第7話
その後も刀夜は薙先生との練習を続けていった。しかし、上手くはなっているのは感じられたが、何かが欠けているような、忘れているような気がしていた。
薙先生にも、
「確かにお前は力をつけてきた。だが、何かを見失っているな」
と言われていた。
刀夜は、何が欠けているのかが分からなかった。しかし、理由は明白だった。
「お前自身の剣術はどうした。今のお前は、ただの私の真似に過ぎない」
そう、刀夜は本来、最初は両手で剣を構えるものの、初撃を与えると片手に持ち替える特殊な剣術だ。
だが、今は最初から最後まで両手になってしまっていた。
「僕自身の剣術。そうだ、それを忘れていました」
刀夜と薙先生は、立会いを始めた。
先手を打ったのは刀夜だった。
その初撃は受け止めれた。しかし、刀夜は薙先生が防御していない部分を見つけ、片手で軽やかに斬り込んだ。が、その攻撃も止められた。すると、今度は先生の剣が動いた。それを刀夜は見逃さなかった。先生の剣を瞬時に剣で弾き、先生の脇腹に攻撃し、当たる前に寸止めした。
「まさか、自分の動きを取り戻した瞬間ここまで強くなるとは。刀夜、お前の剣術は強い。まだまだ無駄な動きが見られるが、その分もっと高みを目指せるぞ」
「ありがとうございます。先生のおかげです。これからもよろしくお願いします」
そのあと、薙先生が放った言葉は衝撃的だった。
「いや、私が教えるのは今日までだ。今までよく頑張った。優勝期待してるぞ」
「ちょっと待ってください!急になんで!まだ、高みを目指せるって言ったのは先生じゃ。先生がいなかったら僕は…」
「もう、私はお前に必要ないという事だ。私がいなくても十分にやれる。分かったな?」
「はい…」
刀夜はそう答えるしかなかった。
その日は、日が沈むまで剣を振り続けた。
ある休みの日に、いつもの広場で練習をし、休憩をしていると、古賀千草が走ってくるのが見えた。
「せんぱーい!」
と、刀夜を呼ぶと刀夜の目の前に来て、
「先輩、今日お昼お時間ありますか?良かったら一緒にどこか食べに行きませんか?」
と言った。
「分かった。一緒に行こうか」
と答えた。
千草は、やったーと言って、刀夜が座っているベンチに座った。
「おひとりで練習ですか?」
「そうだなー、友達もいないし、今まで教わってた薙先生との練習も終わっちゃったからなぁ」
千草は、ふーんそうなんだ。と興味なさげに呟いた。
「そういえば、古賀はなんで俺の場所が分かったんだ?」
少し疑問に思ったことを聞いてみる。
「渡り廊下から見えたんですよ。あそこ見晴らしいいですから!」
単純なことだった。もしかしたらいろんな人に見られてたのかもしれない、これからは場所を変えよう、と思った。
刀夜が剣を置きに寮に帰ろうとすると、古賀は自分も行くと言い着いてきた。
「古賀はどこの寮なんだ?」
と刀夜は尋ねた。
寮は四つある。
入学時に能力や家柄によって分けられるのだ。
「紅玉」「青玉」「白銀」「黒鉄」とあり、刀夜は最下級の黒鉄寮に住んでいる。
刀夜は今でこそ学園では最強の剣士と言われているが入学時はそこまで能力も高くなかった。一番の理由は家柄だった。
刀夜が生まれると、その後すぐ母親は病気で死に、父親は刀夜が物心がつく前に事故で死んだ。更に引き取った祖父は、試合中の事故で死んだ。
元々「草刈家」は、名家と言われていた。しかし、優秀な剣士が死に、徐々に廃れていき、現在はとうとう世間から忘れ去られた。
「紅玉です。先輩、黒鉄ですよね…。すみません」
「謝ることは無いさ。紅玉なのかー。すごいな!」
若干の悔しさを押さえ、刀夜は、そう言った。
「紅玉は五十人だよな。うちは二十人、少ないからこそ色々言われるんだ。」
「私も、紅玉だ親のつてで入学して偉そうにしやがってとか言われます。先輩の気持ち、なんとなく分かります」
刀夜は、なぜかその言葉に憤りを感じた。
「…君たちなんかに、紅玉なんかに、俺の気持ちが分かるものか。俺が今までどれだけ苦労して、今でも苦労してるか…!」
刀夜の目には、うっすらと涙があった。
千草は、そんな刀夜を見て、ごめんなさいと刀夜の耳もとで囁きながら優しく腕を抱きしめた。
渡り廊下から見える場所で。
千草に怒りを感じたのではない。なんなら千草は刀夜の気持ちに寄り添おうとしてくれる。それは刀夜自身も感じていた。
本当に腹が立つのは一部の紅玉の奴らなのだ。
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