第3話 学校での呼び出し
私の名前は、
しかし、最近、私の身に普通ではないことが起こっている。
私は塾の帰り道、捕食者と呼ばれる怪物に襲われた。それを助けてくれたのは、クラスメイトの千堂院黒薔薇さんである。彼女は、捕食者と戦う存在である魔女だったらしいのだ。
そんな千堂院さんと、私は昼休みに話し合うことになっている。本来なら、事件の記憶を消される所だったのだが、何故か私の記憶を消すことはできなかった。その原因を、伝えられることになっているのだ。
「
「あ、
「予定?」
昼休みになって、友達の
「昼休み、何かあるの?」
「うん、実はある人と話し合うことになっていて……」
「ある人……?」
「うん……あっ」
「え?」
私が説明しようとしていると、こちらに千堂院さんが来ていることに二人とも気づいた。私はわかっているが、雷菜ちゃんは知らないので少し驚いているようだ。
確かに、千堂院さんが私に話しかけてくることはそんなにないことである。そのため、驚くのも無理はないだろう。
「さて、迎えに来ましたわ。少し場所を変えましょうか」
「あ、うん。でも、どこで話すの?」
「それは、私がいい場所を用意していますわ」
「あ、そうなんだ」
言っていた通り、千堂院さんは私を誘いに来てくれた。しかも、話す場所まで用意してくれているようだ。
しかし、一体どこで話すのだろうか。今回の話は、人に聞かれてはいけない話であるはずだ。この学校に誰も入って来られないような場所などあるのだろうか。
「それじゃあ、雷菜ちゃん、そういうことだから……」
「あ、うん。わかった、行ってらっしゃい」
「それじゃあ、行きますわよ」
「うん」
私は雷菜ちゃんに声をかけてから、千堂院さんとともに歩き始めた。千堂院さんが誰かと歩いたりすることは珍しいので、教室では少し騒ぎが起こっている。
千堂院さんは、その華やかな立ち振る舞いからか、教室でも目立つ人だ。だから、皆あることないこと言っているのだろう。
そんなことを考えながら、私は千堂院さんについていく。千堂院さんは、教室から出て廊下を進んで行った。一体、千堂院さんはどこに向かっているのだろうか。
「千堂院さん、どこに行くのか、聞いてもいい?」
「構いませんわよ。といっても、すぐにつくと思いますが……」
「あれ? 上に上がるの?」
私の質問に答えながら、千堂院さんは階段を上がっていった。当然、私もそれについていく。
「しばらくは階段を上りますわ」
「階段を上って、どこまで行くの?」
「屋上ですわ」
「屋上……?」
そこで、千堂院さんは答えをくれた。どうやら、屋上に向かっているようだ。
しかし、それはおかしな話である。この学校の屋上は、解放されていない。そのため、屋上に行っても意味はないはずなのだ。
だが、千堂院さんもそれは当然知っているはずである。そのため、何かがあるのは確かだろう。
「屋上には普通いけないはずだよね?」
「ええ、そうですわね」
「千堂院さんは、屋上に入れるの? もしかして、強引に?」
「いえ、きちんと鍵を持っていますわ」
私の質問に、千堂院さんはそう答えてくれた。てっきり、不思議な力で扉を開けるのかと思ったが、鍵を持っているようだ。
しかし、鍵は生徒に滅多なことがなければ渡されないはずである。それを、どうして千堂院さんが持っているのだろうか。
「さて、行きますわよ」
「あ、うん……」
私がそんなことを考えていると、いつの間にか屋上についていた。千堂院さんは、宣言通り鍵を使ってその扉を開ける。
「私、屋上に来るの初めてだよ」
「ええ、ほとんどの人はここに来ることはありませんわ。だから、ここなら安心して話すことができますのよ」
「な、なるほど……」
困惑する私に、千堂院さんはそのように言ってきた。
確かに、ここなら誰にも聞かれることなく話をすることができるだろう。屋上に入って来ようとする生徒などほとんどいない。そのため、安全に話すことができるはずである。
「まあ、念のため人払いを施して起きましょうか」
「人払い?」
「ええ、その説明は後でしますわ」
そこで、千堂院さんは人払いというのを施し始めた。
それがどういうものなのかはわからない。だが、言葉的に人を寄せ付けないために施すものなのだろう。
「さて、話を始めましょうか」
「あ、うん」
人払いというのが終わったのか、千堂院さんはそのように言ってきた。今から、話が始まるようだ。
「それでは、まず魔力について説明をしましょう」
「魔力のことだね」
「ええ、それについては単純なものですわ。人間の体に宿るエネルギーを魔力と呼びますのよ」
「人間の体に宿る、エネルギー……」
まず千堂院さんが説明してくれたのは、魔力に関することだった。魔力とは、人間の体に宿るエネルギーであるようだ。
その言葉は少し抽象的だが、理解できるものである。人間の体に何か不思議な力が宿っていると解釈すればいいのだろう。
「それは、誰にでも宿っているものなの?」
「ええ、そうですわ。私にもあなたにも、それどころか大抵のものに魔力は宿っていると言えますわ」
「そうなんだ……」
魔力というものは、誰にでも宿っているものらしい。それなら、私にも宿っているという話も納得できる。
「その魔力が、私は人よりも多いということなの?」
「ええ、そういうことですわ」
私の質問に、千堂院さんはゆっくりと頷いてくれた。
どうやら、私は人よりも多くの魔力を持っているようである。もちろん、私にそのような自覚はまったくない。自分の体にそんな力があるなど、考えたこともないのである。
「そんな力が、私にあるんだね……」
「ええ、だから、あなたの記憶は消せなかったのですわ。私の魔法が効かない程、あなたの魔力が高かったということですわね」
「魔法……」
そこで、千堂院さんの口からそのような単語が飛び出した。
魔法という言葉は、もちろん知っている。だが、これも実際にあるものだとは思っていなかったものだ。しかし、魔力という存在を聞いた時点で、それくらいは連想していたため、そこまで驚くようなことでない。
ただ、念のため詳しく聞いてみた方がいいだろう。この際、よくわからないことは、全て聞いておくべきである。
「魔法というのは、千堂院さんが使っていた不思議な力のことなの?」
「そうですわ。私が使っているのは、魔法ですわね。それに、捕食者が使っているのも魔法ですわよ」
「捕食者も同じなんだ……」
どうやら、千堂院さんだけでなく、捕食者が使っているのも魔法であるようだ。
ただ、私が見た時、捕食者は特別な力を使っていなかったのではないだろうか。単純に、その巨体の力だけで戦っていたような気がするのだ。
「例えば、あの捕食者にあなたが襲われていた時、誰も気づかなかったでしょう? あれは、先程私が使った人払いと同じようなものですのよ」
「あ、そうなんだ」
そこで放たれた千堂院さんの言葉に、私は驚いた。なぜなら、私はその明らかな違和感に気づいていなかったからだ。
そういえば、あの時、私も捕食者も千堂院さん以外には気づかれていなかった。考えてみれば、それはおかしな話だ。あのような巨体が動いているのに、誰も気づかないのは明らかにおかしいのである。
そんな簡単なことに、私は気づいていなかったのだ。焦っていたとはいえ、そのくらいのことは勘づきたかったものである。
「さて、あなたが多大な魔力を持っているとわかった以上、野放しにしておく訳にはいきませんわ」
「え?」
私が色々と考えていると、千堂院さんがそんなことを言ってきた。どうやら、多大な魔力を持つ私を野放しにしておく訳にはいかないようだ。
その言葉に、私は少し怖くなってしまった。千堂院さんの言い方は、次に物騒な発言が出てきそうな言い方だ。私は、一体どうなるのだろうか。
「私、何かされるの?」
「ええ、あなたを魔女に勧誘させてもらいますわ」
「魔女に……勧誘?」
そう思っていた私だったが、千堂院さんが言ってきたのはまったく考えていなかったことだった。
魔女への勧誘、それは一体どういうことなのだろうか。
「勧誘って、どういうこと?」
「才能がある者には使命がありますわ。あなたは、多大な魔力を持っている。その魔力を生かさないというのは罪というものでしょう?」
疑問を感じている私に、千堂院さんはそのように言ってきた。
どうやら、千堂院さんは才能がある私に働くように言ってきているようだ。魔力がたくさんあるのだから、それを無駄にするなと言っているのだろう。
しかし、私はそれにすぐに頷くことはできない。なぜなら、あんな怪物と戦うような自信がまったく湧いてこないからだ。
「でも、私、あんな怪物と戦う自信なんてないよ……」
「別に、捕食者と戦うことだけが魔女の役目ではありませんわ。人間を守るために、色々な役割がありますわ。あなたが戦うのが怖いというなら、そういう道に進むこともできるでしょう。どちらにせよ、才能があるあなたが、その魔力を眠らせておくことはあってはなりませんわ」
「そ、そうなんだ……」
私は勘違いしていたが、魔女は捕食者と戦うだけではないようである。それなら、私にもできるのだろうか。
「とにかく、あなたは魔女になるべきですわ。その多大な魔力の使い方を覚えるのは、あなたにとっても必要なことですもの」
「必要なこと?」
「その魔力が暴走する可能性がないとは言い切れませんわ。魔力が高いということは、それなりにリスクもありますもの」
「そ、そうなんだ……」
「それに、捕食者に狙われないとも限りませんわ。魔力が高い者は、彼等にとっても狙いたいものですわよ」
「な、なるほど……」
千堂院さんが言ってきたことで、私は魔女になった方がいいことを理解した。これは、私の安全のためにも、必要なことなのだ。
魔力の使い方も覚えれば、暴走することもなくなるだろう。そして、捕食者に狙われても助かる可能性が高くなるはずだ。色々な面から、私は魔女になるべきなのである。
「わ、わかった……私、魔女になる。その方が、私にとっていいんだよね?」
「ええ、あなたは正しい選択をしましたわ。これから、私があなたを立派な魔女にして差し上げましょう」
私に対して、千堂院さんはゆっくりと手を伸ばしてきた。私は、その手をしっかりと握る。
こうして、私は魔女になることになった。これから、どんなことが待っているのかはわからないが、頑張っていくとしよう。
「ああ、そういえば、あなたは私のことを千堂院と呼んでいましたね」
「え? あ、うん。そうだよ」
「私のことは、黒薔薇で構いませんわ。その方が、短いですし呼びやすいでしょう」
そこで、千堂院さんは呼び方のことを指摘してきた。
どうやら、千堂院さんのことは、黒薔薇さんと呼んでいいようだ。それなら、これからはそう呼ぶことにしよう。
「それなら黒薔薇さん、私のことは総って呼んで。友達からは、そう呼ばれているから」
「わかりましたわ。総、これからよろしくお願いいたしますわね」
「うん」
呼び方のことを言われたので、私の方もそのことを指摘することにした。
私は、基本的に総と呼ばれている。その呼び方が一番馴染んでいるため、黒薔薇さんにもそう呼んでもらうことにしたのだ。
「さて、早速で申し訳ありませんが、今度の休みに魔女の特訓を受けてもらいましょうか」
「今度の休み? うん、別にいいよ」
黒薔薇さんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。どうやら、次の休みに魔女の訓練を行うようだ。別に予定はないため、私としてはまったく問題ない。
「私が迎えに行きますから、あなたは家で待っていてくださいな。ああ、場所は知っていますのでご心配なく」
「え? わざわざ家まで迎えに来てもらうなんて……」
「その方が、私にとっては都合がいいだけですわ。そこなら、確実にあなたと会えますもの」
「あ、そっか。それなら、お願いするね」
当日は、黒薔薇さんが迎えに来てくれるようだ。先日私が帰るまで見守っていてくれていたため、黒薔薇さんは私の家を知っている。
家まで迎えに来てもらうのは、少し申し訳ない気がした。だが、黒薔薇さんの言う通り、そこならすれ違うようなことも起きない。それなら、迎えに来てもらえばいいだろう。
こうして、私は次の休みに黒薔薇さんと魔女の修行をすることになるのだった。
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