第15話
刀夜率いる生き残った輸送部隊はアウリウルベに到着した。団長ら負傷者を病院に運び込み、手続きを済ませた。フェーロウルべ出発から三日。移動、戦闘、指揮、事務作業など、様々な仕事が刀夜を苦しめていた。しかし、任務の目的を果たさなければならない。アウリウルベの王に謁見し、芸術品を渡すのだ。
刀夜たちの車がアウリウルベの城下町の大通りを走っていく。アウリウルベ城の城門の前に着くと守衛が、責任者である団長はどうした、と刀夜に尋ねてきた。刀夜は道中であったことを説明しだすと、守衛は、分かった、と言い、すんなりと通させた。
アウリウルベ城の豪華さはどの王都の城にもまさっている。理由は、金だ。刀夜がかつていたシュヴァリエ剣士学校がある居住都市や、フェーロウルべなど他の都市とは離れた辺境にある分、金を始めとする鉱産資源が豊富なのだ。ちなみに、シュヴァリエの都市は商業、フェーロウルべは鉄が採れるので鍛冶などで経済が成り立っている。しかし、金の採れるアウリウルベは世界の経済の中心で、王、アウルヴァルク四世の権力も絶大なものだ。
生き残りの団員たちと荷物を運び出し、慎重に城内に運んでいく。城に入ると、赤いカーペットが大階段の上まで敷かれていて、金の装飾が至る所に施されている。さすがは金の都、と刀夜は思った。城内で案内人が待っていた。
「ご苦労様でした。よくぞここまでいらしてくださいました。道中の出来事は聞いております。ささ、こちらに」
謁見の間の前に着くと、案内人に扉の前で待たされた。案内人が謁見の間の中に入って、姿が見えなくなると団長の一人が
「ここの人間、全員が疑わしく見えてきますね」
と言った。
「そうだな、絶対に何かあるんだよな、こういうところには」
刀夜もそう言った。
「準備が整いました。中へどうぞ」
案内人が刀夜たちを謁見の間に通す。そこはエントランスとは比べ物にならないくらい煌びやかだった。玉座が金色に輝き眩しい。刀夜たちはいちいち金でできている台座のようなところに芸術品を置き、整列した。
アウルヴァルク四世が兵士に囲まれて入ってきた。王は輝いている玉座に座ると
「ご苦労だった。それが例の品か。対価は後で払うとして。五十人来ると聞いていたがたったの五人とは。さぞ大変だったのだろう」
と言った。刀夜ら輸送部隊の近衛兵団は五人にまで減っていた。
「ご心配には及びません。王に忠誠を誓った身でありますゆえ、息絶えようとも任務を全うするのが我ら近衛兵団の役目であります。輸送対象であるこれらの芸術品には、指一本触れさせていません」
刀夜が言った。半分は本心である。もう半分は王への探り入れだ。
「そうか、実に素晴らしい。ではここからはそれらの品を我らが預かろう」
王が指示を出すと王の周りにいた兵士たちが、芸術品をあっという間に外へ持って行ってしまった。
「今日は一流のホテルを用意してある。そこでゆっくりしていってくれ」
「恐縮であります」
「明日ゆっくりでいい。必ずここに来てくれ。城内に入ったら案内人がまたいるはずだ」
「承知致しました」
特に不審な点はないな。これは信用していいのだろうか。
刀夜は頭の中で色々と考えていた。
謁見が終わり、刀夜たちは病院に向かった。
団長は相変わらず動くどころか、意識すらなかった。団長、と刀夜は虫の鳴く声で言った。あれほど尊敬していて友達のように仲が良かった団長がこのような状態に陥っていることを刀夜は受け止めきれなかった。担当の医師と今後についての会話をし、一時間後に病院を出た。
刀夜たちはホテルに着いた。そこもまた豪華で、寮生活をしていた刀夜が落ち着いて寝れるような場所ではなかった。団長が泊まるはずだったスイートルームの鍵をフロントで渡され、その部屋に行った。鍵を開けて部屋に入ると、そこは一人で宿泊するのには広すぎる部屋だった。とりあえず荷物を整理して、シャワーを浴びた。大浴場やプールなどもあるらしいがそんなことより一人で疲れを少しでも取りたい。刀夜の本望だった。ベッドに横になるとすぐに眠りについた。八時前のことだ。
刀夜が目を覚ますとまだ九時半だった。お腹が痛いので食事をとっていないことに気づき外へフラフラと出かけて行った。するとホテルのロビーに三十人ほどの兵士がいた。よく見るとフェーロウルべの制服だった。彼らは刀夜を見つけるなり駆け寄ってきた。刀夜は、怪我はないか、団長は大丈夫かなどの質問攻めにあった。なぜ来たのかという刀夜の質問に対してある団員は、アサシンとの交戦があり、隊が壊滅状態にある、という情報を聞いた王が応援部隊を派遣させたのだと言った。
そんな会話をしていると、見つけた。千草だ。しかし酷く顔色が悪い。
「千草!来てたのか!顔色が良くないぞ。体調でも悪いのか?」
刀夜が尋ねると千草は口を開いた。
「ここに来る途中、近衛兵団の方の遺体がありました。無残な姿でした。先輩...副団長がもし、敵アサシンの前に倒れていたらと思うと...」
千草はその肉体から魂が抜けたようだった。彼女は実際の戦闘をしたこともないし、死体も見たことがない。今回の事件は兵士である以上当たり前のことだが、未熟な千草には極めて強烈な出来事だったのだろう。
そう思った刀夜は
「俺はお前がこの世にいる限り、剣に倒れることはない。俺はお前の盾であり剣だ。そんなにヤワじゃない」
と千草を落ち着けようとそう言った。
千草は小さく頷いた。
「よし、じゃあ一緒に来てくれ」
刀夜は千草を連れて自分のスイートルームに戻った。
「荷物を置いて飯に行こう。お腹空きすぎてヤバいんだ」
「行きます...!」
千草に笑顔が戻ってきて、刀夜は少し安心した。
そして二人はアウリウルベの繁華街へ向かった。
食事を済ました二人はホテルに帰り、刀夜の部屋に戻った。
「美味しかったですね、あれ」
刀夜と食事をして千草のメンタルもだいぶ治っていた。
「そうだな。そうだ、今日はどうする?」
その刀夜の言葉の意味を千草は察した。
「もちろん!こんな広い部屋に先輩一人は寂しいですもんね!」
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