とりあえず実行に移してみる。


「こう……かな!?」

「あら?」


 黒薔薇さんの言葉通り、私は自身の魔力を前に押し出して切り離した。

 すると、私の体に衝撃が走った。その衝撃は、少しのけぞる程のものだ。

 それと同時に、私の指先にあった光の弾が、木々の方へと向かって行く。とりあえず、魔弾は発射できたようだ。


「あっ!」

「あら?」


 その直後、前方の木の前くらいで大きな爆発が起こった。どうやら、私は発射する直前に少し指を下に向けてしまったようだ。

 それに、威力も間違えていたようである。爆発による砂埃が晴れた後、地面は大きくえぐれていた。明らかに、威力が強すぎである。


「まあ、色々と不備はありますが、最初にしては上出来ですわ」

「え? そうなの?」

「ええ、衝撃に耐えられないのも、威力が定まらないのも、初心者ならよくあることですもの。だから、あなたは充分に魔弾を放てたといえるはずですわ」


 しかし、黒薔薇さんからは上出来という評価を得ることができた。

 私が犯した間違いは、初心者ならよくあるもののようだ。それなら、とりあえずは魔弾を修得できたといえるのだろう。


「後は、練習していけばいいだけですわね。そうすれば、あなたも魔力を自由に制御できるようになるはずですわ」

「わかった。魔力の練習を、頑張ることにするよ」

「いい返事ですわ」


 私の言葉に、黒薔薇さんは笑顔を見せてくれた。このように黒薔薇さんに褒められるのは、とても嬉しいことである。


「あら……」

「うん? 黒薔薇さん? どうかしたの?」


 そこで、黒薔薇さんの表情が変わった。先程までとは打って変わって、真剣な表情になったのだ。

 黒薔薇さんは、木々に囲まれたある一点を見つめている。そこに、何かがあるということなのだろう。

 私も、黒薔薇さんと同じ所を見て、神経を集中させる。黒薔薇さんが気づいたのは、恐らく魔力に関係する何かだろう。もしそうなら、今の私も何かが感じられる可能性がある。


「これは……」

「どうやら、ネズミが入り込んだようですわね……」


 私は、木々の奥の方に何か大きな魔力を感じた。その大きさは、恐らく自然に出せる魔力量ではない。どうやら、誰かが入り込んできているようだ。

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