第5話

 次の日、刀夜が学校の廊下を歩いていると、正面から、昨日助けた女の子が三年生の男と歩いてきた。

女の子は刀夜を見ると駆け寄ってきた。


「昨日は本当にありがとうございました。自己紹介もせず去ってしまって申し訳ありませんでした。私は、古賀千草こがちぐさと言います!」


「妹が世話になったな、草刈君。僕はこの子の兄の大樹だいきだ。よろしく」


隣の男は、昨日助けた女の子、古賀千草の兄だった。


「あの後は何もなかったか?」

と、刀夜が聞くと、


「心配はいらないよ、ありがとう。さあ行こうか、千草」

と、なぜか大樹が割って入ってきて、千草を引っ張るように連れていった。

千草は、刀夜を少し振り返り、角を曲がっていなくなった。

嫌な感じだなと、刀夜は思った。


その一方で、学校全体は、二ヶ月後の公式戦に向けて夏の選抜に続き、再度、準備が始まっていた。

なぜこんな前から始めるかと言うと、これは生徒が全員参加の、一年で一番大きく長い大会だからだ。その期間は一ヶ月弱にもなる。


刀夜は、学校の外の広場で木剣を振り、練習していた。この前の事件以来、魔法に頼りすぎていると思い始めていた。

草刈家には、代々「草刈流」と言う剣術の流派があったが、刀夜はそれを使わず、独自の剣術を磨いていた。と言うより、草刈流を身に付ける機会がなかったと言える。


刀夜は、剣の振り方すら知らなかった。しかし、様々な剣士を見ていく中で、独自の剣術を編み出した。それが功を奏して、今、シュヴァリエにいる。


刀夜は、二時間ほど剣を振り続け、寮に帰った。すると、部屋の前で薙先生がタバコを吸って待っていた。


「ずいぶんと遅いな、刀夜」


「どうして、ここに?」


「お前は、自分の剣についてどう思っている?」

急になんだ、と刀夜は思った。剣について、どう思ってるも何も、弱いに決まってる。


「まだまだ甘いです。僕から魔法をとったら何も残りません」


「そうだな。そんなお前に良くない報せだ。」


良くない報せ?


「すでに、一部で話題になっているが、次の大会での魔法の使用が禁止された。理由は分からん。校長の意向だ」


「なるほど、つまり僕に勝ち目は無いと」


「お前はそんな弱気な奴だったか?違うだろう。勝ちたいならどうするべきか考えろ。勝つ術はいくらでもあるはずだ」

そう言って、薙先生は行ってしまった。


刀夜は、部屋に入り、木剣をしまってから、風呂に入った。

刀夜の心はすでに決まっていた。これからの短期間で、剣を教わると。


「あ、誰に?」

刀夜は、はっと思い、呟いた。

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