第3話
刀夜には、その後一週間休暇が与えられた。
しかし、その間、刀夜は特に何かをする訳でもなく、ただ時間を潰していった。
日曜日の朝、刀夜はようやく外へ出た。
鍛冶屋に行き修繕してもらうため、その左手には愛剣ノヴァがあった。
「よぉ、久しぶりだな!お前の活躍は聞いちょるぞ!ワシも嬉しいわい!」
鍛冶屋に着いた刀夜を出迎えた体格のいい白ひげの男は、いつも刀夜が世話になっている鍛冶職人だ。
「ありがとうございます。おかげさまでなんとか優勝することができました」
「なぁに、礼には及ばねぇってことよ。で、今日はどうするんだ」
「ノヴァの打ち直しと…新しい剣を」
「そうか、もうそんな時期か。割と長く使ってくれちょったもんな!分かった、任せろ」
刀夜の剣、そして、草刈家の剣には、柄頭の獅子の彫刻、赤いブレード、鍔に埋め込まれたサファイアという伝統がある。それをこの職人は分かっている。だから刀夜は細かい注文を付けず全て職人任せにしている。
「打ち直しは、一時間で終わるからその辺で暇を潰しちょってくれ」
刀夜は、近くにあった適当な本を手に取った。
-異世界転生と物質転送-
それは、異世界転生が科学的にありえるのか、物質を別の場所に輸送手段を使わず転送させることが可能か、ということについて書かれていたが、刀夜は全くもって理解できなかった。
刀夜はいつの間にか寝てしまっていた。目を覚ますと、ボロボロだったノヴァが新品同様になっていた。
「すみません、寝てしまっていたみたいで。ありがとうございました」
「かなりいい状態に戻してやったからな。と言っても、もうこいつもお役御免だな!」
職人は笑って刀夜にノヴァを渡した。
刀夜は帰り道の人気のない通りを歩いていた。剣を持った黒ずくめの男とすれ違った。嫌な予感がしたが、そういう人もいるだろう。そのまま歩いていった。
刀夜が、そこから五十メートルほど行ったその時だった。女の子の悲鳴が聞こえたのは。
振り返ると、さっきの男が右手で女の子の首を絞め、左手で剣を持っていた。
どうやらすぐそこの建物に連れていこうとしているようだ。
刀夜は、とっさにノヴァを抜き、走って男と女の子を追いかけた。
すると気がついた。あの女の子は、シュヴァリエの生徒だと。シュヴァリエの制服を着ている。
漆黒の剣を持った男は、刀夜に気づき足を止めた。
刀夜は叫んだ。
「お前が誰かは知らないが、その子を離せ!」
「おっと、邪魔が入ってきたようだね。しょうがない」
男は、女の子を離した。女の子は膝から崩れ落ちた。そして、男が指を鳴らすと、黒ずくめの男が六人になった。
その男のスキルだろう。多分、「分身」だ。
刀夜は、何度か見たことがあった。珍しいスキルではないからだ。
模擬戦では、全体魔法で六体全て処理するが、ここは住宅街。魔法を使うと火事で済まされない。ここは、単純に剣術で勝つしかない。刀夜には切り札もあった。
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