第8話

 ある週末、刀夜は千草を連れて、一人でよく行くレストランに来ていた。


「ここに、人と来るのは初めてだなぁ。今日は奢るからなんでもいいぞ」


「そんな!私、まだあの時のお礼すら…」

いつも千草はそう言って、あの事件のことを思い出す。


「そのことはもういいよ、だから今は食事と会話を楽しもう。」

刀夜は、牛ヒレのステーキを切りながら千草に言った。


「分かりました。じゃあお言葉に甘えて!うふふ!」

と、千草は笑いながらナイフとフォークを持った。


少し経ってから、

「なあ、古賀。」

と刀夜が呼びかけると、


「千草です。千草って呼んでほしいです!」

と千草は言った。


「分かったよ古賀…じゃなくて千草。」


「よく言えました!」

少し上から目線で刀夜にそう言った。


「それでだな、千草。なんで俺にそんな構うんだ?俺が学校でよく思われてないのは知ってるだろ?」

単刀直入に聞いた。


「え、知りません!」


刀夜は、確信した。これは完全に知っていると。だが、あえて聞き直しはしなかった。


「そうか、じゃあ俺の一つ目の質問の答えは?」

構ってくる理由を聞いた。


すると、千草は言った。

「先輩と一緒にいたいからですよ!それだけ!」


刀夜は、納得行かなかった。なんで俺といたいんだ?それを聞いてるのに、と思った。


「そうだ、これから一緒に鍛冶屋に行かないか?そろそろ俺の発注した剣ができてるはずなんだ。」

刀夜は、答えを聞くのを諦めて話を変えた。


「良いですね!私も先輩の剣に興味ありますし。」

千草は、目を輝かせながら言った。


刀夜と千草は食事を終え、刀夜がお金を払った。


 刀夜がいつも剣を作ってもらっている鍛冶屋は、学内のほとんどの生徒が行っていると言う大規模鍛冶屋「東雲屋」ではなく、名前も無いような鍛冶屋だ。しかし、腕だけは確かである。

刀夜は、そんな所には誰も行ってないだろうと思っていた。なぜなら、いつ行っても客はいても一人や二人。しかも、年寄りばっかだからだ。


刀夜と千草は少しさびれた住宅街を歩いていた。すると、古民家風の工房が見えてくる。そこが刀夜が行く鍛冶屋だ。


他愛もない会話をしていると、突然千草が言った。

「え、先輩っていつもここで剣を買ってるんですか?」

刀夜は、そうだと言った。確かにこんなボロい店を見たら驚くだろうなと思った。

だが、理由は予想外のものだった。


「ここ、私の実家です。」

刀夜は自分の耳を疑った。


「え、本当か?」

と聞き返すと千草は、はいと返事した。

実際、表札を見ると、古賀とはっきり書いてあった。


千草は、ただいまーと言いながら先に店に入っていった。

すると、奥の方から

「千草か!なんだ、来るなら連絡しろっちゅうのに!」

と言ういつもの職人の声が聞こえた。


刀夜は、千草のあとに続き、恐る恐る店に入っていった。

「こんにちはー」

と言う消え入るような声で挨拶をすると、

「なんだ、お前さんも一緒か!」

と、いつものような調子で出迎えてくれた。


「そうよ、おじいちゃん!この人が私を助けてくれたの!」

どうやら、千草の祖父だったらしい。刀夜は、この世界も狭いなと感じた。


「お前さんだったのか!お前さんが来た日に事件があって、なにやら優秀な剣士がワシの孫娘を助けてくれたと聞いていたが。本当にありがとう!」

刀夜は、おじいさんにも感謝をされ、少し照れくさくなった。


「いや、本当に千草さんが無事で良かったですよ。感謝されるようなことはなにも。たまたま、あなたが打ってくださった剣を持っていたから助けられたんです。」

刀夜は、いつものように謙遜した。


「紹介しますね!私のおじいちゃんの古賀鋭一郎です。」

刀夜は、今まで職人の名前を知らなかった。


「で、お前達はなんで一緒にこんな所に来たんだ?」

と鋭一郎は聞いた。


刀夜は、今日のことなど色々説明した。

すると、

「つまり、デートっちゅうことだな!」

と鋭一郎は言った。


刀夜がとっさに、

「いや、全くそんなんじゃ!」

と言うと、千草は少しうつ向いた。

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