13●蛇足(2)……組織は巨大な鬼となる。
13●蛇足(2)……組織は巨大な鬼となる。
【前章からの続きです】
しかし続く1968年。
大型特撮番組たる『Мティジャック』は、異なりました。
純粋な民間の秘密武装組織だったのです。
隊員は表向き、色々な職業人を装っていますが、報酬の
そんな組織が、全長二百メートルを超える巨大万能戦艦を発進させる。
敵は国際的な悪の組織です。多国籍です。
飛行する戦艦は、世界各国に出しゃばることとなり、各国の領空や領海をずけずけと侵犯します。
この件、番組では完全スルーでした。知らん顔。
万能戦艦М〇号、その清廉な
どうみても原子力で飛んでいそうで、コバルト砲なんて物騒なものをブッ放すものですから……
各国、怖くて文句言えなかっただけではないでしょうか?
さすがにいろいろとご指摘もあったようで、2005年のコミカライズでは、この点が解決されていました。
万能戦艦が出撃するたび、正義の秘密組織はコールセンターなみに多数のスタッフを動員して、各国政府関係先に連絡、領空通過と戦闘行為の合意を取り付けていたのです。
ああ、もう、めんどくさい!
スタッフはみんな、そう思っていたでしょう。
しかし、世界平和のために絶対に必要な事前交渉(ネゴシエーション)であり、公的なお役所である警察や軍隊と異なる、民間の秘密組織である以上、宿命的な必須業務なのです。
スタッフだけでなく、膨大な札束(裏金)も必要でしょう。
各国の首相や軍人、自国のソーリ大臣すら買収し、必要なら脅しも効かさなくてはならないと思われます。
ここが『Мティジャック』の辛いところでした。
しかも巨大万能戦艦の運営母体が民間企業であり、営利団体です。
敵も、悪の組織とはいえ、おおむね民間の営利団体です。
しかも、実弾やミサイルを撃ちあい、殺し殺されます。
それって、あの贈収賄事件のJAXA、じゃなかったYクザ様の組織間抗争と、どこが違うのか?
いや、違いはあるはずですが、そんな、こむずかしい“オトナの事情”は子供の視聴者にはわかりません。
ここが、作品の宿命的なジレンマだったのでしょう。
ワンクール過ぎて『戦え! Мティジャック』として模様替えしたときには、万能戦艦の運営母体は、国連みたいな公的国際機関に変更されていました。
*
このように、正義とはいえ隠密の集団、とくに民間の秘密組織の活動には、世間の誤解を避けるため、さまざまな事前交渉(ネゴシエーション)が不可欠となります。
組織の活動を成り立たせるためには、ときの政権に対する裏口からの説明責任が問われますし、丁寧に説明しても、わかってもらえない場合は、懐柔も買収も脅迫もアリってことになるでしょう。
だって、わかってもらえなくても、組織は「ありき」であって、解散などありえないのですから。
で、K殺隊の場合に戻ります。
組織の活動に関して、最低限、我が国のソーリの厚いご理解が必要なことは明らかでしょう。
K殺隊をテロ組織に指定されたら、たまりませんから。
そこでソーリの立場を想像してみましょう。
ソーリ、もちろん鬼は恐いです。
鬼のボスが世界征服をもくろんでいるのなら、まず自分が鬼化の最重要VIPターゲットとして狙われているはずです。そこで……
「わしを守れ」とK殺隊のトップに命じます。
「もちろんお守りします、そのためのK殺隊ですから」と、K殺隊トップは答えるでしょう。そこで、ニヤリと笑って付け加えます。
「万が一の時もご心配なく、ソーリ。閣下が鬼に噛まれたら、痛くないように、すっぱりと首をチョン切って差し上げます」と。
そして青ざめて言葉を失うソーリに、「つきましては、これこれの便宜をはかっていただきたいのですが、ね」と、諸事万端、ぬけぬけとおねだりすることになるでしょう。
K殺隊が鬼を殺し続けるためには、なんといっても、鬼を殺すよりも先に、為政者の人間たちを権威的な圧力でコントロールしなくてはならないのです。
それが、K殺隊のトップを務める人物の、大きな仕事となるでしょう。
しかし、そうなりますと……
K殺隊、やっていることは、社会を裏から支配する、“悪の組織”と大差なくなるのではないか? ということです。
K殺隊の一メンバーであるT治郎には知るよしもない、ダーティな側面です。
いや、
鬼を殺し続けることによって、K殺隊のトップは、この国を実質的に支配することができるのです。
となると?
K殺隊のトップにとって、鬼の完全撲滅は、本意ではなくなります。
鬼がいて、この国の根幹を脅かし続けてこそ、K殺隊は存在価値を保ち続ける。
鬼のおかげで廃業する心配はなく、しかも、この国に君臨し続けることができる。
「戦争が永遠に続く状態こそ、好もしい」とのたまった、映画『バルジ大作戦』のドイツ戦車隊指揮官、ヘスラー大佐の
“敵”の脅威を前提とする、武力組織の本質ともいえるでしょうね。
軍隊は、仮想敵の増長があってこそ、軍備を拡張できる。
警察は、犯罪者の増長があってこそ、組織を拡大できる。
これを自前で作為的にやったとしたら……
みずから需要を作り出し、供給を拡大する。
怪物的なモンスター組織の出現です。
戦前のニッポンの軍部と軍閥は、そうやって朝鮮半島から満州そして中国本土の要所を奪い取っていきました。
いったん取ったら、手放すのは「やだ」となります。
その結果、ずるずると米英との戦争にまで手を出してしまいました。
最後のセリフは「手遅れだ、いまさらやめられない」の殺し文句でしょう。
そうやって真珠湾を奇襲、自分の国を実質的に滅ぼしました。
あ、そういえばあの、“五つの輪っか”もちょっと似てますね。
年が明けて2021年になって、「手遅れだ、いまさら中止できないよ」なんて声が押し通るようになったら、ちょっと怖いかも。花も嵐もコロナの死者も踏み越えて猪突猛進するのでは……と、心配になります。
で、ヒトラーも、やり方は似た者同士だったと思います。
1936年のベルリン五輪で舞い上がってその気になり……
1938年の“
組織というのは、どこかでタガが外れると誰にも止められなくなり、犠牲者の血肉を吸って、ぶくぶくと肥え太っていく傾向があります。お腹のバブルが弾けて潰れるまで、活動をやめません。
そう……これもまた、怪物的な“鬼”ですね。
個人だけでなく、組織もまた、“鬼”になり得るということです。
さて、K殺隊と、そして、鬼たちの組織は、どうでしょうか。
K殺隊にとって鬼組織は憎むべき敵ですが、ある意味、味方でもあるといえます。
だって鬼さんが絶滅したら、K殺隊の存在価値がなくなるのですから。
K殺隊からみて、鬼組織は運命共同体なのです。
そのことに鬼組織も気づきます。
鬼組織としても、K殺隊が滅んでしまったら、鬼たちを束ねて戦わせる意味がなくなり、組織を統率することができなくなるでしょう。
すると……
二つの組織、互いに依存しあい、慣れあって、そのうちベッタリと、一心同体化するかもしれません。
そうなると、両者は、表では殺し合いながら、裏口でボス同士が仲良く料亭でネゴシエーション、しちゃう関係となります。
派手に戦うふりをして、決して相手に致命傷は与えない。
それが双方にウインウインの関係を持続し、互いを繁栄させるのです。
もしかすると永遠に。
『K滅のY刃』のストーリーの中で、K殺隊と鬼の組織がウインウインになってしまうことは表面的にはあり得ないでしょう。
全世代向け、ファミリー向けの作品が、大衆の期待を裏切るわけにはいかないはずです。
やはり悪は滅びなくてはなりません。
それが大衆ブームにおける、敵役の運命です。
しかし現実には……
“組織”が巨大な鬼となって、とてつもない数の生命をむさぼり喰ってしまう事件が、おそらく毎年のように起こっていることでしょう。
その代表格が、“戦争”なのですが。
だから『K滅のY刃』がハッピーなエンディングを迎えたとしても、いつの日か鬼がよみがえり、いつのまにかK殺隊が復活することは、十分にあり得ると思います。
正義のためのよみがえりではなくて、両者慣れ合いで世界を支配するための復活かもしれないのですが……
それもまた、私たちが生きている、このリアル世界の“現実”なのですから。
“組織”もまた鬼である。しかも世界で最も残忍で巨大な鬼である。
『K滅のY刃』から読み取れる、もう一つの現実です。
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