16●『劇場版 M限列車編』(3)孤立無援の二正面作戦で、R獄さんは斃れた。

16●『劇場版 M限列車編』(3)孤立無援の二正面作戦で、R獄さんはたおれた。




       *


●第二に、支援兵力バックアップなき、孤立無援の作戦を強いられたこと。



       *


 M限列車のR獄さんと、T治郎たち。

 物語の前半で、早速ピンチに陥ります。

 危うしK殺隊!

 そこで局面を変えるのが、NZ子。

 箱に隠れて、ちゃっかり無賃乗車していた彼女ですが、いざとなれば飛び出して、“トロイの木馬”方式で参戦します。

 これぞゲームチェンジャー!


 で、しばらくしたら、思いますね。

 NZ子がいなかったら、どうなっていただろう?

 R獄さんたち、夢鬼ゆめおにさんと戦わずして、全滅だったのでは?


 これ、ものすごく重要なことですね。

 つまり、NZ子が活躍した事実をもって……


 本当は、K殺隊の“柱”がもうひとり、支援兵力バックアップについていなくてはいけない事案だった……ってことです。


 なにかと二人組で怖い顔をしているおまわりさんの職質バディはともかくとして、海猿さんのバディとか、ドラマの『コンバット!』なんかで、「俺が突撃するから援護してくれ!」みたいな関係ですね。お互いを助け合う関係。


 要するに、単独では不利だから、支援兵力バックアップが必ずつく、という戦い方です。


 これ結構、基本のキだと思いますね。

 特に敵状不明で、いつどこから襲撃を受けるかわからない戦場では、常にバックアップとなる“もう一人”がついていてくれると、往々にして、一人では敗ける戦いに勝つことがあるでしょう?


 無限列車作戦の場合……

 “柱”クラスの隊士がもう一人、乗客に偽装するか、車内の某所に身をひそめるなどして、“伏兵”となってR獄さんの支援兵力バックアップを務めることが、最初から必要だったことを物語っているのです。


 かたや、鬼さんたちの側は……

 夢鬼ゆめおにさんの戦いをじっと観察しながら、強力無比な上弦の鬼君が背後に隠れていました。

 鬼ですから、味方の夢鬼ゆめおにさんのピンチを救ってやったりはしませんが、タイミングを見計らって現れます。

 夢鬼ゆめおにさんとの戦いで消耗したR獄さんに、最も有利な状況で襲い掛かるわけです。

 支援兵力バックアップなしで、孤立無援の戦いを強いられたR獄さんに対して、鬼軍団は、真打しんうちと言っていい上弦の鬼君を支援兵力バックアップの伏兵として控えさせていたことになります。これは賢い。


 そして……




●第三に、目的が矛盾する、二正面作戦にしょうめんさくせんを強いられたこと。


 無限列車作戦のR獄さんは、八面六臂の奮戦を見せます。

 しかし激戦中の彼が、いったん最前線を離れて、後方に下がる場面があります。

 後方車両に避難した、二百名の乗客を守るためですね。

 しかしそれはまた、倒さねばならない夢鬼ゆめおにさんとの闘いから一時後退することになり、夢鬼ゆめおにの首を自分の手で刎ねることができなくなることを意味します。


 このときR獄さん、事態に翻弄されていることになります。

 本人は顔に出さないものの、“夢鬼ゆめおにさんの撃滅”と、“乗客の安全確保”、この両立が困難な二つの命題に挟まれて、行ったり来たりしてしまいました。

 “ええいもう、どっちをどうせいっちゅーんじゃ!”

 彼がせっかちな関西人だったら、胸の内でそうぼやいたことでしょう。


 つまり、相互に矛盾する命題を両方同時に解決するという、無理難題の“二正面作戦”をこなさねばならなくなったわけです。


 物語では、T治郎たちが活躍したことで、“夢鬼ゆめおにさんの撃滅”と、“乗客の安全確保”が両立できましたが、R獄さん一人だったら、片方を果たすために、もう片方をあきらめる、といった結果にならざるをえなかったかもしれません。


 ということは……


 この無限列車作戦、“乗客を守る”ために、もう一人、専任の“柱”が必要だったということなのです。


       *


 つまり、問題点の第二と第三を合わせれば……


 無限列車作戦を問題なく完遂するためには、

 R獄さんの他に、隠された伏兵として、

 支援兵力バックアップとしての“柱B”

 “乗客を守る”ことに専任する“柱C”

 この二名がさらに必要だったのです。


 結論として……


 


 これが、物語から読み取れる真実だったのではないでしょうか?


 R獄さんは、単独ではもともと無理な作戦に、敵の情報が皆無のまま放り込まれ、支援兵力バックアップが得られずに二正面作戦で翻弄され、T治郎やNZ子たちの偶然の活躍に助けられて、ようやく当初の目的だけは果たすことができた。


 それが作戦の実態であり、そして……

 R獄さんの悲劇の本質だったのではないかと思われます。


 夢鬼ゆめおにさんとの戦いで相当に消耗した状態で、新たな、そしてさらに強力な敵に決戦を挑まれてしまったのですから。


 事前に夢鬼ゆめおにさんの戦術について情報を得ておれば……

 ピンチのときに助けてくれる伏兵の“柱”を用意しておけば……

 さらに、乗客の安全確保を引き受けてくれる“柱”を用意しておけば……


 かりに上弦の鬼を取り逃がしても、R獄さんは生還できたのではないでしょうか。


 R獄さんに加えて、さらに二名もの“柱”を投入する余裕などなかったのかもしれませんが、最後にカラス君が泣いて飛ぶシーンを思い出してみましょう。

 カラスが泣くからかーえろ。

 ……じゃなくって、続いて、悲劇の知らせを受けた、各地の“柱”たちの状況です。

 遊郭の監視など、それなりに仕事中の人もいるようですが、暇そうに散策しているとか、休憩中とか、訓練中……みたいな人もおります。


 二人くらい、無限列車作戦に援軍参加してやればよかったのでは?

 そんな疑問も、禁じ得ません。


 そしてなによりも、作戦に関する基本的な指示の有無です。


 “勝てばよし、でなければ敗ける前に逃げて、必ず生還せよ”

 と、命令が徹底されていれば……


 無限列車作戦は、そこそこ満足できる成果を上げて終われたでしょう。

 

 なのに、結末は悲劇的でした。

 すべて、最高司令官である、お館様の責任に帰することは論を待たないでしょう。




 【次章に続きます】

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