12●蛇足(1)……秘密組織はネゴが大変。

12●蛇足(1)……秘密組織はネゴが大変。




 手前味噌で誠に恐縮ですが……

 私、カクヨムに『魔法自衛隊1964…雲の桂冠…』というお話を書いています。

 文字通り、魔法力を使って、魔物と戦う、自衛隊のような戦闘組織ですね。

 陸海空の三自衛隊とは別に、影の存在として密かに活動する、“魔法”を担当分野とする“第四の自衛隊”という位置づけです。

 しかし、魔法でもって魔物と戦うというのは、世間に誤解を与えるものです。

 魔法も魔物も、フツーの人の目には見えません。

 魔物がビルを崩しても橋を落としても、誰がやったのだかわかりません。

 魔物を相手に魔法自衛隊の隊員(42名の美少女魔法戦闘団)がド真剣に戦っても、要するに「勝手に暴れてそのあたりのモノをヒステリックに壊している」としか見えないのです。

 ただ暴れるだけでなく、対戦車砲や無反動砲もブッ放します。

 見た目はランボー少女ですね。ホントに乱暴です。

 器物損壊どころか大規模な市街戦。結果だけ見ればまるで怪獣です。

 当然、警察に睨まれます。

 美少女だから、ニコッと笑えば大目に見てもらえます……が、ちょっとズルイ。

 そこで、世間の人々、とりわけ警察の皆様に納得してもらえる状況設定を施して、誤魔化すことになります。カモフラージュです。

 魔法少女の彼女たちは、決して妖しい不良少女ではありません、みんな良いたちです。

 秘密の身分は特殊公務員ですが、世間的にはお嬢様学校の女子高生であり、同時にちゃんとした民間会社(四谷プロダクション)に就職していて、そちらから給与をもらう仕組みです。源泉徴収できっちり納税もしています。


 そのように、正義の秘密組織は昔から、いかにして世間体を繕うかに腐心してきました。


 いくら本人たちが正義のヒーロー、ヒロインでも……

 やっていることは、傍目はためには、やはり犯罪行為、なのですから……


      *


 そこで、『K滅のY刃』です。

 こちらはもっとヤバい。凄くヤバい。

 第一巻の最初で気になったのですが……

 家族を鬼に惨殺されたT治郎、遺体を自宅の敷地に埋葬すると、K殺隊への入隊をめざしてその場を離れることになります。

 しかしこれ、警察に見つかったら……いやきっと見つかりますね。

 家族の惨殺死体が埋められ、T治郎とNZ子が行方不明……

 八ツ墓村な猟奇殺人事件として新聞にでかでかと載り、T治郎は間違いなく犯人と目されて全国指名手配されます。

 まあ、そのあたり、K殺隊と警察の間で、うまく話がついていたのでしょうが。


 考えてみれば、この例に漏れず、警察との関係では、K殺隊はいろいろと誤解されがちであると思われるのです。

 なんとなれば、仕留めた鬼はみな、細胞分解して消え去ってしまうこと。

 これはK殺隊にとって、鬼殺しの行為を、証拠を残さない完全犯罪にできるメリットがあるように見えますが……

 鬼に襲われた人間が、鬼にされずに喰われていた場合、その惨殺死体は現場に残ります。

 そして、その下手人である鬼が斬首されて消えうせてしまった、となりますと……

 殺戮の真犯人である鬼は姿がなく、現場に残るのは、血糊ベトベトの日本刀を提げたK殺隊。

 これ、警察からものすごく疑われます。

 というより、フツー、完全に犯人と断定されますね。

 狂気の殺戮集団、現認げんにん

 面倒なことになります。

 K殺隊の隊員に殺人の冤罪がかけられます。

 自分たちは正義の味方の一員だと説明しようにも、公務員ではないので警察手帳みたいな身分証明がありません。しかも正体のよくわからない組織からたぶん現金で報酬を得ているうえ、おそらく納税なんてしていないはずですから……

 それって、暴〇団体のチンピラさんと変わりありません。

「ボクが殺したのは人でなく鬼なんです」

 なんて釈明しても、誰も信用してくれません。

「わかったわかった、署でゆっくり聞いてやる、しばらく泊まっていけや」

 そう言われて手錠ガチャリです。

 そんなエピソードが、『K滅のY刃』のストーリーの中にあるかもしれませんね。


 このような事態が頻発しますと……

 K殺隊は、恐るべきテロリストの陰謀集団(今風なら反社集団、ちょっと昔ならアノ宗教法人みたいな)として、警察に追われる身となります。

 おそらく軍隊も、K殺隊の壊滅に動くでしょう。


 かようにトホホな事態を避けるために、かねてよりK殺隊は政府要人・警察・軍隊との間で事前交渉(ネゴシエーション)を行って、「K殺隊は超法規的鬼退治集団である」といった取り決めをしているものと思われます。


 警察や軍隊から疑われるような事態が発生すると、社会の裏側でササッと動いて、総理に説明し、警察関係や軍関係の大臣を料亭でスズーイと懐柔し、現場でウロチョロしてK殺隊の行動を妨害する下ッ端の警官や兵士たちをチョチョイと追い払うだけの“超法規的な闇の権力”が発揮されなくてはなりません。


 要するに“黄門さまの印篭”が現場に必要なわけです。


      *


 ちなみに……

 なつかしき特撮ヒーロー組織を例に挙げてみましょう。

 まずは『Uトラマン』(1966)。

 登場するのは“科学特捜隊”という組織です。

 “特捜隊”なので警察系でしょう。お役所と同じ、公的な組織ですね。

 怪獣専門のインターポールみたいな国際機構の一部で、本部はパリにあるとか。

 銭形警部もご存じかもしれません。

 そんなわけで、怪獣は駆除の対象でなく、取り締まりの対象となります。

 タイホして、なるべく、星空の彼方へ保釈してあげる。

 バ〇タン星人が攻めてきたときも、戦争でなく平和的交渉による解決を主張する科学特捜隊キャップの姿、正義感が凛々しく輝いていましたよ。

 科特隊の職員はれっきとした公務員、きちんと納税しています。

 ネゴの小細工など必要なく、堂々と正論で世渡りする組織だったのです。


 次に、『Uトラ7』(1967)。

 こちらの“Uトラ警備隊”は地球防衛軍の一部であり、公的な“軍隊”でした。

 職員はれっきとした公務員、きちんと納税しています。

 公的な組織なので、ネゴ抜きで大手を振って戦争できたのですが……

 怪獣はみな“侵略宇宙人”とみなされ、問答無用で撃滅の対象とされていました。

 敵とはいえ皆殺しではないか、それでいいのか? 

 ……というアンチテーゼも生まれます。

 金城哲夫先生の脚本になる『ノンマルトの使者』は神回でしたね。


 そんな理由もあって、筆者は『Uトラマン』の方が好きです。

 軍隊とは違って、雰囲気がのどかで、明るいですから。

 仕事の役には立ちませんが、少年マスコット隊員を採用するほど、牧歌的なゆとりもありました。お子様を歓迎する科特隊でしたね。

 皆さん、楽しそうにお仕事してました。

 カレーライスのスプーンを掲げて飛び出すHヤタ隊員も、ね。






    【次章へ続きます】




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